7期ゲンロンSF創作講座(第3回)梗概感想

聴講生の縦谷です。受講生の皆さんが提出した第3回(お題:「2回以上ひねりなさい」の梗概の感想を掲載させていただきます。今回は初投稿ということで、張りきって全作品にコメントしてみました。

ご参考までに私の読み&書きの経歴は以下の通りです。

  • 主にゲーム系のシナリオライターです

  • SFはライトミドル層くらいです(人生で読んできたSF作品はおそらく500冊くらい)

  • 大学で文芸批評をしてました

  • 小説は純文学、一般文芸、ラノベ問わず浅く広く読みます。エンタメもそうじゃないのも好き

  • 新規性のある(と自分で思った)アイデアを喜びがちです

  • キャラの魅力、関係性のドラマ、設定の面白さ、ストーリーの面白さ、文体など、お話の各方面の魅力にバランスよく反応できる方だと思います

    それでは以下より感想です。


大庭繭 『きみの手のひらを裂いて』
「蟲」による感情の共鳴という設定の面白さが際立っていました。これまで3作拝見して、大庭さんの作風は「非現実な設定を使った感情や関係性の拡張」&「不気味で仄暗い空気感」だと(ごくごく勝手に)思っている次第ですが、今回も両者の持ち味を存分に活かされつつ、前者の持ち味を裏切る形でオチを作り、2回目のプロット的ひねりを得ても「わかりあえないけど、わかりあいたいと願う」という普遍的な思いに着地させたバランス感覚が見事だと感じました。

中野伶理『自(じざい)の夢』
自扗という設定アイデアが抜群に良いなと感じました(自在置物を知らなかったのでなおさらそう感じました)。歴史を使い背景をうまく肉付けし、フィクションにリアリティをもたらしている感じもわくわくしました。課題と照らし合わせたとき、オチとしてはもう少し意外な展開を期待しましたが、でも物語として熱いし面白いので、これはこれでよいのではとも。実作では晶久の伝統を背負う気概がぐっと伝わってきそうな、素敵な作品になりそうだなと感じました。

櫻井夏巳『私たちは眠りを喰らう』
「謎提示→解答→真の解答」という、「2回ひねる」という課題を華麗に達成されている梗概だと感じました。真の解答が1回目の解答よりエスカレーションして、規模感が大きくなっていく流れにも心躍りました。「子供は今の社会の最適解である」というテーマもひっそり提示されている感じがして素敵だなと。大人がワクチンを接種させて、子供たちを眠らせないことに成功したけど、その後太陽活動の低下が判明して「俺たち大人は愚かだ……」みたいな形にすると、取り返しがつかない感じが出たりして面白いかも?とふと思いました。

朱谷『蟲飼いたちの夏』
式見の「よく食べる&白くてきれいな肌」という外見を設定によって理由付けし、オチとして繋げているところに「う、うまい……」と唸りました。謎の提示も解答の明かし方もサラっとしていてご本人のコンセプトである「小さなひねりによる変化」が見事に作られていて洒脱ですね。2人だけの人外的な秘密を共有する特別な関係という結末もいいなと。恋愛ものとしては式見の感情の流れがちょっと見えづらいところがあり、気になりました(自分のミスで怪我させた相手に蟲を移植して助けた後、蟲飼いが増えたと喜ぶなど)。本編を書くとそのあたりの流れもうまく繋がる気もするのですが。え、式見は女の子じゃないの……?(という叙述ネタも入れてほしい)

みよしじゅんいち『ジャイロイドウケツ』
「知恵の輪のような生き物」という新奇性のあるアイデアに唸りました。内容としては幾何的なリテラシーを要求される梗概で、(高校時代に数学で7点を取ったことがある)私にはちょっと理解が難しいものでもありました。とはいえ本編を書くともう少し説明で補助線が引かれると思うので「読者が頭が良くなったように感じて謎の興奮と優越感を覚える」系の良き作品にもなりそうです。登場する生物や数学ネタを絞って情報を減らしつつ、三回対称形にすると殺せる理由付けを補強しながらバンパイプラナリアとの死闘をクライマックスの展開にして山を作るくらいのバランスが良さそうだなあと個人的には思いました。

