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舞台「サイボーグ009」に衝撃を受けた話


SF漫画「サイボーグ009」
萬画家・石ノ森章太郎氏の代表作であり、未完の大作。
それぞれ特殊能力を持つ9人のサイボーグ戦士の活躍や日常を描く長・中・短編の作品群からなる(Wikiより)。

言わずと知れた名作でもあり、詳細なストーリーは知らずとも、名前とビジュアルくらいは見聞きしたことあるという方が多いのではないだろうか。

私はというと、思春期にこの作品と出会ったことでとんでもなく狂わされ、その後「009」きっかけに石ノ森沼に落ち、そして今に至る。
私の趣味と嗜好と思想の根底には常に「009」があり、折に触れては読み返したり見返したりしている。それくらい影響を受けた作品だ。

そんな「サイボーグ009」、今年で60周年になるらしい。60周年!?すご。
60周年ということで色々公式側でも企画されているらしいが、その一環として今年の3月頃、突然発表されたのが「舞台 サイボーグ009」だった。

ぶ、舞台!?!??????

余りにも予想外過ぎて、最初は喜びよりも困惑と不安が勝った。
というのも、「サイボーグ009」、歴史が長いだけあり、やたらとメディアミックス展開やリメイクが多い作品でもある。アニメ化ももう何度してるんだ?Wikipediaで各キャラクターの欄を見ると担当声優がそれぞれにめちゃくちゃいて笑ってしまう。そんなことある?
だがそんな数多いメディアミックス・リメイク群の中で、あくまで個人的な考えではあるが、正直、納得いく/満足できるような作品は少ない。

その理由としてはいくつか考えられるが、まずはそもそも原作漫画の時点で何度か連載にリセットがかかったり連載雑誌を変えたりしており、そのたびに原作漫画自体の雰囲気が若干変わることが挙げられる。だから、どの連載時期に雰囲気を合わせるかで、アニメなども空気感が変わってくるのだろうなと思う。
あとは、原作が(特に初期は)古いというのも、一つ理由としてあると思っている。昭和に描かれたSF漫画であるからして、社会や科学技術の発展に伴いどうしたって一部の設定には古臭さが出てしまう。そういった部分はリメイクのたびにその時代の価値観などに合わせてアップデートされるのだが、そのためか、原作の持つテーマが薄まってしまったりぶれたりしてしまったりすることがある。ように思う。
まああとは好みの問題なところもあるのだが、つまるところ定期的にメディアミックス・リメイクはされるものの、ここ最近は個人的には微妙なリメイクが続いていた

ちなみに私が一番好きなアニメ化は平成版サイボーグ009、通称『平ゼロ』だ。本格的にハマったのも平ゼロからだし。
同意見の方は結構多いのではないだろうか。今のところあらゆる面で最も原作に忠実に作られたアニメだと思う。
リンク貼っとくのでよかったら見てみてね。

そんなわけで、「009」舞台化、正直全然期待していなかった。すみません。
もちろん、役者やスタッフは一流の方々が揃っているのだろうし、それなりのレベルにはなるのだろうとは思った。でも舞台としてのレベルが高いことと、それが「009」という作品として納得できるものなのかはまた別の話だ。
そんな気持ちだったから、舞台化の話が出た後も、観劇する予定を立てなかった。舞台鑑賞自体は好きだが、チケット代も安くないし、住んでる場所が関東圏から離れているので、東京に出向くのもお金と時間がかかるし…。
それだけのお金と時間をかけて、もし「舞台009」ががっかりするような出来だったら、金銭的にも気持ち的にも損失が大きいと思ったのだ。

そうして迎えた公演初日。
今日が初日か~くらいの気持ちで眺めていたX(旧Twitter)のTL。
なんだかんだ観劇した方の感想だけは気になるので、一応少しだけパブサしていた。
するとどうだ。
私以上に年季の入った009オタクたちからの絶賛の嵐。そんなに!?
そこまで言われると気になってくるし、ちょうど初日の公演がRakutenTVで配信されていたので、まあ1公演だけなら…と、恐る恐る配信を購入し、見てみた。


