見出し画像

海藻に惚れた人々: 豊かな海をつなぐために、今できること

海藻ってすごい。

海の生態系を豊かにするし、
二酸化炭素を吸収してくれるし、
その上、おいしい。

海藻食がまるで新しく「発見」されたように
世界中で脚光を浴びはじめているけれど、
日本では昔から食卓にあったものです。

ところが、ここ数年は海がやせて、
天然のアカモクやワカメはどんどん減っています。

気づいたら、磯がウニだらけになっちゃった。
気づいたら、海藻がなくなっちゃった。
気づいたら、魚がいなくなっちゃった。

…そんな未来は描きたくないぞ!と動き出した人たちで集まって、海藻をテーマに語り尽くす時間を持ちました。

スピーカーにお招きしたのは、以下の面々です。

————
・海藻からお弁当の惣菜カップを自作し、雑誌Frauからプレゼン大賞を得た小学生3人組「海藻キッズ」

・地元サーファーたちの磯焼け対策を語る、県議会議員の近藤大輔さん

・小坪漁師の植原和馬さんと、そっかの上山葉が語る「子どもたちとのワカメ養殖」

・全国の漁村で海藻を育てて「人と地域を元気にする」シーベジダブルの蜂谷潤さん

・パタゴニアプロビジョンズが制作した映像「海の解決策」上映
————

世界的に広がりつつある海藻食ブームの中で、改めて地元での動きを知るいい機会となりましたので、レポートを書きました。


まずは、スピーカーの1組目。雑誌Frauから「SDGsプレゼン大賞」を得た小学生3人組の動画をご覧ください。


小さい頃から海に親しみ、サーフィンも素潜りも楽しむ彼らが暮らしの中で思いついた素晴らしい活動!一言づつ、話を聞いてみました。

左から、しんのすけ、もか、そよ

<僕らがこの活動を始めたきっかけ(しんのすけ)>
 学校でSDGsの授業が始まりました。学んでいるうちに、僕たちにも何かできないか?と思いました。たとえば「ビーチクリーンをするのはいいけど、そこで使われているビニール袋は燃やすとCO2が出るからそれはどうなんだろう?」と思ったし、「浜に打ち上げられた海藻はどうなんだろう?何も使われていないな。これを生かせないのかな?」と思いました。それで、活動を始めました。

もか「今日、参加してくれた子どもには、おかずカップをあげます!」
写真中央は、本イベントの主催者、永井巧(一般社団法人そっか共同代表)

<工夫したことと苦労したこと(もか)>
 そんなわけで、最初は海藻からゴミ袋を作ってみたけど、うまくいきませんでした。そこで、発想を変えておかずカップを作ろうとなりました。工夫したのは、動画にはない、いろんな実験です。温度、水の量、グリセリンの量を変えて何度も実験しました。
 みんなでうちに集まって作っていたので、失敗した結果を一番最初に見るのはいつも私でした。みんな悲しむかな?と思って伝えるのが辛かったです。今は、なんとなく作れるようになってきたけど、成功率は低いからそれが課題です。今日は現物を持ってきたので、さわってみてください。

<海藻カップのこれから&新しいチャレンジ(そよ)>
 みんなで完成させたおかずカップは「海藻ってこんなことができるんだよ」と紹介できる素晴らしい製品だと思っています。これから、イベントで紹介していきたいです。
 あと、いま考えているのは、うどん屋さんをやって、海藻カップに薬味を入れてフニャッとなってそのまま食べられるようにすること。それから、これからチャレンジしたいのは、海藻由来のビニール袋を成功させることです。その袋で逗子海岸でビーチクリーンをしたいです。

触った感じはしっかりとおかずカップ。ほんのり磯の香りがしました


三人は実験の合間に、海藻の性質やお料理のしかたなどについて、地域のさまざまな大人にインタビューもしていました。(巻き込み力もすごい!)

<高橋先生>
 私は小坪在住の元学校教員です。海藻の研究をしています。8月の初めに「自由研究だ」と言って話を聞きにきてくれまして、交流センターでお母様方と子どもたちにお話ししました。そのときは、海藻のことを少々と研究の仕方についてお話ししたんですね。
 皆さん方、子どもたちの映像をご覧になっていかがでしたか?私はね、動画を拝見したときに驚きました。ピュアな心と前向きな心と熱意で、「えーっ!」と思いましたよ。感動を覚えました。それくらい、動画の作りが素晴らしかった。家内も一緒にびっくりしたんです。「5年生?!」と。三人の皆さんと保護者の皆さんの力が出ていて、本当に素晴らしかった。いい研究を、ありがとう!