雨露山鳥『繁殖する文庫本のパラダイムシフト』
本が自然繁殖していく、という設定がすごくいいっすね……。欲を言えば「物語の交雑によって元の物語が変化する」というところに、絵の具の比喩に加えてもう一段説得力が欲しいかなとも感じました。後半にしたがってスケールアップしていくのが面白いなと思いつつ、印税を巡って作家たちが骨肉の争いを繰り広げるとか、読書保守主義者たちによる交雑反対運動が起こるとか、手前でもう少し卑近で人間臭いドタバタも読んでみたいなと思いました。前回前々回に続いて雨露さんの「情報世界が物理世界を塗り替えていく」(と単純に言語化してしまっていいのか……)という話がとても好きで、今回も楽しく読ませていただきました。

藤琉『踊る森を背に』
言葉の欠片が蝶のように飛ぶ世界はおもしろそうです。弥太郎が俳句にのめりこんだ理由が、たとえば異能力的な設定によってもう少し補強・説明されるとより面白くなるのでは、と思いました。また、弥太郎が小林一茶であり、実在の句を使っている感じが現実と混ざっていていいなと。なので実作の展開のなかでこの情報をしっかり明かすと、モキュメンタリー感というかリアリティが出て面白くなりそうだなーとも思いました。


岡田麻沙『サイトウからサイトウへ』
言葉を使って言葉の外側に達しようとする試みを梗概の段階で体験でき、面白く読みました。こういう作風を書くのがあまり得意でないのでちょっと(かなり)憧れつつ、実作で関連性の低いコロケーションによる異化の作用がより強く、より捻じれた、より不可思議な像を結ばせるまでになると、底知れない作品になりそうだなと思いました。また、サイトウやメタバース・サイトウの設定がもう少し説明されると、全体の理解が深まって後半の大きな展開により没入できたかもしれません。

廣瀬大『告解』
梗概を読んでいると、どちらかというと未確認飛行物体に新しい人類として認められるとどうなるのか、というところが気になってしまいました。男はすでに新人類になっていて、なんらか能力があって、死んだ患者さんも実は……みたいな展開とかを勝手に想像しておりました。また、死んだ患者がソムリエである設定が何か次の展開に繋がるのかな、という期待があったので、ちょっと肩透かしを食らった感じがありました。

瀬古悠太『皇国の贄』
特攻の話をSF的想像力で拡張させるアイデアが良い意味で気色悪く、ラストの残酷さも相まって興味深く読みました。2回目のオチとしては、1回目「人体を使った兵器」をさらに上回るような、何らかの大きな驚きがあると、もっと面白くなりそうな気がしました。人体兵器がもっと気色悪い、もっと独特な感じになるとかですかね。でも実作の描写次第でこの辺り増幅されそう。また、史実の歴史観からくる一般的な日米の認識で考えると、米軍側は人体兵器を使っていない方がしっくりくる気もします。実作では病気の弟との会話シーンが実際に入ったりして、最後のオチでより心が抉られそうです。

やらずの『胎樹』
やらずのさんは一貫して「世界に対する不全感」をテーマにして梗概を出されているような気がしており、そこに強い個性を感じます。今回も梗概時点でその種の感情がこちらに伝染するような感覚がありました。「人を殺すとその補充として迎え入れられる」あたりの設定は理由を示すなどでもう少しこちらを説得してほしい感じがありました。ラストは、「私と娘は一体である」という感情を「同じ顔」という設定で強調しているような展開に見えましたが、これはすべての親子の愛情の由来は合一の感情のみである、という告発?あるいはこの主人公の視野狭窄がなせる感情なのか?というあたりちょっと気になりました。


夢想真『異次元からの来訪者』
展開のテンポが良く、梗概として読みやすかったです。ジェームズの記憶を取り戻すために、ルーズと小林が一芝居を打った必然的な理由があって欲しいなと思いました。「記憶喪失で人間だと思い込んでいる宇宙人」であるという設定を活かすとしたら、人間であるはずの自分が謎の症状に悩まされるとか、得体のしれない生態を持っているとか、そっち方面で悩むのもいいのかなと思いました。後半の囚人の登場や、異次元怪物の召喚はちょっと唐突さを感じました。

真崎麻矢『エンドレスサマー』
ボクシング、虎太郎と龍我の関係性、子供たちの存在、タイムループ、怪獣との戦闘、エンドレスシステムの存在などの各種設定が目まぐるしく、読んでいてちょっと混乱してしまいました。それらの設定の繋がりを捉えるのが難しく、読み手としてどう捉えていいのか難しかったです。映画のエブエブみたいな数多の世界を描いて読者をむちゃくちゃ混乱させつつもぶんぶん突き進む感じを想定している感じでしょうか?

