見出し画像

§17「唐砧」の調絃を考える        お箏を弾く人のための「初めての楽典」   

第17回 「唐砧」の調絃を考える

宮城道雄の「唐砧(からぎぬた)」は爪さばきの技量を華麗に発揮できる高音(平調子)に人気があります。一方で低音(雲井調子)は初心者でも演奏可能です。さらに中間部には三絃の腕の見せ所まで用意されています。大勢で演奏することも可能でとても楽しい曲です。

YouTubeにもいくつか演奏があるようです。三絃なしのものもありますが、やはり三絃がないとこの曲の魅力は半減してしまいます。

箏楽舎の発表会で生徒たちと一緒に演奏した動画をこっそりご紹介します。三絃は九州から箏曲北斗会家元である安武由香理先生をお招きして演奏していただきました。安武先生は九州系生田流ですのでスクイのリズムが弾みます。この演奏では三絃の演奏に合わせて、私の生徒たちにも頑張って弾んでもらいました。

https://youtu.be/qsjzf9_i2Ck

それでは本題に入ります。

<唐砧・音域の高い方の調絃>

このパートの名称:「高音箏」

調絃方法の記載:「平調子」

陰旋法の宮音:一=五=十=D=壱越

実際の音名で宮音の音の指示は書かれていませんが「三絃本調子・三絃の一(の糸)と高音箏の一・低音箏の二と合わす」という指示が書かれています。ここから「宮音=壱越=D」であるとわかります。これは三絃の知識がないと難しいですね。また、ごく稀に高音箏の一絃を五絃と同音にした演奏を見かけますが、高音箏の一絃は五絃より1オクターブ低くなることもこの指示からわかります。

おなじみの普通の「平調子」です。「一は五の乙(一は五の1オクターブ低い同音)」です。

<唐砧・音域の低い方の調絃>

このパートの名称:「低音箏」

調絃方法の記載:「雲井調子(一は五と同音)」

陰旋法の宮音:二=七=為=D=壱越

(注)「雲井調子」が低音(低調子)になっているときは楽器の最低音は「二=D」になります。バランスよく通常の六本の強さで糸締をしてあるお箏なら特殊な箏柱を使わなくても調絃できるはずです。場合によっては小柱を使うことになるかもしれません。ご自分の楽器がどれくらいの強さで締められているのかを調べるには下記の二つの動画をご覧ください。

「七の絃を使って張りの強さを判定する方法」

https://youtu.be/Bqz-W4zfYOg

「巾の絃を使って張りの強さを判定する方法」

https://youtu.be/K1TgAbA22Es

それでは前回と同様に高低二つの調絃をひとつの表にまとめてみます。

もうおわかりかもしれません。「唐砧」は「D=壱越」を「宮音」にした「陰旋法」で作曲された曲です。

音の高さのところだけ並べてみましょう。

(注)高音では「一」絃は「五」の1オクターブ低い音になり、「一」と「二」の掻き手(シャン)は「D」と「G」の完全四度の響きになります(Dの方が低い音)。また、低音では「一」は「五」と同音で「一」と「二」の掻き手(シャン)は「D」と「A」の完全五度(Aの方が高い音)の響きになっています。さらに「雲井調子」ですから「巾」は「八」の1オクターブ高い音よりもさらに半音高い音(十の完全五度高い音)になっています。

先生は、相対稽古で生徒と一緒に高音を弾いたあと「二」の箏柱を左に移動して高音の「五」より1オクターブ低い音にします。同様に「三」は高音の「六」から、「四」は高音の「七」から調絃して、あっという間に低音箏の調絃に変えてしまうわけです。

「陰旋法」が「調絃」の中でどのように使われているのかが明らかになりました。

次回は「平調子」を少し変化させた調絃について考えてみます。初心者の方にもおなじみの「花筏」や「つち人形」などの調絃を調べてみましょう。

次回は11/4の予定です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?