葉山の漁師さんのひじき漁を海から見せていただきました。
写真前列にもかとそよ、後列中央が素潜りするシェフ、生江さん。
とれたてのひじきを焚き火と鉄鍋で炊く

<生江史伸さん>
 東京のフランス料理屋で料理人をしています。海藻キッズとは、(素潜りのコーチである)武藤さんのお引き合わせで5月に一緒に潜って海藻を観察し、採れたてのひじきで料理を作ったご縁があります。
 みんなの自由研究、素晴らしいです。一般的には、大人から子どもに教育をしなくてはいけないと考えがちですが、逆に僕が教わったと思いました。気付かされることはあってもアクションができる、壁を越えるということが大人はなかなかできないんです。そこを、子どもたちは軽々と超えていく。教え、教えられながら今後もやっていきましょう。
 うどん屋さん開くときは、僕も協力しますので!(ミシュラン三つ星シェフからの発言に、会場、湧く)

素潜りして、ひじき漁を見てから「海のじどうかん」で
生江さんがひじき料理を振る舞ってくれました。
「楽しい」「美味しい」「大好き」を経験で重ねることは、
何かを「守りたい」と思う気持ちを生む、何よりの源泉なのかもしれません。

子どもたちの発表は拍手喝采で終わりました。

次は、海洋環境や海の安全について自分達にできることを続けているサーファー集団「735スタイル」顧問の、近藤大輔さんより発表がありました。

僕らは、逗子湾の東側にある浪子の磯で、サーファーたちと海難救助訓練をしたり、磯焼けの原因であるウニの駆除をしています。

海藻は本当に大事です。二酸化炭素を吸収してくれるし、海洋生物の命の揺籠でもある。しかも、美味しく食べられます。ところが、この10年間、海の変化から海藻が減り続けています。ひどいところでは、まったくなくなってしまいました。

こちらの写真は、2013年の長井漁港です。海藻が豊かに茂っていますが、翌年の写真には海藻がほとんどありません。相模湾には2800haの藻場があると言われていますが、今、その90%が「磯焼け」でなくなりました。海水温の上昇で(冷たい海を好む)海藻が育ちにくくなったということもあるし、南洋魚のアイゴが北上し、海藻を食べてしまうという問題もあります。

今、逗子の浪子~大崎はウニだらけです。足の踏み場もないくらいのムラサキウニが、海藻を食べ尽くしてしまいます。海藻は、サザエ・アワビの大切な餌でもあるため、アワビの漁獲高は10数年前の1/10以下になりました。まだ海藻があった2016年くらいまでは、逗子の海にも黒アワビがあったんですよ。今はありません。このままでは、漁師がいなくなってしまいます。

三浦半島はハードコーラルの北限。本来、とても豊かな海です。ところが、そのなかでも生物多様性が豊かだと言われている葉山の柴崎でも、変化が止まりません。柴崎は、10年前くらいまではホンダワラ(一番CO2を吸収する)とアラメの森でした。そこでも今、90%以上が消えてしまいました。海藻があればプランクトンや小さな生き物たちが育ち、それを食べるキビナゴが育ち、キビナゴを食べるブリやイナダが育つ。昔は、小坪沖にもたくさんいたんですけどね。

さて、ではどうするか。

アイゴやブダイ、ウニなど、植食動物の増加を、海藻生産力の減退速度より抑えなくてはならない。海を持続可能にするには、原因の除去+海藻植え付け作業の両輪が大事だと考えています。そこで、735スタイルでは年に3回、磯焼けの原因であるムラサキウニの除去活動をしています。

そして、県立水産センターとの協働で、そんな磯焼け対策の効果を定点観測もはじめました。駆除によって海藻がどれだけ再生しているのかを、年に数回(11, 1, 3月)調査しています。

駆除するウニの中身は(食べ物である海藻が少ないので)スカスカ、売り物にならないのですが、「ただ駆除するよりも、キャベツを食わせてウニを育てろ」と言う人も多いため、キャベツウニも育てています。でもね、果てしない道のりですよ。毎回、200人が1時間半作業して、ウニが600-700kg取れます。数でいえば、3万個以上です。ところが、その後海に入っても、まったく減った気がしません。「潰したウニを海へ還せ」という人もいますが、それが増殖を助長するという研究結果もあります。

