呼吸の為の筋肉① ~横隔膜~

前置きはこちらから

呼吸筋群とは

さて、歌で使う筋肉はざっくり言うと三種類ある。呼吸をするためのものと、声帯で声を作るもの、その声を調節する為のものだ。

まずは呼吸をするための筋肉を纏めていく。

呼吸…………吸って吐くと字の如く身体は吸うときと吐くときでそれぞれ違った動きをする。それは肺に効率的に空気を入れ、吐き出すという動作であるが、歌うという行為ではよく逆の行動をして空気を留める必要があったりするので注意をしたい。

また歌という行為では声門下圧(la pression sous-glottique)を調整する事も重要になる。声門とは左右の声帯とその間を含む空間で、その下部にかかる圧力…………つまり声を出すための息の量、息の塊の事だ。

さて、呼吸には呼吸筋群と呼ばれる胴体に散らばる筋肉が関わっている。これを努力呼吸…………歌うときの筋肉の動きで分類すると呼息筋(吐くための筋肉)と吸息筋(吸うための筋肉)に分ける事が出来る。

それぞれ

呼息筋…………声門下圧を増やす
吸息筋…………声門下圧を減らす

という効果がある。
また、筋肉がそれぞれ同時に収縮、伸展する事で、動作に対して協力したり、拮抗したりして呼吸という行為を成立させているのである。

横隔膜(La diaphragme)①

呼吸筋群最大の筋肉であり、安静時の呼吸で一番使われる筋肉である。つまり、寝ている時に息が止まらずに済んでいるのは、八割方この筋肉のお陰だ。

肋骨の下の縁に沿ってお椀が被さるように背骨(脊椎)と肋骨に張り付いている。心臓や肺をお椀の底に乗せ、その広がった先では腹横筋とも接している。中央部は腱中心と言われていてここでそれぞれの骨から出ている筋繊維が集合するような形である。
また上から見ると三つ葉のクローバーのよう、横から見るとなんだかクラゲみたいな形をしている。

主な働きは吸息。横隔膜には二種類の行動がありそれらを混ぜ合わせ息を吸っている。


・押し下げ(腹式呼吸)

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Anatomic pour la voix (Blandine Germain) p114より引用

腱中心が牽引し横隔膜全体が下に下がる事で、肺の容積を広げる事。しばしばお腹を膨らますと表現されるが、実際は横隔膜が下がっているから内臓が押し出されて膨れて見えるだけ。

・広げる(胸式呼吸)

画像3

Anatomic pour la voix (Blandine Germain) p114より引用

肋骨が上がっていて、腹部が引っ込んでいる(所謂胸を張っている姿勢)だと、腹部が抵抗する事で腱中心が下がる事なく固定化され、肋骨を胸郭内に引き寄せる。これにより肋骨を広げる事(胸腔の直径が広がる事)になる。


安静時の呼吸は

横隔膜が胸を広げる→肺が限界を迎えて元に戻ろうとする

という流れで吸って吐いている。が歌の場合はそれだけでは到底息が足りないので、上の押し下げと広げるを上手く組み合わせ、息を吐く段階で

腹部が張り出した状態を保つ
肋骨下部が開いた状態を保つ

この二つの状況を作り出すのが良いと言われている。
因みに腹部が張り出していたからといって必ずしも横隔膜の運動だとは限らない。お腹を膨らませた状態を保ったまま、息を吐いて吸うと自然と息が入る状態とか、吐いてる途中で止めて吸うとかしている時は実は横隔膜は動いていない。

また歌い手が良く胃腸が弱いのは横隔膜の酷使によるところが多い。色んな内臓に貼り付いた大きな筋肉なので硬くなる…………凝るとやはり色々と支障が出る。
この硬直に付随して肋骨の角度が開きすぎる傾向があったりする。暖めたり解したり、時には閉じるような運動をして労ってあげたい。

横隔膜(La diaphragme)②

さて、上では横隔膜の呼吸筋としての役割を述べたのだが、ここからは歌い手にとっては大切な働きをもう一つ述べたい。


さて、最初の図をもう一度見てみよう。

画像4

コトバンク(https://kotobank.jp/word/%E6%A8%AA%E9%9A%94%E8%86%9C%E3%81%AE%E5%BD%A2%E6%85%8B%E3%81%A8%E6%A9%9F%E8%83%BD-2098529)より引用

横隔膜は上から見ると三つ孔が開いている。背骨に沿っている大動脈が通る孔、大静脈を通す孔と左手にある大静脈を通す孔、そして横隔膜の下にある胃に繋がる食道を通す孔(食道裂孔)だ。

食道を上に辿って行くとそれにぴったりと軟骨に覆われた気管 (La trachée) が張り付いている。そしてその上には喉頭 (Le larynx) や、咽頭 (Le pharynx) が乗っている。

画像5

Anatomic pour la voix (Blandine Germain) p115より引用

良く喉頭を下げなさいと言われるが、実は横隔膜が下がっている時に咽頭は下がるのである。これを実感するにはあくびをするときに喉仏の辺りに触れると分かりやすい。あくびで息を吸った時、自然と喉は下がっている筈だ。

横隔膜を使おう


さて横隔膜の様々な機能を見てきたが、この筋肉は随意で動かせるものの、自律神経が支配する筋肉である。つまりストレスやその他で動きが小さく、悪くなりやすい筋肉だと言える。
息が詰まる。なんて表現があるがこれは横隔膜が動かなくて呼吸が出来ていないのだ。
そんな時、往々にして人は吐くという動作を忘れていたりする。意識して吐く。それが横隔膜を緩める事に繋がったりする。
また、胸式だけ、腹式だけとついついなりがちだが、横隔膜を下げつつ肋骨を広げたりなど複合的なやり方を模索するのも、その負荷を減らすには有効だろう。


横隔膜のストレッチ
仰向けになり膝を立てて息を吐き、五秒かけて吸い、五秒止め、五秒かけて吐く。というのをワンセットにして二、三回繰り返す。吐くのに合わせて横隔膜を自分で押してあげてもよい。寝る前にオススメ。


ヨガの呼吸
あまり詳しくは無いが、ヨガには完全呼吸というのがあるらしい。お腹をへこませて息を吐き切り、少し止め、まずは横隔膜を下げて吸い、その後に肋骨を広げ吸い続ける。限界を迎えたら息を止め、胸を広げたまま横隔膜を上げて吐き、徐々に肋骨を閉じていく。つまり、


腹式吸→胸式吸→腹式吐→胸式吐


という順番だ。
これは歌う前に一回やると感覚を掴みやすいと個人的には思う。

次回


#歌う身体を知ってみよう

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