羽澄景『小さな紙による大きな価値の破壊方法』
悲しい話だ……。2回のひねりにそれぞれ驚きがありつつ、そのひねりが「虚しさ」の感覚に繋がってくるのがとても面白いなと思いました。どことなく映画のセブンを思い出しました。良い話に終わらない殺伐とした感じが素敵です。欲を言いまくりますと、設定に面白いSF的なアイデアがあって、それがゲンの勘違いの理由に繋がったりするともっと面白くなりそうだなーと思ったり。それからゲンがほかの仲間を殺してしまうまでの気持ちの流れが段どりっぽいというか、個人的にはちょっと違和感があったので、そこにもう少し納得感が欲しいなと感じました。

広海 智『AIタウンへようこそ』
もふもふしている(勝手な想像です)熊五郎が頑張る姿が絵的にかわいくなりそうです。お話的にもテンポがよくまとまった実作になりそうですね。「自治を認めてくれた日本のやさしさ」のところは、AIたちが自分たちの命を差し出す決断を下すだけに、より掘り下げて書く必要がありそうだなと感じました。ここにAIたちの葛藤がありそうな気もしますし、あるいは人々を助けるプログラミングがされている、というような設定を入れて、そこから別の葛藤をひねり出すのも楽しそうです。少女たちが空井戸の装置を見つけられたのはなぜなのか、熊五郎的には捨てられた主人と再会するときにどんな気持ちなのか、あたりがもう少し知りたいなと思いました。AIに関する新規性のあるアイデアがもうひとひねり欲しい気もしました。

蚊口いとせ『努力の結晶』
比喩である『努力の結晶』が実際に見えるものとして存在する、という設定が図抜けて面白かったです。設定が「過程VS結果」というテーマに繋がっているのもすごく良いなと思いました。過程も数値化されたらめっちゃ嫌な世界だ……。欲を言いますと、努力の結晶が見える社会とはどんなものなのか、具体的にどういう人事考課が行われるのか、就活はどうなのか、はたまた婚活とかでも努力の結晶を見せ合うのか……などなど社会実装的な情報と、それに伴う展開があると、後半にかけてもっと盛り上がるのではないかと思いました。

ゆきたにともよ『赤紙』
史実の戦時中のイメージを織り交ぜてフィクションを語っていく感じが、虚構ではありますがリアリティがあり興味深く読みました。序盤に「村から人が消えている」みたいな謎を提示して、主人公がそれを解いていく形にすると、謎→オチという流れががはっきりしてよりわかりやすくなるかなとも感じました。あと実は秋良は8人の女性が全員でひとり、とかにするのも面白そうです。実作ではご職業を活かされて、担当の役所業務や書類の文章なんかのディテールを細かく描写すると、よりリアリティが出て面白いかも。

木江 巽『平塚パイセンの唐突に始まる夏』
設定がめっちゃ面白いうえに、考証が練られていて、木江さんのSF的蓄積というか底力を感じました。遠心力と重力が釣り合う場所が一等地、という想像も面白かったです。聞き違いオチも脱力感がありクスリとできて良いなと思いつつ、ズレたパイセンがキャラの立ったミステリアスな存在として非常に気になる感じで描かれていたので、未来の自分だった、という答えを超える予想を裏切る答えというか、予想の斜め上を行く先輩の真の正体(それがズレの正体だった!)とかが描かれたりすることをちょっと期待してしまいました。

渡邉清文『竜骨街の子供』
全体のトーンというか、雰囲気が個人的にすごく好みでした。SF的かつファンタジー的でもあり、とても魅力的な空気感、世界観だなと感じました。生物兵器が自分自身だったというオチも良い感じの驚きがあり、終始楽しんで読めました。実作はもちろん、このオチをきっかけに続編といいいますか、ここから始まる2人の逃避行的な旅をぜひ見たいなーと思いました。

岩澤康一『アンバベル』
ロンゴロンゴを解読するべく育った少女の話、という設定に興味を惹かれました。少女が独自の言語に到達した、というオチも面白かったです。最後の詩的なセリフで美しく終わるのも良いなと思いつつ、私としてはさらにお話がエスカレートするような展開もちょっと期待してしまいました。言語は架空の存在なはずなのに、ある日それを使いこなす謎の人が現れて……とか、少女が発明した言葉は超効率的で、AIに恐ろしい情報量の指示を与えることができて……とか、勝手に想像が膨らみました。


