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『聖戦士ダンバイン』を見てメチャクチャになった

最近、『聖戦士ダンバイン』というアニメを見た。
1983-1984年放送、サンライズ制作のロボットアニメ。総監督は富野由悠季氏。

きっかけは、YouTubeのサンライズ公式チャンネルで無料配信していた1話を何気なく見たことだった。

そもそも『聖戦士ダンバイン』というアニメの存在自体は知っていた。
元々スパロボなどを遊んでいた経験もあり、物語の舞台がバイストン・ウェルという異世界であることや、ショウ・ザマという日本人の青年が主人公であること、乗機がダンバインというオーラバトラー(虫っぽいロボットみたいなもん)であること、途中でビルバインに乗り換えることなども知識として持っていた。
あと主要人物の大半が死ぬことも。

『聖戦士ダンバイン』の総監督が、あのガンダムで有名な富野由悠季氏であることも知っていたし、『ダンバイン』がいわゆる黒富野作品として名高いことも知っていた。
ここまで知っていながら、本編をろくに見たことがなかった。
本編を見てなかった理由は特に無く、単にきっかけがなかっただけで、前々から見てみたいな〜という興味はあった。スパロボでも活躍してくれるし。
そしてある日、YouTubeのサンライズ公式チャンネルで配信が開始されたという話を見かけた。
YouTubeなら見やすいし、公式が無料で配信してくれるならとりあえず1話見てみるか〜くらいの軽い気持ちで、とりあえず1話を見てみた。


気付いたら2週間で全49話を見終えていた。



1話を見終えた時点で、おもしろ!続きが気になる!と思い、探してみたらアマプラ for dアニメで全話配信されていたので、そのまま一気に見てしまった。
作品にそれだけのパワーがあるのも事実だが、それに加えて、ショウもマーベルも散ってしまうこと自体は知っていたので、彼らがどう生き、どう散っていくのか、1話を見た時点で彼らの生き様を見届けたくなってしまったのだ。

第1話。いきなりバイストン・ウェルという異世界に召喚される主人公の青年、ショウ・ザマ。
40年前の時点で異世界召喚モノをやっていて、しかもそれがロボットものであることにも改めて驚いたが、本当に急に異世界にポンと放り出されてマジでなんの説明もない
ショウも視聴者も「!?」みたいな感情のまま物語は進む。ここでショウと視聴者のこの異世界に対する知識レベルが同等なので、一応主人公と一緒に世界観については学んでいける。学んでいけるけど、初めて聞く単語が多すぎて初見では全くついていけなかった。後で1話を見直してようやく色々見えてきた感じだった。
そして話はわりと淡々と進んでいく。周りに言われるままにオーラバトラー・ダンバインを駆り、なんとなく操縦してみせるも、何と戦ったらいいのか、何のために戦うのか、ショウも視聴者も1話の時点では正直よくわからない。
同じ地上人であるトッドとの出会いや、マーベルとの戦場での出会いなどもあり、少しずつショウは自分の置かれている立場や事情を考えることになる。
その後色々あって、ショウはニー・ギブン率いるゼラーナ(戦艦?)の人々と共に、ドレイク・ルフトというバイストン・ウェルに戦乱を巻き起こす人物と対峙していくことになる。

どうでもいいけど「オーラちから「地上びとみたいな独特な訓読み混じりの単語が、なんとなく異世界感を高めてくれるなあと見ながら思った。一般的な感覚だと音読みしちゃいそうな単語なのにあえて訓読みにすることで、微妙な感覚の差異みたいなものを感じられるというか。

『ダンバイン』本編を見てまず驚いたのが、がっつり異世界戦記モノだったことだった。見てる感覚としては大河ドラマを見てる時のそれに近い。
しかもいろんな描写が非常に実直。特に国と国との争いの描写がよく言えば堅実で、悪く言えば地味だった。
一応毎話のようにオーラバトラー戦はあるのだが、単にロボット同士が戦うだけではなく、そこに至るまでに情報戦だったり陰謀があったり、奇襲や夜襲、騙し討ちなど、そこには様々な戦略があり、戦記ものとしても見応えがあった。
また、モンスター狩りや重機代わりの運用など、オーラバトラーの利用方法も多岐にわたる。整備や補給が間に合わなくて出撃できないといった描写もある。相手の補給経路を断つという戦略が取られることもある。
富野監督作品では割とあるあるな描写ではあるが、ダンバインやビルバインといった強力なオーラバトラーが1機や2機あったところで、多勢に無勢、個々の戦闘には勝利しても戦況が大きく変わることはほとんどない。
何話だったかで「戦争が一機のオーラバトラーの性能の良し悪しだけで決まるのなら、この戦いはとうに終わっている」的なセリフがあったのだが、本当にその通りだった。