「舞台 サイボーグ009」の感想


※長いです。


メッッッッッッチャ良かった。


現地で観てないのに、配信で見ただけなのにめちゃくちゃ良かった。
良すぎて配信全部(初日・5/26日の昼/夜公演)購入したし全部見た。

なんでチケット取らなかったんだろう、と激しく後悔した。
舞台としてのレベルもとても高かった。その上で、「009」としての完成度も素晴らしかった。まさかこんなことになるなんて。
本当に、舐めててごめんなさいと思った。配信画面に向かって頭下げた。謝罪と感謝の意を込めて。
令和に見たかった「009」が見れた。満足感が半端なかった。舞台っていうかミュージカルだったけど。全然いいよミュージカルでも。

以下、「009」のファンとして、舞台の「ここが良かった」を述べていこうと思う。


キャスト

キャストの方々は、申し訳ないけれど半分くらい存じ上げない方々だったのだが、もう全員キャラクターのイメージ通りで驚いた。
「009」は先述した通り、連載期間も長いしメディアミックスも多い。その度に、キャラクターたちもマイナーチェンジが行われる。だから原作からして、キャラや設定が多少ブレていたりするのだが、それでも変わらない根幹とも言うべきポイントがある。
そこをしっかりと押さえたキャラクター付け、そしてそれを体現できる演技力・表現力・身体能力の方々たちで本当に感心した。
加えてビジュアル面も、あの漫画のデフォルメ効いたかんじ(002の鼻とか004の白目とか)をうまい具合に人間であり得る範囲に寄せていて、その落とし込み具合がとても良かったと思う。これは舞台ならではだなと思った。
単なる実写ドラマ/映画だったら、きっとビジュアル面ではもっと人間に寄せる工夫が必要になるだろうし、そうすると009たちのあの特徴的なビジュアルが活かせない。結果、魅力が少し減ってしまう。そうならないラインの攻め方が上手いと感じた。

●七海ひろきさん/009島村ジョー
ジョーを女性(元ヅカの男役)の方が演じると聞いた時、まず大正解だと思った。
ジョーはもちろん男性で主人公でヒーローではあるけれど、ある種女性のような繊細さと柔らかさを持った、どこか中性的なキャラクターでもある。そんなジョーを演じるのにピッタリな方だと思ったし、キャスト発表の時点で七海さんが演じるのだと知ったとき、私の生涯の推しであるジョーに関してはとりあえず大丈夫そうだなという印象を抱いた。
七海さんご自身のことはお名前聞いたことあるな~くらいの認識だったが、舞台上の七海さん/ジョーを拝見したとき、三次元に島村ジョーがいて本当にビックリした。
ジョーの抱える孤独や優しさ、勇敢さ、そういったものが見事に表現されていて、キャラクターの理解度が高い…!とひたすらに感心した。めちゃくちゃド陰キャな島村ジョー、解釈一致です。
アクションはあまり慣れていないとの話でしたが、全然動けていてとても格好良かったし素晴らしかった。全体の雰囲気は女性らしい柔らかさもあるのに、動きが男性なのすごい。さすが元ヅカ男役スター…!

