呼吸の為の筋肉 番外編 ~胸郭~

さて、これまでに横隔膜、腹筋、骨盤底筋と呼吸を支える筋肉を見てきたが…………

今回は胸郭を観察していこうと思う。

本当は筋肉だけ扱うつもりだったのだが、この骨格の動きを説明しないと分かりにくいなと書き上げたので、これは番外編だ。

胸郭(la cage thoracique)

画像1

https://funatoya.com/funatoka/anatomy/spalteholz/J146.html より引用

胸椎(La colonne dorsale)と胸骨(Le sternum 胸の中心にある平べったい骨)を結ぶ左右十二対の肋骨(Les côtes)によって構成されている。因みに肋骨は、上から七つ……胸骨に肋軟骨(Les cartilages costaux)を介して一本ずつ結び付いている部分を真肋(Les premiers côtes)、それより下で肋軟骨に束ねられ、7番目の肋軟骨に収束する部分を仮肋(Les suivants côtes)と言う。また胸骨と結び付かない11番目、12番目は浮肋(côtes flottantes)と呼ばれている(分類によってはこれも仮肋に含まれる)。


胸郭の動き方

実は呼吸時に胸郭は二種類の動きを組み合わせたり、片方だけ使ったりして動いている。その二種類の動きが、バケツハンドルモーションとポンプハンドルモーションだ。


バケツハンドルモーション(anse de seau)
所謂、肋骨を広げる動き。

画像2

Anatomic pour la voix (Blandine Germain) p55より引用

吸う時(吸気)主に仮肋が斜め上に伸びて広がり、肋骨と肋骨の間を詰める事で胸郭内の空間を広くする。
吐く時(吐気)
仮肋が斜め下に落ちて縮み、肋骨と肋骨の間が広がって胸郭内の空間が狭まる。


肋骨を支えるようにして息を吸うと横向きに膨らむのが感じられるのはこの動きがあるから。
なんでバケツの取っ手かというと肋骨一本一本の動きがそう見えるからだと思う。


ポンプハンドルモーション(poignée de pompe)
所謂、胸を高くする(上げる)動き。肋骨というより、胸骨が前後して、それに付随するように動く。

画像3

Anatomic pour la voix (Blandine Germain) p55より引用

吸う時
胸骨が斜め上に上がり、それに釣られて肋骨が伸びる事で胸郭の空間が広くなる。
吐く時
胸郭が斜め下に下がり、それに釣られて肋骨が縮む事で胸郭の空間が狭くなる。

因みに胸骨のどの部位を中心に動かすかで、肋骨の動きも変わってくる。

胸骨の上部(全体)、鎖骨の下辺り
全ての肋骨が平均的に広がるが、胸郭の空間は少し狭くなる。これだけだと若干浅い呼吸となるので個人的に歌には向かないと感じる。

胸骨の下部、胸の中心
肋骨の下部が主に持ち上がる様になる。胸郭の空間は割と広めに取れる。この状態をキープして腹筋を緩めると息継ぎの音がしにくい。


胸に手を当てて呼吸すると上下に動く、寝ている人の胸を観察すると上下に動いてるのはこの動きがあるから。
胸全体の動きがポンプの持ち手に似ているのでこう言う名前になっているのだと思う。

実際にやってみよう

歌っているとき先生から胸を高くしてとか、骨広げてとか色々と指示されて、じゃあ胸高くして歌うぞと思ったりしても、あれ上手く行かないぞ…………? みたいな経験は無いだろうか?
恐らくそういう時は、新しくやろうとした方だけを過剰にやり過ぎて、硬直してしまっているのではないだろうか。
確かに、先に上げた二つの動きの、片方のみでは胸郭が十分使えているとは言い難い。組み合わせて使って行くのが良いのだろうとは思うのだが、その為には普段自分がどう呼吸しているのか、どういう状態がより自然で、より楽に沢山息が吸えるのかを骨格単位で観察する作業をする必要があると思う。

ポンプハンドルのが得意、バケツハンドルのが得意、肋骨のここは動き易いが、ここは難しいなど骨格や筋肉の付き方によって様々な癖があるのは仕方ない事だ。
その上で、この骨はこう動く可能性があるを楽しんで試してみるのが一番楽に新しい動きに慣れ親しめる気がする。
骨自体の動きを細かく分析して、それを組み合わせて自分なりにこう使うとこのフレーズが楽に歌える! とか、いい声出る! みたいな事が割りと簡単に実感できる場所なので、是非色々と実験して欲しい。

さて、次回は呼吸の為の筋肉④…………肋骨周りの筋肉を次こそ取り扱う。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?