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§13 中空調子や雲井調子は平調子からできているの?③               お箏を弾く人のための「初めての楽典」   

第13回 中空調子や雲井調子は平調子からできているの?③

「鳥のように」の調絃

「鳥のように」の楽譜には「雲井調子より六・斗を1音上げ、五・十を半音上げる。巾は九の甲、一は四の乙」という指示があります。もし「平調子」を起点として調絃を開始するとしたら「平調子」から「雲井調子」に移行するために箏柱をまず4つ移動しなくてはなりません。最初が「平調子」ならば13本の絃のうち10本の音が変わります。最初から「雲井調子」に調絃できる方は少し手順が少なくなりますが「五=D」の「雲井調子」が「平調子」を経由することなく調絃できる方にはそもそもこの基礎講座は必要ないでしょう。

実はこの曲の調絃は次のように書き換えることができます。

「岩戸調子より五と十を1音上げる。巾は九の甲、一は四の乙」

手順はとてもシンプルになりました。しかし、更なる難題が出てきました。

「岩戸調子」

古典を長く続けられている方なら「雲井調子」からの転調で「岩戸調子」ができることをご存知でしょう。一方、現代邦楽の中では「岩戸調子」という言葉に出会うことはなさそうです。

「岩戸調子」では「陰旋法」の「宮音」が「四」にあります。「鳥のように」をレパートリーとする演奏者は

①「四」を「C」に合わせる。
②「四」から「九」の絃に「陰旋法」の1オクターブを調絃する。
③「五」と「十」を1音上げる(「八」と完全四度に合わせる)。

これで「鳥のように」の調絃の「四」から「九」までができあがります。残りの絃は1オクターブの関係で調絃します。チューナーは最初の「C」を合わせる時以外は使わずに調絃できます。

もし「四」を起点とした「陰旋法」がすぐに調絃できるようになれば、「平調子」の調絃をするのとそれほど変わらない労力で「鳥のように」の調絃もできるようになります。

さて、ここまでには「平調子」「雲井調子」「中空調子」「岩戸調子」という4種類の「陰旋法」系の調絃が登場しました。

「雲井調子」の「宮音」は「二」、「中空調子」の「宮音」は「三」、「岩戸調子」の「宮音」は「四」、「平調子」の「宮音」は「五」にあることはもうお分かりでしょう。そしてあとひとつ、「六」に「宮音」を置く調絃があります。これを「曙調子」と言います。

次回は「陰旋法」によって作られている5種類の調絃についてまとめてみましょう。

補足
主な調絃の名称はおおよそ各流派で共通ですが、生田流の「中空調子」は山田流では「曙調子」と、生田流の「曙調子」を山田流では「中空調子」と呼ぶ場合があるなどの違いもあります。また、特定の系列、派に伝わる独特の調絃名称もあります。

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