天華えまさん/001イワン・ウイスキー
舞台でイワンってどうするんだろう?と思っていたが、声だけの出演で本体は人形。そりゃそうだよね~。
とは思ったが、天華さんのお声の演技も素晴らしくて、間違いなくそこにイワンがいる、と思わせる存在感があったと思う。てか天華さんも元ヅカの男役スターの方なんかい。そんな方を声だけで出演させるとは、なんて豪華な舞台なんだ。
聡明で淡々としたイワンの喋り方、イメージ通りでした。寝入ってしまう時のむにゃむにゃとした感じもかわいいし、0010戦のラストの、淡々とした中にわずかに感情が入ってきた感じも”らしく”てとてもよかった。

●高橋駿一さん/002ジェット・リンク
まず「009」の舞台化の話を聞いたときに、誰もが頭を過っただろう、「ジェットの髪と鼻どうするの」問題
それにポニテという回答で100点満点を出してきたの素晴らしすぎる。そして演者が高橋さんだったのも本当に大正解だったと思う。
高橋さんは何より、その身体能力の高さに驚いた。アクロバットすごすぎ!ほんとに飛んでる!?って5回くらい思った。
その身体能力で以て、大空を自由に駆けるジェットを見事なまでに体現していた。加えて、00ナンバーの中でも年若くやや軽薄な雰囲気のあるジェットのキャラクター作りも完璧だった。どの場面切り取ってもジェットだった
原作よりかは平ゼロジェットに近いかなと思ったが、その方がキャラ立ちもするので良いと思う。
ところでもしこの舞台009がシリーズ化したら、ヨミ編までやるんですか?高橋002と七海009で「どこ落ち」されたらしんでしまう私が。

●音波みのりさん/003フランソワーズ・アルヌール
フランちゃんがいた。そうとしか言えなかった。
美しく優しく、それでいてしっかりと芯があり凛とした気品のある佇まい。00ナンバーサイボーグの紅一点、フランソワーズそのものだった。
設定的に他のメンバーに比べ改造度が低めなので、原作では守られる立場になることの多いフランちゃんだけど、舞台のフランちゃんはバチボコに敵と殴り合っていてつえー女だった。つえー女、大好き。
あとフランソワーズと言えばバレエ。バレエの動きが可憐すぎると思っていたら、この方も元タカラジェンヌだった。元タカラジェンヌが3人もいるのこの舞台!?そりゃ七海さん/ジョーとのツーショも絵になりますわ。
ぴんと伸びた背筋。指先まで美しい所作。これぞヒロイン!という雰囲気があるのに、戦うときは勇ましく、ダンスもカッコよく、まさに003だった。

●里中将道さん/004アルベルト・ハインリヒ
動きがハインリヒなのめちゃくちゃすごい。身体のほとんどを改造されていて、機械部分が他のメンバーよりも多い004。その、ある種の”ロボットらしさ”をアクションや動きで表現されてるの、本当に目からうろこだった。
何より、あの腰を落とした右手マシンガンの構え!メチャクチャカッコいい!!重心低めなハインリヒ、個人的には新解釈というか今まであまり見なかったタイプな気がしてすごい良かった!
マシンガンやミサイル撃ってる時の体の反動を表現してるのも感心したし、それが舞台上の演出と相まって本当に撃ってるみたいですごかった。
なんとなく、今まで見てきた数多のハインリヒの中では比較的年若い印象だけど、舞台での設定はどうなってるんだろう。でもハインリヒには違いなかった。彼が自分の右手を見ながら「戦争が無ければ兵器なんてただのガラクタ」と発言するの、すごく印象に残ってる。サラリとそういうこと言うのがまたハインリヒらしいよね。

●桜庭大翔さん/005ジェロニモ・Jr

ジェロニモって三次元で再現可能だったんだ!?!?
って、本気で思った。あの大柄でマッシブなボディを再現できる日本人、いたんだ…!
公演中もあのボディを保つためにジム通いを継続されていたとか。本当にお疲れ様です!まちがいなくジェロニモでした。さっきから似たようなことばかり言ってて申し訳ないが、本当にキャラクターそのものな方々ばかりだったんだから仕方ない。
元々口数の少ないキャラだけれど、その分一言一言に重みがあるタイプで、それは舞台でも同様だった。物静かで優しく思慮深く、戦闘では勇ましく敵を蹴散らし、率先して皆を守るタンク役。少ないセリフでそんなジェロニモを見事に表現してらっしゃったと思う。

