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§4 ふたつの日本音階          お箏を弾く人のための「初めての楽典」   

第1回では「ド・ミ・ソ・ミ・ド」の音を半音ずつ高く(移調)しながら歌う練習をしました。

「ド・ミ・ソ・ミ・ド」のことを少しだけ詳しく説明します。これは西洋音階のひとつである「長音階」で「主和音」を作る三つの音です。

「長音階」のことはもしかすると学校の音楽の授業で「長調の音階」と教わったかもしれません。

紀元前5世紀頃にギリシャの数学者ピタゴラスが計算によって導き出した「ピタゴラス音律」からおよそ1000年の時間を経て、西洋の音楽は「長音階」「短音階」というふたつの「音階」にたどり着きました。「音楽の父」と呼ばれるJ.S.バッハが活躍する時代より少し前になります。

「長音階」では最初の音を「C」とした時だけシャープもフラットも必要ありません。これを「ハ調長音階」つまり「ハ長調」と言います。「ハ長調」の1オクターブを音名で見ると「ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ・ド」と並びます。これらの音をもとにして、始まりの音がなんであれ「長音階」を「階名」で読むときは「ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ・ド」と歌うようになったのです。

例えば「へ長調」の「長音階」は音名「F」から始まり「B」にはフラットがつきますが「階名」では「ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ・ド」と歌うことができます。「音名」で「ファ・ソ・ラ・シのフラット・ド・レ・ミ・ファ」と歌わなくても良いわけです。

さて、西洋音楽では「長音階」「短音階」のふたつの音階が主流となりましたが、日本音楽ではどうなっているのでしょう。

飛鳥時代以降、中国と朝鮮半島を経て日本に伝わった「雅楽」は長く宮廷音楽として日本独自の発展をし、室町時代後期にようやく一般民衆にも普及し始めました。その当時の音階は雅楽の「呂(りょ)音階」をもとにしており、明るい響きを持っていたと考えられます。筑紫流箏曲にその当時の音楽が伝えられています。久留米の善道寺で筑紫流箏曲を学んだ三味線の名手であった八橋検校が「平調子」を考案したと伝えられています。この「平調子」は「呂」の音階から離れて、寂しげな響きを持ちます。

お箏を弾く私たちはまず「平調子」を作っている「陰旋法」と「乃木調子」を構成する「陽旋法」のふたつを身につけましょう。お箏を弾く方なら「平調子」の響きと「乃木調子」の響きというだけでこのふたつの違いがわかるでしょう。「平調子」は「短調」のような寂しい響きを、「乃木調子」は「長調」のような明るい響きを思い浮かべることが出来ます。

今回は「陰旋法」の最初の三つの音を発声練習してみましょう。第1回目の「ド・ミ・ソ・ミ・ド」と同じように「陰旋法」の三つの音だけを半音ずつ高く(移調)していきます。「平調子」で「五・六・七・六・五」と弾いた時の音です。皆さんは「ミ・ファ・ラ・ファ・ミ」と繰り返してください。

もしかしたら、ふだんお箏を弾いていて「平調子」には馴染みの深い方でも「ミ・ファ・ラ・ファ・ミ」は「ド・ミ・ソ・ミ・ド」よりも難しく感じるかもしれません。どうぞ何度でも練習してみてください。

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