色々やる中で手応えがあるのが、ムラサキウニの堆肥造りです。葉山の石井農園と連携して、牛糞、おがくず、米糠の堆肥に駆除したウニを混ぜて「海山堆肥」を作っています。発酵温度は70度まで上がり、大体100日間で完熟堆肥が出来上がります。3万個のウニから7万トンの堆肥ができます。

いい香りの堆肥。ウニもいました
乳酸発酵した餌を食べて育つ石井農園さんの牛たちは
腸内細菌がいいのでしょうか、驚くほど穏やか!嫌な匂いも皆無です。


カジメの種付けもしています。葉山の柴崎沖、水深8メートルくらいの場所に種付けします。2022年5月には、「お、幼体が育っているかな、根付いたかな」と思いましたが、9月には食べられてなくなっていました。

そこで、今僕が注目しているのが「早熟カジメ」です。
カジメの生育には、本来は1年半必要なんですね。でもそれだと、育つ前に食べられてしまう。そんな中、6ヶ月でタネを放出する種が見つかりました。三浦市で群落を発見したんです。普通のカジメなら、ちょっと食べられてしまった時点で磯焼けとなりますが、これなら、食害されても再生が期待できます。

早熟カジメを藻場に放出することで、藻場が復活するか?ということで、今、神奈川県水産技術センターで種苗を育成しています。種を培養して増やして海に投入していきます。ただこれも、「相模湾の沿岸部で海藻を復活させよう」という割には施設が脆弱です。僕は一応県議会議員でもあるので、そこは政治力も使って、今後、強化していきたいと思っています。

このセンターでは、アカモクの培養もしています。小坪漁港とも連携して、早熟カジメを育成して藻場再生を目指すようになりました。海は広いから「誰ががやってくれる」では追いつかない。皆で協力しあって、やっていきましょう。

昨年12月。苗付けした赤ちゃんワカメ

さて次は、放課後、毎日逗子海岸で遊んでいる「とびうおクラブ」の子どもたちが小坪漁協の漁師さんに教わりながら育てている、逗子の養殖ワカメの話です。

一般社団法人そっか / とびうおクラブの上山葉が、写真で発表します。

一般社団法人そっか 上山葉
この5年間、とびうおワカメプロジェクトを担当している

これは、11月中旬、養殖わかめのための枠を作っている写真です。

早朝に出て、船にいっぱい浮のついたロープを積んで、逗子湾の沖に出ていきます。漁師さんが「枠」と呼んでいるのは、筏ですね。沖に筏を作って、そこでわかめの養殖をします。

とびうおクラブでは、この中で、ロープ1本分=40mを借りて養殖をさせてもらって、6年目になります。苗付は、海水温が安定して21度以下になる12月上旬にやります。細いわかめの赤ちゃんをぐるぐる巻いて、ロープを開いて挟み込みます。

わかめの成長って、地球上でも一番下二番の速さだそうです。竹の次に早い。3ヶ月で1.5m~2mになります。もう少し寒ければ、もっと早く育ちます。

強い西風が吹いても赤ちゃんが流れないように、最後はキュッとロープを締め直します

とびうおクラブでは、子どもたちが海に慣れているし、アウトリガーカヌーなどもあるので、植えっぱなしではなく、潜って成長を見ています。小さかったわかめの赤ちゃんも、収穫前になると2m以上、お化けのような大きさになります。

二月、大きくなってくると間引きをします。種付けしてから1~2ヶ月で少しずつ、大きいのを抜いていくと、残ったのがさらに大きく育ちます。間引き作業は、アウトリガーカヌーに乗って沖に出て行っていて、とても楽しい時間です。多分、子どもたちとこういうことをさせてもらえるのは日本中で小坪の海だけじゃないでしょうか。小坪漁港は豊かな海をどうにか繋いでいくために、子どもたちにいろんな経験をしてほしいと思っている。オープンでいてくれる。そこが素敵です。