●酒井敏也さん/006張々湖
酒井さんは以前からご存知の役者さんで、酒井さんが張々湖だと発表されたとき、わかる~~!!と思った。
愛嬌のある役者さんで、雰囲気もピッタリ。あといつも張々湖みたいな髪型してるし。張々湖に関しては間違いないな、と舞台始まる前から安心感があった。
ところが幕が上がってみると、なんか思ってたよりダンサブルな舞台だったので、え!?酒井さんってそんな踊れる方だっけ…!?(てか張々湖ってそんなダンスするようなキャラだっけ!?)と心配になったが、イワン抱え係として最低限のダンスで済むような配置になってて、しかもそれが違和感無くて、演出の手腕に舌を巻いた。
張々湖は、原作からしてシリアスな本編に息抜きのような笑いと和みを生んでくれる癒し要因でもあり、酒井さんの醸す雰囲気と相まって舞台上でも見事にその役目を果たしてくださったと思う。

●川原一馬さん/007グレート・ブリテン
テニミュの葵剣太郎の人だ!と思った。と同時に、この方ずっと坊主なの?と思って今改めて画像ググったが、全然そんなことはなかった。普通に髪がフサフサのイケメンが出てきた。
グレートもずっとグレートだった!元舞台役者、という設定がフルに活かされたキャラクター付け、仰々しい芝居がかったセリフの全てが彼らしい。客席に絡みにいけるのも彼のキャラクターならではだと思った。
張々湖とセットで、舞台に笑いを生んでくれる数少ない存在。原作でも同様の役回りだけど、重苦しい話の中で彼らがいてくれるの本当に助かった。
あと、途中で披露されたタップダンスが予想外にカッコよかったので、思わず配信画面に向かって拍手してしまった。川原さんご自身の特技らしいが、どこかグレートっぽさもあって良いシーンだった。

●Toyotakaさん/008ピュンマ
関節いくつあるのこの方???本業はダンサーの方らしく、ダンスも身体を使った表現力もほんとにレベチだった。他の方々も充分上手いのだが、やっぱり本業の方は違う。
私は「009」が舞台化すると聞いた時、ジェットの髪鼻もそうだが、ピュンマもどうするんだろうと不安だった。ピュンマは水中戦に特化した能力を持つサイボーグ。でも舞台上で水中戦なんてできるわけがないと思った。だから、ピュンマはあんまり活躍の場をもらえないんじゃないか…と心配していた。
ところが蓋を開けてみれば、そんな考えは杞憂に終わった。映像演出に加え、Toyotakaさんのパフォーマンス力で見事に水中戦が表現されていた。これはもう本当にすごかった。圧巻のパフォーマンス。是非何らかの形でたくさんの方に見てほしい。
それでいて、真面目で聡明なピュンマというキャラクター性もしっかり演技で表現されていたのだから素晴らしい。この方にできないことあるの?

●大高洋夫さん/ギルモア博士
大高さんも以前からご存知の役者さん。ボウケンジャーのガジャ様が一番印象にあるかな。
ギルモア博士も、舞台化発表の時に正直「あの鼻どうするんだろう」と思っていたが、鼻が無くてもギルモア博士はギルモア博士だった。
ちょっとおとぼけたところがある、愛嬌たっぷりの、でも黒い幽霊団ブラックゴーストに毅然とした態度でNOができるみんなの博士。出番はそれほど多くないけれど、要所要所で出てきては00ナンバーサイボーグたちをふんわりとまとめてくれる包容力みたいなものがあったように思う。
あとカテコのときにバリバリに踊っててビックリした