文辺新『プロセスの中の幽霊』
「コンピューター」の「幽霊」という組み合わせが斬新で、設定として面白いと感じ、コンピューターの幽霊が発生する仕組みが、現実のPCのシャットダウン画面のイメージとリンクしている感じが面白いなと思いました。後半の戦いのなかでコンピューターの幽霊独自の除霊方法だったり、独自の攻撃方法だったりのアイデアが膨らむと、より独創的な内容になるような気がしました。

諏訪真『私たちの子』
ラブドールを作る芸術家と親交を結んでいたが、別の女性作家に奪われてしまう、という愛憎劇(?)的なお話がなかなか異色で興味深かったです。最後のオチも怨念めいた愛を感じる不気味なタッチで印象に残りました。おそらく本文では描かれると思うのですが、梗概のなかでも「私」の奥崎江への強い気持ち、それを感じさせる一文や、それにまつわるエピソードなどが盛り込まれていると、気持ちの流れが想像しやすくなり、「男を巡って男と女が戦う話」としてより納得できつつ、本編のテイストがしっかり想像できるようになるかなと思いました。

宮野司『眩しくて暗い世界』
地底と金星に適応した人類が帰還した世界、という対比的なアイデアが面白かったです。地表人の設定も好きです。ミステリ風な事件もの仕立ての展開も小気味よく、最後まですらすらと読めました。地表人の復讐というオチも感情として納得感がありました。事件ものあるあるではありますが、いったん別の犯人が見つかって、最後のオチとして犯人は地表人でした!みたいなミスリード的流れがあると、謎が謎を呼ぶお話としてより楽しくなりそうだなと思いました。

森山太郎『白米取締官』
森山さんの作品にはいつもそこはかとないくだらなさ(良い意味です)やバカっぽさ(良い意味です)が織り込まれていて、とてもユーモラスで、個人的にとても好きなテイストです。米つながりの名前の小ネタだったり、うどんが緑色になるのが許せない香川人という動機付けも笑いました。ちょっとしたコンゲームのような騙し合いの展開も面白かったですが、緑色に光る米が世に出回ることによるひと悶着エピソード(米騒動的な)によって、取り巻く状況がエスカレートしていく展開がちょっと欲しくなってしまいました、というのが私からの米ントです。

むらきわた『ウイルスの可能性』
「人体が黄色がかっていく」という謎で引き込まれて、そこからテンポよく最後の展開まで読んでしまう感じで面白かったです。一方で、読み進めていく中で予想もつかないオチをけっこう期待してしまったので、光合成ができる人間であることが発覚したあと、そこからさらに不可思議な世界に引き込まれるような、ぶっ飛んだ、驚きを持った2の矢3の矢のオチが欲しい!と思いました。いや言うのは簡単なんですけど!思いつくのは難しいんだけど…!

カトウナオキ『終わりなき絆』
死んだはずの息子がなぜか生きていたこと、それを視界画像によって知ったというSF的な方向で引っ張った分だけ、その後の展開でアイデアの広がりが欲しいなと感じました。一方で、サヤトがエミの弟であった、という2回目のオチには驚きがあり、面白かったです。孤児であること、エミがだいぶ年上であることなどの隠れ伏線でうまくオチを補強している感じも素敵だなと。些末なところですが、人工妊娠器官がすでに政府から認可されているのであれば、サヤトはすぐに謎の答えにたどり着くのではないか、息子はなぜ自殺したのかの理由がピンとこない、などの点が読んでいて少し気になりました。

国見尚夜ギャンブラーが確実に儲ける方法』
この梗概はAIの設定無しで成立してしまうネタだと思うので、SFとしてどうだろう?とちょっと思ってしまいました。ただ人情話で終わるかと思いきや、最後のオチで一杯食わされる感じは、ボビーのギャンブラーのキャラクターと相まって、お洒落でよいなと。思い切ってAIを持ち込めるポーカーのルールにするなり、AIの予想を出し抜くためのSF的な仕掛けだったりがあると、SFギャンブル小説みたいなジャンルになって面白くなりそう、とふと思いました。