生き生きとしたキャラクター

全体的に地に足のついた描写が多く、絵面に華やかさはあまり無い。ゆえにバイストン・ウェルという異世界に生きる人々の生活感が感じられたし、何よりキャラクターたちの”生きている”という手触りがすごかった。
皆が皆、己の考えと感情を持ち、時に誤ちを犯し時にすれ違い、時流に呑まれ身動きが取れなくなり、感情のままに動き戦火を拡大させ破滅していく。キャラクターたちの行動が予想できない。思考が完全には読み取れない。気持ちはわかったりわからなかったりする。
”こういうキャラクター”と一言で説明するのが難しいキャラたちばかりだった。何が悪で、どこに正義があるのかもボケーと見ているだけでは分かりにくい。
彼ら彼女らの生き様に圧倒され、散り様に翻弄され、最終回まで見た後はぽつんと一人取り残されてしまったような気持ちになった。

キャラクターたちについてもう少し語ると、私は『ダンバイン』を見たことで、主人公のショウ・ザマのイメージが一番変わったかなと思う。
ショウのことはスパロボのXとTで出会った程度の知識しかなかった。私がプレイしたスパロボでは、恐らくダンバインはほぼ本編後の設定で、ショウは聖戦士としてすでに確立していた。頼れる戦士として、若者たちに助言を送るような場面まであった。
だから私はショウのことを、とてもしっかりして大人びている戦士然とした人物なのだという印象を抱いていた。
しかし本編の、特に初期のショウは、ごく普通の若者だった
異世界に来て何が何だかわからぬまま流され、時に反発し、感情のままに苛立ち、淡い恋をし、叱咤激励を受け凹んだり舞い上がったりする。
そんな彼が、はじめは周りに半ば擁立される形で、最終的には自分の意思と決意で聖戦士と成っていく
成長とも言えるし、流された結果とも言える。少なくとも、彼は最初から聖戦士として戦うことを目指していたわけではなかった。
能力があるから、彼にしかできないから、そんな現実と周りからの期待を受け止めて、彼は最終的に聖戦士に成る。バイストン・ウェルに吹き荒れる戦嵐と、地上にまで溢れた争いの意思を食い止めようと戦いの中に身を投じることになる。
それはそれでカッコいいのだが、ショウがもしバイストン・ウェルに召喚されず、自分の自由意志で人生を歩んでいたら、どんな人物になったのだろう、ということは少し考えてしまった。

それと私は、トッド・ギネスがかなりお気に入りのキャラになった。
トッドが人気キャラなのは知っていたし、スパロボでもフラグさえ立てれば(立てなくても)仲間になり、その時点で魅力的なキャラだなあとはなんとなく思ってはいた。
本編を見たら思っていた以上に良いキャラだったので、正直本作の推しになった
ショウとほぼ同じタイミングで地上から召喚された地上人であり、聖戦士でもあるトッドは、しかし良くも悪くも突出したところがなく、ショウのように初陣で勇んで敵に挑んでいく向こう見ずなところもなければ、自分の利を投げ打ってまで反旗を翻すほどのお人好しでもない。
本当に、思考も行動も等身大の青年なだけのだ、トッドは。
だから彼に一番感情移入ができる。彼の行動が、一番理解できる気がする。
異世界だろうとどこだろうと、自分が得をするような環境にいたいだけであり、そのために障害となりそうなショウやバーンやアレンには噛み付く。特に、同じような状況に置かれていたはずのショウが敵側でめきめきと頭角を表し始めたことには焦り、苛立ち、ことさらにショウをライバル視していくことになり、最後はそのライバル心を暴走させ散っていくことになる。
散り際に残したセリフが「いい夢を見させてもらったぜ」だったのには、ショウと一緒に「これがいい夢でたまるかよ!」と叫びたくなった。もっと幸せになれ。
トッドが作中でこぼした「ショウは友達さ。俺にとっての良きライバル、命懸けの友達なんだ」という台詞はすごく印象に残っている。フェラリオのエル・フィノに対して吐いた嘘ということになっていたけれど、彼の本心でもあったんじゃないかと思っている。
敵味方同士ではあったけど、トッドとショウとの関係性はすごく好きだった。

関係性で言えば、ショウとマーベルの繊細な恋愛関係もとても良かった。
最初はニーに向いていたマーベルの心が、徐々にショウに傾いていく過程が、本筋と並行してさりげなく描かれる。合間合間に見せるマーベルからの確かな愛情や、ショウからの拙くてもどかしいアプローチなんかに普通にときめいていた。
マーベルは美しくて優しい素敵な女性でもあるけれど、同時に強くて逞しい聖戦士でもある。そんなマーベルの全部をひっくるめてショウは彼女に惹かれ、でもマーベルがあまりにも魅力的な人物すぎて、たびたび「俺では釣り合わない」「俺にはもったいない」等の発言をする奥ゆかしさがまた彼らしくて良い。
そんなショウにもどかしさを感じていたのは、私だけではなくマーベルも同様で、最終的に「私が欲しいのはLike meじゃないわ。Love meよ」という名言が飛び出し、オワギャ〜!!と思春期の少女のような反応(???)をしてしまった。
二人は明確に惹かれあっていたけれど、そしてそれをお互いに認識していたけれど、それでも最終的に恋人同士という関係にはならなかった。それどころではなかったから。
きっと全ての戦いが無事に終わったら、その時は晴れて結ばれていたのだろうと思える。まあ、そうはならなかったんですけど……