アウトリガーカヌーからわかめの間引きをする子ども
わかめの枠の場所は、大崎公園からなら見える場所にある。
山の上から確認できるので、散歩の時に見てみてください。小坪は6丁の枠を入れています。
写真右は、小坪漁協の漁師、植原和馬さん。
子どもたちにわかめの養殖を教えてくれて、6年目です。

そんな風に育ったわかめは、2月中旬~3月頭、春が来る前に収穫します。

1)下の汚い部分を切り取って、本体と雌株を別々にする。
2)本体部分だけでっかい釜で茹でる。わかめの色が、一瞬で茶色からグリーンに変わる。
3)洗い、冷やし、脱水して、袋詰めして、分配

子どもたちは茹でたてのわかめが大好きです。旬のわかめは、なんといってもしゃぶしゃぶがおすすめ。雌株を茹でて刻んで卵かけご飯で食べてみてください。

ここで、子どもたちにわかめの養殖を教えてくれている小坪の漁師、植原和馬さんからもコメント。

写真左は、漁師だけでなく農業もやり、レストランも営む座間さん。写真右が和馬さん。

昔から小坪は天然わかめの漁が盛んでした。2月10日解禁で漁をしていましたが、ここ4~5年は季節が変わり、海水温が下がらず、3月下旬まで解禁できなくなった。そのくらい、海の状況が変わっています。

天然わかめ漁は、箱メガネをくわえながら作業します。「覗突漁(みづき漁)」というんですが、これができるのも1日2時間と決めている。この時間内に、昔は多い人で1日200kg切っていたが、今は100kgがいいところ。天然のわかめの量が、半分になっているということです。

こちらは、小坪漁協の旬カレンダー。
海藻類で見ていくと、アカモク、天草、ひじきは小坪では絶滅に近い状態です。

ほんの数年前まで、多すぎて「ジャマモク」と呼ばれたこともあるアカモクは、今では「何本かたまに見るな」くらいです。ウニの大好物で、出てきた先から食べられてしまうんですね。天草も、前はそれで寒天作ったりもしてましたけど、ここ2年はほとんど見ません。ひじきは波打ち際に少しあるのを観察できるくらい。漁はできなくなりました。

こんなに、たった数年で海藻を見なくなるなんて衝撃的です。とびうおワカメも、とれない。虫がつく、海水温が高い、楽しい間引きもできないと、状況が悪いのが続いています。どうにか、この風景を残したいと思うんですけどね。

正直、こうした海の状況は、海でよく遊んでいる子どもたちの方が見えている。大人世代の方が見えていない。知らない。漁獲高が下がり続ける中、漁港も変わろうとしています。「海の現状を知ってもらいたい」と思っていますが、海を知るには、どんな機会や場があるといいでしょうか?皆さんと一緒に考えていきたいです。

最近、とびうおっ子たちの間で人気の岩海苔あつめ。
田越川の岩壁にビッシリついたのを集めて...
焚き火でお餅と焼く!
しっかり洗わないと、砂がいっぱいです😂


地元の子どもたち、議員さん、漁師さんの話を聞けたところで、今度は視野を広げて考えてみましょう。

全国の漁村で高品質の海藻を養殖し、日本中はもちろん、世界中に海藻食を広げようと活動している「シーベジタブル」から、研究者の蜂谷さんに来ていただいています。

ここまで聞かせていただいて、逗子はとにかく素晴らしいなと感じました。この地域は、海藻偏差値が日本で一番高いんじゃないでしょうか。日曜日に市役所でこんな会を開いて、こんなに多世代の人が集まる地域は、僕が知るかぎり日本全国どこにもありません。

僕の話は、まず、クイズから始めようと思います。

「わかめとめかぶは同じ海藻でしょうか?ちがう海藻でしょうか?」

(会場の大半が「同じ」に手を上げる)

…いや、本当に素晴らしい。これ、知らなくなっている人が増えているんですよ。やはり逗子は、海藻偏差値が高い!笑 さて、ではもうひとつ。

日本には何種類の海藻が生えているでしょうか?