小野繙『私を抱きしめて』
全ての設定意図が百合の一点に収束していく感じがあり、作者の小野さんの百合への意志を感じました。未来からきた娘によって、同性婚が認められる紗奈と由貴の未来がわかり、そこから二人の気持ちが明らかになる、という流れは素敵ですね。男の子の存在によって、主人公が葛藤する展開もすごく良いなと思いましたが、染色体の関係上、男の子しか生まれない→紗奈は他の男と付き合う、という推理の流れが、リアリティライン的にはちょっと強引な気がしました(女性同士で子供が作れるほど科学が進んでいるなら、男の子も相手無しで作れたりしないだろうかとかちらりと思ったり)。

矢島らら『夢見るコイルのタイムリープ』
とても独特な内容なので、半ば混乱しながら読みました。出てくる発明のネーミングに適度な脱力感があり面白い。失恋コイルが自分の失恋の痛みを吸い取る装置ではなく、失恋させられた憎しみや怒りを攻撃に転じさせる発明なのがすごいアグレッシブだな……と思いました。梗概は各企業が自社製品を元に「夏休み工作キット」を作る、医療系専門校への入学を希望する、好きな漫画の話、などのやや筋から逸れた印象のある端々の情報提示が多く、読み手としてはちょっと迷子になる感じがありました。花火にモールス信号によるメッセージが送られてきて~以降は妄想っぽい描き方で面白いなと感じました。

佐藤玲花『小惑星サラ』
童話、あるいは寓話的な印象の話として読みました。小惑星や宇宙船などのSF的な舞台と幻獣の存在を組み合わせたときに想像されるような、奇妙でオリジナルな世界や現象がもっともっと見てみたいと感じました。その点で、ユニコーンの角が爆発したみたいな方向性はありなのかも。爆発によって起こる何かの現象が起きて、その流れでケルベロスを登場させ、独特な設定を披露して話を繋げる、といった流れてでSFっぽさに持っていくとか……?

谷江リク『あなたにお勧めの動画はありません』
「視聴サイトNailflixが突然意思を持った」という冒頭に引き込まれるものがあり、意志を持った視聴サイトならではのアイデアや展開をけっこう期待してしまったので、結果的にNaliflixがこれまでのフィクションで見られるようなAIに近い振る舞いをしているところにやや違和感がありました。映画のシーンを無数に組み合わせて台詞を喋ってくるとか(思い付きです)、視聴サイトらしいアイデアが盛り込まれてると素敵だな、と思いました(レコメンドエンジンの推理力、というところが実作ではより面白く描かれたりするんでしょうか)。聖帝サウザーのような番長の圧政に苦しむ高校生や、ウサギを取り返すなどのかわいらしい目的設定は、ディフォルメとして個性的だなと思いつつも、Naliflixの話と分離しているというか、お話のトーンが2つに分かれてしまっているような印象をちょっと持ちました。


鹿苑牡丹『真赤な人間』
終末的世界観や色彩鮮やかな情景を軸にした空気感を描きたい作品ではなかろうかと見受けました。梗概ではそのあたり想像しきれず、どちらかというと実作でディテールの描写込みで読みたい内容でした。カスラーズとスワシビリが二人きりで仲間を置いて逃げ出す理由が読み取れなかったので、決意に至るまでの流れや事情を、一部でも知りたかったです。赤雪を抜け出したが、最後に赤い海にたどり着いてしまう、という展開は意外性があり面白いなと思いつつ、二回ひねる、というお題としては、もう少し驚きがほしいなと思ったりしました。遊牧民族にだけ赤雪が害を及ぼす理由ももう少し知りたいなと思いました。

三峰早紀『演算子の悪魔』
高層タワーの最上層、ひとりで仮想通貨の採掘している男……というところで上田岳広『ニムロッド』を連想しつつも、オリジナリティもあり面白かったです。肝である「演算能力を直接的な流通貨幣とするために整備された仮想通貨」というところの抽象度が高くてちょっとピンとこなかったので、もう少し具体的な例が欲しいなと思いました(演算能力を保証背景とした金本位制みたいなもの?)。死に接するほどに演算能力が跳ね上がるという設定がユニークで面白いなと思ったので、現実世界の仮想通貨を想起させる「採掘」という言葉より、新たな造語を作った方がアイデアが映えるような気がしました。演算能力が増えた結果、未来の状態が予測できるようになり、結果として死線がくぐりやすくなり、それでさらに演算能力が増える、という再帰的なオチは面白いなと思いつつ、人が完全に予測できる未来に接したとき、たとえそれが死に近いギリギリの状況であったとしても、演算能力は上がるもののだろうか?という疑問が頭をよぎりました。慣れちゃって上がらない気もするというか。