そのほかにも、ニーとキーンの関係とか、リムルを巡る色んな人たちの思惑ややり取りとか、物語後半の二人の女王たち(私はエレ様が超好き)とか、色んなキャラクターたちの複雑に絡み合う関係性が物語に厚みを持たせており、非常に見応えがあった。
国同士・お家同士の対立構造や、誰がどこの所属なのかとか、なんでこの二人が争っているのかとかが結構分かりにくく、真剣に見ていないとすぐ物語から振り落とされる。
そしてこれらはキャラクターたちの心情・感情の変化によってもすぐ揺れ動くので、そちらにも目を向けていないといけない。
ちゃんと見ようと思うと、わりと視聴難易度が高い作品だなあと思った。ていうかこれ本当に子ども向けアニメですか?
私の年齢は今30代くらいだが、今この年齢になってから見たからこそ楽しめたような部分が大きい。この作品を10年前に見ていたとして、果たして今のように心底楽しめただろうかと思う。この複雑な人間ドラマをちゃんと理解しきれずに、よくわかんなかったなあと感じて終わっていたかもしれない。


有機的なオーラバトラー

それとロボットもの?なのでロボの話もしておくが、ダンバインをはじめとするオーラバトラーの有機的なデザインもとても私好みだった。
明らかに昆虫がモチーフだとわかるデザインだが、カクカクしたいかにもロボットです!という形ではなく、全体的に丸っこくて曲線が多い。それが異世界感を出していてまた良かった。まあその分おもちゃとして売り出す時にデザイン面で苦労があったという噂は見聞きしたが。
そもそも昆虫という生き物自体が、非常に魅力的で多様なボディのデザインを持っており、それを元にしているオーラバトラーたちもまた多様で不気味でカッコよくて良い。
私は特にダンバインが好きだが、ダンバインを含むオーラバトラーたちの、甲虫の鞘翅しょうしのような形をしたオーラコンバーターが虫感を強めていて良い。あと三本指を備えた脚部も生き物っぽさがあって好きだ。ダンバインがよく相手のオーラバトラーにキックしながら足の蹴爪で装甲を引き裂く描写があったのが印象的だった。すごくかっこいいと思う(小並感)。
バイストン・ウェルに棲む凶獣(モンスターみたいなやつ)の生体パーツを用いて組み立てられているという設定もファンタジーっぽくてよかった。

そしてそこまで有機的でありながらも、オーラバトラー自体には意思は無く、徹底してあくまで兵器の一つであるという描写がされていたのも個人的には好きだ。個々のオーラバトラーも、おそらくほぼ全てが量産機であることを前提に建造されている。ワンオフ機なんて、それこそ後期主役機のビルバインくらいなんじゃなかろうか。そもそも前半の主役機であるダンバインが1話の時点で3機も出てきたので驚いた。
そして破壊されてもあくまで兵器、生き残って帰投さえできればパーツのすげ替えがきく。この辺の感覚はガンダムに近いなあと思った。
途中で話の展開上、仲間割れをしたと見せかけるためにショウの乗ったビルバインがマーベルの乗ったダンバインの首を落とすという、わりと衝撃的な絵面があるのだが、その衝撃的な絵面を逆に敵を騙し欺くことに用いていて舌を巻いた。


まだまだ語りたいことが結構あるのだが、そろそろ字数が5000字超えてきたのでとりあえず終わらせておこうと思う。
バイストン・ウェルが舞台だった時の雰囲気が好みだったが、地上(我々の世界)に来てからも怒涛の展開かつなかなか風刺的な面もあり、辛い話が続くのだが見応えはある。地上編についても色々言いたいが、また長くなるので割愛させて頂く。気になった人はぜひ見てほしい最後まで。

最後まで見て、私はメチャクチャになった

最終話のEDを見ながら「……えっ!?」って言った。ガチで。
その後一週間引き摺った。最近ようやく飲み込めてきたので、ヒトカラに行って「ダンバインとぶ(主題歌)」でも歌うか~と思ってDAMで歌ったら、出てきた映像でまた打ちひしがれた。
でもOPはめちゃくちゃカッコイイので一度聴いてみて欲しい。

※追記: 公式が主題歌PV出してくれたから差し替えたけどめっちゃネタバレ満載の映像だった(そりゃそう)

OP映像の最後の方の、「アタック アタック アタック」の3回目のアタックのところで、ダンバインが両手のオーラショット(マシンガンみたいなやつ)を左右に撃ちながら後ろに引いてくカットがめっっっっちゃくちゃカッコイイのでOPは毎話飛ばさずに見てた。見てくれ。


『聖戦士ダンバイン』、今年で40周年らしく、今ちょうど公式にやや活発な動きがみられるのでありがたい。
つい先日も、なんか完全新規造形のダンバインのプラモデルが出るとかで盛り上がっていた。

え~っめちゃくちゃカッコいいじゃん!!!とは思ったが、私そもそもプラモデルとか作る人でもないし、仮に作ったところで置く場所もないので…





予約しました。


11月に届くのが楽しみです。


(おわり)

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