1)0-750
2)750-1500
3)1500以上  

答えは、1500種類くらい。
そして、この1500種類の海藻は、すべて食用にもなります。

良質なタンパク源であり、気候変動対策にもなる海藻食は、今、日本が世界を牽引しています。にもかかわらず、日本の海藻は年々減少し、海は痩せ、食文化も生産技術もアップデートされてきませんでした。

「日本から学ぼう」と世界から注目が集まっているのに、海藻の伝統的な食べかた・保存方法を知っている人も減り、知る人ぞ知る植物でしかなくなっている。日本は、この分野を本当はもっとリードできるはずと思っています。

そこで6年前、「海藻と生産技術と食べ方をアップデートしよう」と会社を立ち上げました。僕がもともと高知県で研究をしていたということもあり、まずは高知県で始めました。高知県には、昔から高級食材、香り高い「スジアオノリ」がありました。昔は全国で60トンとれていた食材ですが、減り続け、2020年には1キロも取れなくなりました。四万十川の風物詩だったのに、取れなくなってしまった。減っているなら養殖だ、と徳島県の吉野川で(養育面積が広くやりやすかったので)生産を開始しました。自然の中では温度管理はできないので、タネをつけたのを海に出します。立ち上げて最初、2015年までは60トンだった。それもとれなくなってきて、最近は日本全体で15-20トン。

本当は海で生産したかったのですが、海の状況的に安定的にできなくなってきているので、食文化を絶やすわけにはいかない、と陸上養殖を開始しました。海藻は「種」と言いますが、胞子から育ちます。海藻というのは、育つ過程でどこかにくっつきたがります。海藻の根っこは付着するためにあり、栄養は葉からとるようになっているんですね。なので、水槽の壁面に海藻をくっつけると、真ん中には空間ができます。応用して、海藻の根っこと根っこをくっつける技術を見つけて、桶の中で泳ぐように育てています。光を均等に浴びることができるし、収穫もしやすい。高知県では、地元の福祉施設や高齢者施設の方と協働することで、陸上養殖を行っています。

このやり方だと、1日に倍、一週間で10倍になります。
緑、茶色、赤の海藻の中でも、緑色は一番成長が早い。中でもアオノリは成長が早いです。

そんな風にして、アオノリの生産の話を落ち着かせることができた頃、海の現状を改めて知ろうと動き出しました。僕らのチームには、45年間海に潜り続けて、1年間で250日以上海の中にいる新井さんという方がいます。海の中をよく知っていて、知らない海藻はない、というような人です。「夏に強いアオノリないですかねー?」と聞くと、「●●川に~~っていうのがあるよ」というような人。その彼と一緒に日本中の海に潜り、日本中の研究機関とつながりながら活動を広げています。

さて、そうやって海藻の減少を調べてみると、日本では、この30年で80,000ヘクタール、つまり年に2000ha以上の藻場が衰退しています。このスピードがどれくらいかというと、10年ごとに海の中で、富士山1つ分の海藻の森が減っているということ。陸上で起こっている話なら「富士山1つ分の森がなくなりました」はものすごいニュースになるはずですが、海の中のことは誰も知らないのです。これが問題だと思います。

感覚としては、「最近コンブ取れなくなったよね」というのはあるけれど、詳しいところを知る人が少ない。そこで調べてみると、天然真昆布は、10年前に618トンとれていたのが、今は25トンになりました。とれないと単価は上がる。瀬戸内海にいくと、アマモが30年で7割が減少していました。

海藻はなぜ減ってしまうのか、という話ですが、「水温が上がったから、直接海藻が枯れる」というような単純な話ではありません。海水温が上がることで、藻食魚の活性化が進む。それが原因で磯焼けします。「水温が高いと摂餌活性が上がる」と言います。イスズミについては、水温が14度以下であれば、活動が急減します。水温が上がると、身体の重量の30%くらいの食べ物を食べるようになってしまう。気温1度の変化で一斉に海藻がなくなるのは、そういうことです。

海の生態系ピラミッドを理解していたら、底辺にある海藻が激減しているのは大問題だとわかります。話せば「そうだったよね」とわかることですが、この重要性に対して本気で取り組む人がまだまだ少ないのが現状です。

藻場が減っているのに、水温は下げることができない。じゃあ、何ができるかというところで、養殖藻場の話が出てきます。養殖でも、藻場は、生態系保全に寄与します。香川県では県を囲うように海苔の養殖がされていますが、天然だけでなく養殖藻場ですら激減しています。海苔は香川だけで10億枚(2000年)だったのが、どんどん減って、今は3~4億枚になりました。