●中塚皓平さん/スカール様
スカール様かっこよすぎないですか?黒い幽霊団ブラックゴースト入団待ったなしでしょこんなん。ショッカーとかに比べたら黒い幽霊団ブラックゴーストの方がまだホワイトな気がするし。ブラックだけど。
スカール様も出番はそんなに多くないんだけど、出てくるたびにマントを優雅に靡かせるのめちゃくちゃカッケ~!ってなってた。動きがスカール様すぎる!雰囲気とオーラがたっぷりの挙動が本当に素晴らしかった。欲を言えばスカール様のアクションも見たかったな~~ッッ!!
カテコで素顔を見せてくるのもズルいよ。好きになっちゃうよ(チョロ女)。
あと声が平ゼロスカール様の若本規夫さんにめっちゃ似てた。最初本人かと思ってびっくりした。

●滝澤諒さん(0010+/シキ)・相澤莉多さん(0010-/リク)
この二人はまとめて述べさせてください。双子だったので。
まさか0010±に泣かされるとは思わないじゃないですか。0010たちに名前がついてる時点で「ん?」とは思ったけど。
キャスト発表の時点で、0010がなんかえらいシュッとしてはるわ、と思ったが、舞台を見たら大納得だった。そしてこの方たちが演じてくれて本当に良かった。
0010±のときと、シキ/リクのときとの演じ分けが素晴らしくて、とても心揺さぶられた。洗脳状態の0010のときはひたすらに恐ろしく、双子の兄弟シキとリクのときは天真爛漫な仲良し兄弟で、そのギャップがまた悲劇を煽る。今回の舞台におけるかなり重要ポジションだった。
そして例に漏れずお二方とも身体能力がすごくて、アクションもかっこいい。動ける役者しかおらんがこの舞台。
アフタートークでの演者さんたちの仲の良さもとても良かったです。
5/25の夜公演(配信)でのカテコで、0010-が洗脳状態で出てきてそのままハケてったあと、0010+が出てきたかと思いきや途中で正気に戻って、シキくんの笑顔で客席に向かって両腕広げながら駆け寄ってきてくれたところでハチャメチャに泣きました。ずるいよ。
二人で天国(RE:ゼロのやつ)に行ってレストラン開きな。

●BG SOLDIERSのみなさん
いわゆるアンサンブルの方たちなのですが、この方たちのパフォーマンスが本当にすごくて、この舞台をしっかり支える縁の下の力持ちとはまさに彼らの事だと思った。
ヒーローたちがカッコよく輝くのって、やられ役の方たちがいてくれるからなんだと、強く思い知らされた。それくらい”見事な”やられ役たちだった。
00ナンバーサイボーグたちの能力を最大限魅せるために、派手に倒れて見せる、吹っ飛んで見せる、ブレイクダンスやスローモーションで表現して見せると、SOLDIERSの各々が八面六臂の大活躍。そういう役回りだから仕方がないけど、照明が当たっていないのがもったいない!と本当に思った。


脚本

原作の誕生編~暗殺者編(0010まで)を90分に違和感なくまとめたのが本当にすごいなとまず思った。無駄が一切ない…!
それでいて「009」に必要な要素はほぼ全て入っている。「009」入門作品としてもわりと適切だと思う。
「あの日俺は/私は」のモノローグで、各メンバーの改造されたいきさつをテンポよく見せてくれたのも良かった。みんなそれぞれに別々の過去を背負っていて、違う国・違う背景で生まれ育ったメンバーたちが仲間として共に戦い、家族になっていく。そんな過程が見えるのが「009」の好きなところでもあるので。
そして黒い幽霊団ブラックゴーストから脱出する展開に、0010の襲撃を被せるのがまた上手い。0010戦は、平ゼロで描かれた全員の能力を活かした共闘展開を取り入れることで、活躍のフィールドが限られる008たちに見せ場を作った。敵も含めて、ちゃんと全員に見せ場を作ったのは本当に脚本の妙だと思った。

