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§14 中空調子や雲井調子は平調子からできているの?④               お箏を弾く人のための「初めての楽典」   

第14回 中空調子や雲井調子は平調子からできているの?④

「平調子」「雲井調子」「中空調子」「岩戸調子」「曙調子」は「陰旋法」によって作られている調絃方法であることを説明してきました。

今回はお箏の13本の絃の側からまとめてみます。

その前に、ここで一度「宮・商・角・徴・羽」について正確な説明をしなくてはなりません。

第6回で「宮・商・角・徴・羽」は日本音楽では「階名」として働いていることをお話ししました。しかし、実際には「きゅう・しょう・かく・ち・う」と声に出して歌うことはありません。音程の感覚が伴わない言葉なので「陰旋法」についても「宮・商・角・徴・羽」と単純に説明してきました。

日本音楽は雅楽と俗楽に分けて説明されますが「宮・商・角・徴・羽」という「階名」は雅楽からきています。雅楽の音階はいま私たちが「六段」を演奏するような憂いを帯びた音階ではなく、「乃木調子」や「楽調子」に現れる明るい響きの音階、つまり俗楽では「陽旋法」と言われる5音をもとに作られています。

ですから、「宮・商・角・徴・羽」の音を「陽旋法」と「陰旋法」で比べると正しくは次のようになります。

「変(へん)」というのは「♭」と同じ意味で「半音低くなる」ことです。「半音高くなる」ときは「嬰(えい」」と記し「♯」と同じ意味になります。

「平調子」のお箏で音を出す時に「六」と「九」で押手をして半音高くした音が本来の「宮・商・角・徴・羽」の音になります。これは「乃木調子」と同じ音の並びになります。

「陰旋法」をお箏の音楽に取り入れたのは八橋検校だと伝えられています。雅楽由来の「陽旋法」のうち、第2番目の音(商)と第5番目の音(羽)を半音下げることで、俗楽のお箏の音楽が雅楽とは大きく異なる性格を持ったのです。

しかし、「宮・商・角・徴・羽」の本来の音が「陽旋法」であるので、ここからは「陰旋法」では「商」と「羽」が半音下がった状態であることを正確に記すことにします。

「陰旋法」の第2音は「半音低いの音」という意味で「変商(へんしょう)」と記します。
「陰旋法」の第5音は「半音低いの音」という意味で「変羽(へんう)」と記します。
それでは五つの調絃を比べてみましょう。

「雲井調子」では「二」から「六」と「七」から「斗」に「陰旋法」の5音があります。「為」の「宮音」を加えると「陰旋法」の完全な2オクターブを見ることができます。

「中空調子」では「三」から「七」と「八」から「為」に「陰旋法」の5音があります。「巾」の「宮音」を加えると「陰旋法」の完全な2オクターブを見ることができます。

「岩戸調子」では「四」から「八」に「陰旋法」の5音があります。「九」の「宮音」を加えると「陰旋法」が1オクターブだけ完全な形で存在します。

「平調子」では「五」から「九」に「陰旋法」の5音があります。「十」の「宮音」を加えると「陰旋法」が1オクターブだけ完全な形で存在します。


「曙調子」では「六」から「十」に「陰旋法」の5音があります。「斗」の「宮音」を加えると「陰旋法」が1オクターブだけ完全な形で存在します。

私たちは「五=D(壱越)」に調絃したお箏にあまりにも慣れすぎていますので「平調子」の「宮音」は「D」であると錯覚しがちです。

大切なのは「宮音」の音の高さが何であろうと、「宮音」が「五」にあれば「平調子」であるということです。「五」を「C(神仙)」にしたり「五」を「G(双調)」にして「平調子」を調絃することはご存知でしょう。

ところで、「平調子」を基準に考えると「二と七」「三と八」「四と九」「五と十」「六と斗」「七と為」「八と巾」は1オクターブ違いの同音であって、それぞれ合わせ爪で調絃できるわけですが、「平調子」以外の調絃では必ずしも1オクターブの関係にならないところがあります。

上の表で水色に塗られた音は、その調絃にある「陰旋法」には含まれていない音です。

次回はこの「はみ出した音」について考えます。

次回は8/5です。

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