プリファードエンド⑥

ちかみち

新学園都市の中央に位置するピラミッド型のホテルの最上階は展望室となっていて360°全面ガラス張りである。けれども新学園都市には他にも高い建物が多くあり、北東向きの景観くらいしか良い景色とは言えなかった。

朝食を食べるついでに新学園都市を少し散策しようとホテルを出て駅前の方に歩いて向かった。新学園都市の駅前は可塑性空間と呼ばれていて、平面的な土地利用でコンテナタイプのテンポやトレーラーハウスなど、ユニットタイプの建築物が点在しているエリアであり、広大な芝生の広場となっている。キッチンカーでケサディーヤを買って広場に座って食べることにした。

日曜の朝だからか分からないが家族やカップルが駅にたくさんいた。新学園都市の中では、スマホで呼べる完全自動運転のタクシーが動き回っているので、多くの人は自家用車を持っていないらしい。
こんな超次世代型の街で生活しているのに一体どこに出かけに行くのだろうかと疑問に思った。
竹中さんは研究者が不自由に感じることは無いと言っていた。
ケサディーヤを食べ終わったので、キッチンカーに食器を戻しに行った。その時店主に聞いてみた。
「ごちそうさまでした。」
「おう。まいど~。」
「昨日初めてこの街に来たんだけれど、道は広くて綺麗だし、建物も綺麗、治安は良いし、ハイテクで安全、でも休日はみんなどこかに出かけるみたいですね。」
「まぁ、何て言えばいいのか分からないけれど、この街には色味が無いんだ。長く住めば分かるようになると思うが、この街は綺麗すぎるんだよ。ゴミも落ちてないし落書きも無い。けれど、人の匂いもしないんだ。カオスが無い。」
「飲み屋街的なことですか?」
「まぁそうかも知れないが…もっとこう息が詰まる感覚だよ。兄ちゃん理系かい?」
「はい。一応。」
「じゃあざっくり言うと、この街は他の街に比べてエントロピーが増大しないようにコントロールされてるってことさ。」
「乱雑さですか。」
「まさに”乱雑さ”が抑えられている。研究者は自由だし、労働者も安心して暮らせる街で、全く抑圧されていない。なのに何となく抑圧されている空気感があるんだ。」
「なるほど。何となく分かった気がします。」
「あぁ、まぁでもいい街には変わりない。移住か研究か分からないが文字通り住めば都さ。」
「いや、観光みたいなものです。」
「そうか。まぁ人は見かけによらないってことだな。」
「?」

最後に言われたことの意味が良くわからなかったが、ホテルでチェックアウトをする時に気が付いた。新学園都市は、入る時にセキュリティがある。一般人は入ることすら出来ないんだ。そんな都市に”観光みたいなもの”は存在しない。そんなことが出来るのは相当な立場や権威のある者ということだ。そういう風に思われたってことだ。
今日も電車で移動することにしてもよかったが、空港に行く前に総理大臣とその娘に会いに行かないといけない。そんな要人との約束に万が一でも送れるわけには行かないと思ったので車で案内してもらうことにした。

ホテルのロビーで車が来るのを待つ。黒塗りの車が1台到着した。新学園都市内を無人で走るものではない。中からサングラスをしたスーツの男が降りてこちらへ近づいて来た。
あの車か。スーツの男は僕の目の前に立って1言だけ言う。
「行きましょう。」

車に乗り込むと運転手が居たが、都市内は自動運転だったので操縦はしてなかった。運転手はスーツは来ていたが普通のタクシー運転手のようなおじさんで、先程迎えに来たスーツの男よりも気さくな雰囲気だったので話しかけてみた。

「総理のところまでは何分くらい掛かるんですか?」
「1時間くらいですかね。都内で渋滞がなければ予定よりも早く着きますよ。」
「都内で?それまでの渋滞は関係ないんですか?」
「あぁ、新学園都市から東京の千代田区辺りまで一本の地下道で繋がっててね。これは、基本的には緊急時以外使えないんだけどまぁ今日は特別というかおまけみたいなモノかな。」
「おまけですか。」
「そうそう。ほらっあれのおまけ。」
そういうと新学園都市を出る南口のセキュリティゲートの外側に1代の黒い車が停まっていた。

「おまけって何のですか?」
「何ってそりゃあt」
運転手が話そうとしたら助手席に座るサングラス男が手を上げて静止した。
それを受けて運転手は言った。
「ダメだってさ。」
その後会話が終わってしまった。

南口セキュリティゲートを抜けてから直ぐに入ったトンネルがそのまま特別な地下道になっているのだと思って居たら、トンネルの途中の非常口の膨らみのような場所に停車した。すると道路ごと下りトンネルの安全通路の高さで止まった。そうすると車は安全通路内を少し移動してまた停車した。するとそこの地面がまた下り出した。今度こそ地下道とやらに入るらしかった。

地下道とやららは本当に一般的な道とは作りが異なっていて、幅が広いしカーブも殆ど無かった。トンネルの中の薄暗い景色が一生続いていて窓の外を見る気にもならずスマホでゲームをしていたら。運転手のいびきが聞こえてきた。どうやら自動運転だったらしい。この運転手はどんな人なのだろうか気になったがサングラス男が静止してから車内の空気は凍っていた。

40分ほどしてナビが『間もなく出口です』とアナウンスが入り。地面の四角い枠の中に静止した。すると四角い枠が持ち上がり今度は眼の前に立体駐車場の駐車装置みたいな物が出てきてそこに進んだ。すると、駐車装置が上下左右に何回か動き、シャッターの前に止まった。そこは駅ビルの立体駐車場の出口に繋がっていた。

「マジで映画みたいだな。」
「凄いだろ。絶対他にもあるんだろうなこんな秘密の施設が。俺はこの道しか知らないんだ。」
「ほんとに凄い。駅ビルの出口だとは思わなかったです。」
「あぁ俺も初めて知ったときは本当にびっくりして色んな奴に言いたくなった。…もちろん言わなかったけどな。」
嫌な間があった気がしたが1つ聞きたいことがあった。
「でもここってギリギリ港区ですよ。千代田区じゃなくて。」
「あぁ。それは、地下道は千代田区まで、出口は港区にもあるってわけ。」
「他にも出口があるんですか?」
「あるぞ。」
「どこn」
サングラス男が割って入る。
「そこまでです。向かってください。」
「官邸に行くんですか?」
「ええ。もちろんです。あ、あと携帯も時計も、その他小物類、とにかく何も身に着けて入れないのでよろしくお願いします。」
「わかりました。」


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