じゃあ、どうしようもないのか?そんなことはない、と僕らは言いたい。


海苔は海の大豆。栄養価が高いが、その分育てるのも大変です。一方で、例えば、もずくなら栄養がなくても育つ。海苔の1/20の栄養で育ちます。北海道でも育ちます。

最近、大きいところでいうとセブンイレブンジャパンがもずくの購入を発表しました。「1000トンくらいなら売っていけると思う」と言っている。1000トンの取引があるというのは、どういうことか。1000トンのもずくの生産面積は、ちょうど2000ha。先ほど、1年間に枯れているのが2000haだという話がありましたが、枯れる速度を上回る速度で養殖を行い、買い手がいれば、海を守ることはできるのではないかと考えます。

というのと同時に、冒頭でも話したように、新しい海藻食文化を作りたいと思うのです。海藻といえば「お湯を通してポン酢」だけの海藻食からアップデートさせたいと思うのです。食べやすいわかめばかりを食べていたら、つまり、僕らがわかめ養殖を始めたら、漁師さんたちがやっているわかめの市場価値を下げてしまうとも思うから。だったら、今まで食べてなかった海藻がめちゃくちゃ美味しいことを伝えたい。それなら、海藻面積を広げながら、漁師の仕事を奪うこともありません。漁師さんとはパートナーシップを組んで、生産の現場を広げて行きたい。

海藻食をアップデートするために、僕らのチームには、海藻食専門のシェフもいます。石塚秀威といいますが、彼は世界中の有名料理店で働き、いま日本にいます。彼は、日本の海藻の中でも誰も触ってこなかった領域に興味を持っています。彼を中心に料理人というか、食文化開発者が5人もいて、研究、生産、出口の料理まで日々考えています。

めかぶの燻製、コンブ茶、ひじきカレー、海藻デザート… いろんな開発をしています。レシピが出来上がってから「これならカジュアルダウンできるね」というところを商品化しています。例えばこちらが、最近新発売した「ゆずひじき」です。ひじきには、冬に育つひじきと春に育つひじきがあるんです。冬ひじきは柔らかく繊細で、サラダみたいなのでそこに力を入れています。塩蔵の際、ゆずの皮も一緒に塩蔵すると香りがグッと入るんですよね。

…まだまだ聴いていたい中、時間がきて、すべてのプレゼンターの発表が終わりました。

パタゴニアプロビジョンズの「海の解決策」を視聴し、発表者と会場参加者が意見交換をして、会は幕を下ろしました。

パタゴニアプロヴィジョンズからは、こんな素敵な協賛もいただきました!


…いや。
ここからが幕開けなのかもしれません。

参加していた地元小学校の教頭先生が
「逗子の公立校でも、子どもたちと一緒に海藻を育てたい」と話し、

それを聞いた漁師さんが
「やりましょう! ただ、1校なら慈善事業でいいけど、全校でやるなら規模も膨大だから予算も必要だな」と言えば、

「それは、なによりのSDGs教育だ。予算を獲得する方法、具体的に考えていきましょう」と議員さんが言い、

「子どもだけでなく、大人もやりたい。コペンハーゲンでは “海の市民農園” が流行中で、沿岸の海を区画ごとに市民が借り受け、漁師さんに教わりながら海藻とムール貝の養殖をしていると聞いた。海藻はCO2を吸収し、ムール貝は海をきれいにする。”2030年までにカーボンニュートラル” を目指す同市では、市民に手を動かしてもらう形でこの目標を達成しようとしている」という話も出ました。

とびうおクラブ/そっかではワカメを養殖して5年目ですが、今年は食べきれないまま捨てられてしまうことも多いメカブを材料に、子どもたちとオヤツの商品化も目指しています。「町のスーパーの催事スペースに、子どもたちが育てたわかめとメカブおやつを持ち込んで、子ども店員たちと販売したい!」という夢を見る母たちが、試作をはじめています。

「海藻キッズ」は、実験で作ったおかずカップを参加者に配り、皆とても嬉しそう。あちらでもこちらでも立ち話に花が咲き、帰ろうとする人が少ない雰囲気です。思いのある役者は揃っているし、セクターを横断する横串も通りはじめていることを皆で感じ、熱量が高いままお開きとなりました。


海の状況は惨憺たるものだけれど、
決して、解決策がないわけではない。

三浦半島のこれからが楽しみだと感じることができた
とてもいい午後でした。

ご参加くださった皆さま、ありがとうございました!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?