そして一番の改変ポイント、0010±、シキ/リクの過去。
これほんっっっっと良かった
まさか0010にオリジナル要素足してくるとは思わなかったし、それが「009のオリジン」に繋がってくる流れが華麗すぎてもう感心しっぱなしだった。
もともと0010±は、倒された後に「兄弟なのに、死ななければ触れ合うこともできなかった」とかいう激重設定を明かされ、0010±の死を通して黒い幽霊団ブラックゴーストの非道さを思い知らされる、という役回りの敵だったのだが、彼らの過去が詳しく描写されたことは今までなかったと思う。
今回の舞台では、0010±に「仲の良い双子の兄弟」「孤独だったジョーの心を救った存在」「夢と希望を持って助け合って生きていた健気な二人(少年院には入れられてたけど)」というバックボーンが追加された。そしてそんな彼らが「改造され」「戦闘マシーンにされ」「ジョーたちを殺しに来て」「兄弟なのに、死ななければ触れ合うこともできなかった」ということになり、より黒い幽霊団ブラックゴーストの悪辣非道さを強調すると同時に、彼らの死を経て、ジョーたち00ナンバーサイボーグが「二度とこんな悲劇が生まれないように、この先黒い幽霊団ブラックゴーストと戦っていく」という決意を固める、という流れになった。
愛のため、戦い忘れた人のため、巨悪と戦う九人の戦鬼。「サイボーグ009」というヒーロー誕生オリジンのストーリーとしてあまりにも美しい。
「009」に欲しかった要素をしっかり全部入れた上で、無駄を省きコンパクトにまとめたことで、非常に濃い見応えのある脚本になっていたと感じた。


舞台演出

舞台演劇は、気が向いたときに2-3年に1度くらいの頻度で観劇する程度の嗜みの私だが、「舞台009」、演出もすっごくて度肝を抜いた。今時の舞台ってこんななの~!?!?
スクリーンに映し出される映像と、演者の演技のシンクロ具合がすごい。音楽や効果音、照明、光と影を存分に活かした演出も、物理的に舞台上で再現できないサイボーグ戦士たちの特殊能力を表現するのに効果的に使われていて、ずっと感心しっぱなしだった。
私が「009」の舞台化に期待できていなかったのは、舞台という場で「サイボーグ009」の物語が展開する様を想像できていなかったからというのがある。要は、できるわけがないと思っていたのだ。
だが今回の舞台は、私の貧困な想像力など軽く飛び越えて、見事に「009」の世界が展開されていた。
加えて、エンタメ要素もたっぷりで本当にありがたかった。00ナンバーサイボーグたちの戦闘はさながらヒーローショー。9人もいるサイボーグ戦士たちが、舞台上を文字通り縦横無尽に跳び回る。がんばえー!009ー!!
なんなら客席まで下りてくる。ほんとにヒーローショーじゃん。しかも客席に下りている様子は、BG SOLDIERSの皆さんが持つGoProで舞台上のスクリーンにも映し出されるので、どの座席の人でも楽しめる配慮がされているの、なるほどな~!と思った。


音楽

私存じ上げなかったんですけど、この舞台のメインスタッフ、ヒプシノスマイクの舞台を手掛けてらっしゃる方が多いらしいですね。
ヒプマイは詳しくないのですが、この「舞台009」でもちょいちょいラップみたいなのが挟まってて、ヒプシノス009になってたの、最初はちょっとフフッとなった。
というか、こんなに音楽が入ってくるとは思ってなくて、00ナンバーサイボーグたちが歌って踊り出した時はビックリして「!?」ってなった。ミュージカルじゃん。全然いいんだけど。「舞台009」っていうか「ゼロミュ」じゃんもう。でも公式がミュージカルって言ってないんで舞台表記に合わせます。個人的には公式の英語表記に合わせて「ゼロステ」って呼んでます。
それは置いといて。
歌も全体的にすごくよかった。メインテーマ曲?の「Zero zero cyborg, we stand right here! What number? what number!?」のやつ(曲名がわからん)めっちゃかっこいいと思う。もう1週間くらい頭から離れない。曲の配信は無いんですか?
このメインテーマ曲、「誰がために」のアレンジが入ってるところがまたグッとくる。昭和のアニメ2作目の009、通称『新ゼロ』の神OP。

