呼吸の為の筋肉⑤ ~肋骨の筋肉 その二~
前回の記事で胸郭、肋骨周りの内側の筋肉と見てきたので、
今回は外側の筋肉を見ていこう。
小胸筋(Le petit pectoral)
鎖骨(la clavicule)に付いてるかと思いきや肩甲骨(L'omoplate)の前に飛び出た鉤みたいな場所(鳥口突起 l'apophyse coracoïdeという)から第三から第五肋骨の脇に付いている。
Anatomic pour la voix (Blandine Germain) p120 より引用
ポンプハンドルモーションの肋骨を引き寄せ広げる動きをしている。また肩甲骨を前に引寄せたり、下げたりする働きがある。
肩甲骨を前に引き寄せると背中が丸まり、肩は前に出る。所謂巻き肩と呼ばれる状態だ。巻き肩になっている人の多くは、この筋肉がガチガチになってる事が多い。
特に机に向かう事の多い人は知らず知らずにこの筋肉を酷使しているので気を付けて欲しい。
小胸筋を緩めよう
肩甲骨を後ろに引き寄せようとすると、逆に固めて使いがちなので、肩の尖った所辺りを反対の手の指先で軽く押すようにして、腕を下から横へと開いて行く。徐々に肋骨に向かって小胸筋の上を移動してマッサージする。途中、痛いところは強くは押さず腕を開く回数を増やすような感じでやると良いと思う。
ある程度解れたらグリコのポーズ(Y字に腕を開く奴)をしてそのまま腕を前後に回すとより解れる。
根強い肩凝りの原因になっていたりするので猫背かな? 巻き肩かな? という人は是非お試しあれ。
大胸筋(Le grand pectoral)
これもまた厚い胸板を作る事で有名な筋肉だと思うが、その本当の大きさを皆さんはご存知だろうか?
Anatomic pour la voix (Blandine Germain) p121 より引用
鎖骨の内側、胸骨、肋軟骨、更には腹直筋から始まり、二の腕にある上腕骨の外側に一部がくっついている。これによって腕を横にぶらぶら振ったり、捻ったりする事が可能になるのだ。
また、あまり知られていない呼吸筋としての役割は肋骨上部を肩の方に……つまり斜め上に引き上げて、バケツハンドルモーションの肋骨間の間を開けるような作用をしている。
大胸筋を緩めよう
壁に肩の高さで掌を当てて逆側に向かって肩を開くように捻ってゆくとよく伸びる。
また手をぶらんとさせたまま円を描くように肩を回すのもかなり解れる。
肋骨挙筋(Les surcostaux)
脊椎の側面の突起から肋骨の背面に斜め下がるように付着している筋肉だ。
短肋骨挙筋(Le faisceau court)
長肋骨挙筋(Le faisceau long)
の二種類がある。これは脊椎の側の肋骨に付着しているか、更にその下の肋骨に付着しているかという違いだけで、どちらも収縮すると肋骨を斜め上に引き上げる役目がある。
主に息を吐くときにバケツハンドルモーションを助けている。
どちらかというと背中を丸める動きと考えた方が分かりやすい。
肋骨挙筋を緩めよう
椅子など台に手を置いて、背中を丸めながら息を吐く、背中を反らす時に息を吸うというのを五回ほど繰り返すだけでも効果的だ。但し腰でやってしまうとあまり意味がないのであくまでも動かすのは肩甲骨の間の脊椎が中心になって動くと考えると良いだろう。
四つん這いになって歌ってみたら…………
発声法の本などで割と取り上げられる四つん這いで歌うと良いという説、勿論、直立状態と重力の関係で、喉頭や首周りにかかる力が違うから楽というのもあるのだが、実の所、今回取りあげた三つの筋肉の動きが、大きく関わっているのではないかと思う。
何かと、猫背になりやすい現代人にとって、この三つの筋肉は硬直しやすく、それによりバランスが崩れて頭が支えきれず、更に硬直する。という悪循環が起きがちである。
これは肋骨の柔軟性、つまり肺活量にも悪い影響を与えている。それを回避するのには、腰の高さ程の台に手を付いて、程よく四つん這いになるという姿勢が良いのだろう。
踏ん張りきれないかなとも思うが、その状態で筋肉のバランスを上手く保つだけで難しいフレーズでも息が持つようになるし、高音もすんなり出たりする。
直立姿勢で歌えないものでも、このやり方で出来るようなら、この姿勢で練習を重ねると徐々に、直立姿勢でも歌えるようになるかもしれない。
次回は首周りの筋肉を取り扱う。歌と肩凝りの関係を考えていけたらと思う。
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