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§15 中空調子や雲井調子は平調子からできているの?⑤               お箏を弾く人のための「初めての楽典」   

第15回 中空調子や雲井調子は平調子からできているの?⑤

陰旋法系の調絃はどの絃に宮音があるかによって「宮=二」なら「雲井調子」、「宮=三」なら「中空調子」、「宮=四」なら「岩戸調子」、「宮=五」なら「平調子」、「宮=六」なら「曙調子」となることを説明しました。

音の高さに関わらず「宮音」の位置が重要だということです。

私たちは「五(一)」を「D(壱越)」に合わせた「平調子」にはよく親しんでいますし、「五(一)」を「G(双調)」に合わせると「五段砧」の「低調子」になることもご存知でしょう。別の方向から考えれば「二」を「D」に合わせた「雲井調子」や「三」を「D」に合わせた「中空調子」、「四」を「D」に合わせた「岩戸調子」や「六」を「D」に合わせた「曙調子」など「D(壱越)」に合わせる絃を変えてしまうことも理論的には可能なわけです。

「平調子」では13本の絃の全てが「宮・変商・角・徴・変羽」という「陰旋法」の音階に沿うことになります。ところが「平調子」以外の四つの調絃では元になる「陰旋法」には含まれていない音が存在します。

前回の表をもう一度見てみましょう。

「雲井調子」では「巾」の音は「八」の1オクターブ高い音(「二=G」の時であれば「三=八=巾=A♭」であるはず)になるべきなのですが、実際には半音高い「A」になります。この「巾」を半音下げて「八」の1オクターブ高い音に合わせた時は「本」をつけて「本雲井調子」と別の名前が付きます。

では、実際に「雲井調子」を聞いてみましょう。

次に「中空調子」を調べてみます。

「中空調子」では「宮音」が「三」にあり、「三」から「巾」までの11音が「陰旋法」本来の音になります。ところが、「七」の1オクターブ低い音になるはずの「二」は元の「平調子」の音のまま残ります。

実際に「中空調子」を聞いてみましょう。

ピアノであれば本来1オクターブの関係にあるふたつの鍵盤が違う音になっているということはよほど特殊な場合を除いて通常考えられません(プリペアードピアノと言って、特殊な調律を施す例はあります)。「雲井調子」の「巾」や「中空調子」の「二」は西洋の合理的な考え方とは別のものなのです。

むしろ、「雲井調子」の性格を表しているのが半音高い「巾」の音であり、「中空調子」の性格が「一」と「二」で作られる「掻き手(シャン)」の音にあると考えるべきなのです。割り切れなさの中にこそ美しさがあるのです。

「岩戸調子」と「曙調子」は今回取り上げませんでした。このふたつの調絃は古典箏曲の時代には曲の始まりの調絃としてではなく、曲中の移調(転調)として現れるのが通例です。現代箏曲では第13回で取り上げた「鳥のように」など「岩戸調子」系列の調絃で作曲された曲があります。

次回は「平調子」と「雲井調子」の関係について「五段砧」の調絃から考えてみます。

次回は9/2の予定です。

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