映像は2012年公開の映画、「RE: CYBORG」通称『RE: ゼロ』のやつだけど。公式のやつがこれしかなかった。

曲もいいけど、演者の方々がまた皆歌が上手い。どの曲も安定して聴けて、それだけ物語にも没入できる。
戦闘BGMも、それぞれのキャラクターのイメージに合わせたものになっていてとてもよかった。ピュンマの紹介シーンで流れるコポコポした感じの曲が好き。水中感と同時にどこかアフリカを思わせる感じ。

それと配信を見返していて気付いたのだが、この演出方法だとミュージカル・ダンスパフォーマンス形式の方がやりやすいのだろうなと思った。
アクションもダンスの一環だと思えば、音楽やリズムに合わせて動きのタイミングも合わせやすいし、映像や照明の演出のタイミングも決めやすい。
音にバチッとハマった演技や演出は見ていて気持ちがいいし、音楽に合わせてテンポよくストーリーも進めることができる。
演者たちの身体能力(主にダンスパフォーマンス力と歌唱力)に頼る部分が大きいので、全ての舞台において同様の演出ができるとは限らないのだろうが、実力者を集めることができればそりゃ見応えの舞台になるだろうな、と納得した。


総括

令和のこの時代に、新しい形の「サイボーグ009」が見れてよかった。嬉しかった。
「舞台009」を企画してくださって、形にしてくださって、関係者の方々には本当に感謝しかないです。ありがとうございます。
そして、最初期待してないとか言ってて本当すみませんでした。
追加公演や次回作があったら這ってでも行きます。是非続編をお願いします。Blu-rayも買います。

「サイボーグ009」ずっと好き!


(おわり)





以下、自分語り。

おまけ:「サイボーグ009」の思い出

舞台を見て009熱が20年ぶりくらいに蘇ってきて、「009」と出会った日々のことを思い返していたので、ちょっとその思い出話をさせて欲しい。

最初に「サイボーグ009」と出会ったのはいつだったのかな。すっごい小さい子供のころに、カラオケで「誰がために」を歌おうとしていたことは覚えているので、そのころには存在は知っていたのだと思う。
ちゃんと作品を認識したのは、小学校入るくらいの頃。父の書斎の本棚で見つけた秋田書店版「サイボーグ009」第4巻。ミュートスサイボーグ編。
4巻しかなかった。なんでだよ。しかも今思えば乱丁もあった。
でも私はその4巻しかない009に夢中になった。何がそんなにツボったのかはわからないが、何度も何度も読んだ。全滅エンドなのに
その後、古本屋で見つけた2-5巻を買った。この辺りの巻はほんとに何度も読み返したので、すごく印象に残っている。0012以降の暗殺者編、放浪編、ベトナム戦争編、ミュートスサイボーグ編、そしてヨミ編(前半)。

そして小学生から中学生くらいの頃、いわゆる『平ゼロ』が始まった。
ガチハマりした
エグいくらいハマった。オタクに転がり落ちた瞬間だった。
原作もヨミ編まではなけなしのお小遣いで揃えた。その後文庫版をちょくちょく買った。
新幹線を乗り継いで石巻まで行った。ジェットに跨った(物理)

楽しかったなあ。今はもう社会人の身なので、あんなに一つのことに夢中になったり、何度も何度も同じ漫画を読み返したりができなくなってしまった。
時間がある学生の時にハマって、繰り返し「009」を読んだ経験は、今の私を確かに形成する要素になった。
今でも折に触れ戻ってくるのは結局「009」なのだなあ、と今回の舞台でも思い知った。

また一から読みなおしたいな。


(本当に終わり)

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