宿禰『交換』
ママのたくらみで桃子の身体が乗っ取られるという1回目のオチ、そしてそれを花梨が奪い返す2回目のオチ双方に驚きがあり、まとまりも感じられて面白かったです。ママが花梨に自分の足を与えるという行為について、体の動きの悪い高齢の人間の足をもらうことがどの程度嬉しいのか、それは機械の義足よりもよいものなのか?というあたりの価値基準が見えづらかったので、実作を書かれる際にそのあたり技術説明なり、桃子や花梨のリアクションなりで補足してほしいなと思いました。また記憶のバックアップ技術と機械化技術がこれほど発達しているならば、ママは桃子の中枢を奪うのではなく、単純に自分の中枢を機械化すればいいのではないか、というところもちょっと引っ掛かりました。

池田隆『都市よ、どうか優しくして』
構成の整った近未来探偵ものとしてわかりやすかったです。物語の全体的な技術レベルや社会状況が現実世界の0.5歩先くらいかなーという感じがしたので、SFとしては10歩先、100歩先のAIが普及しまくり、フェイク情報が超高度化して氾濫している時代の話も見てみたいなとも思いました。最後の「地縁がAI技術を凌駕する」というのは、ローテクがハイテクの虚を突く逆転劇として面白いなと思いました。地元の生き字引きみたいなおじいさんが完璧に偽装されたはずのAIの情報の嘘を見破ったりするんでしょうか。

多寡知遊『三文オペレーション』
暗殺者の少女が、実はかつて異空間に飛ばされた老女帝の姉であり、さらにその原因となった事故のお詫びとして猫の遣いに時間を戻されてしまう、という2段オチが綺麗に決まっており、とても面白く読みました。中華文明風のネーミングや舞台設定も、宇宙ものSFとのギャップがあり素敵です。実作では、金糸雀がなぜ莉芳に秘密を打ち明けなかったのかの心情だったり、女帝の中に響く声の正体だったりをもう少し知りたいなと思いました。

小林滝栗『銀河系保険証紀行』
保険証SFいいですね。西暦三千年代でもフリーランスがあり、国民保険と社会保険があり、紙の保険証があり……というのがやはり読み手的には不思議といえば不思議で、これら旧来の制度が維持されている理由にもっと納得したいなと思いました。全体的に「SF的設定をもとにしてまだ見ぬ時代を想像した」というよりかは「現在の時代にSF的な設定を付け足した」という印象が強く、このあたりの主従が逆転ないし拮抗してくるといわゆるセンスオブワンダーみが増えてもっともっと面白くなりそうだなと思いました。ただ実作で『銀河ヒッチハイクガイド』的な脱力コメディを狙っているとすると、ここまでの指摘はツッコミどころとして昇華されるため、野暮になるのかもしれません。

戸田和『空っぽの国会』
「実は国会議事堂は空っぽなのではないか?」という冒頭の発想・問題提起がすごく面白かったのでグッと引き込まれました。冒頭の面白さの期待値が高いぶん、政治家はAIの傀儡であるという2回目のオチが予想の範囲内で、これを1つ目のオチにして、もっと驚きのある「実は……」が欲しいなと思ってしまいました。移転したはずの国会に行ってみたらそこは建物がなく空き地で、政治家もすべて架空の存在で、いや実はAIすらも存在してなくて……みたいな感じとか……どんどん実体がわからず謎が深まっていく展開で進めていったらめっちゃ面白くなりそうだなーと勝手ながら思いました。

坪島なかや『とらえぬ色の宇宙人』
悠馬、澪、澪の父親、ヒカリそれぞれの関係性や感情を丁寧に描こうとする意図がしっかり伝わってくる梗概で、実作の空気が伝わってくる内容だなと思いました。澪に対して悠真は、「好き」という以上の解像度でどういう感情を持っていたのか、悠真は行ってしまった澪に対してどういう思いを抱いたのか、そして科学者である澪の父に対して、悠真がどのような印象を思っていたあたりの感情が梗概の時点でもうちょっと知りたいなと思いました。また、実作の内容次第でもあると思うのですが、父親が澪を探すために宇宙人の生態を探っていることはなんとなくわかりそうな気もして、悠真はそこまで腹が立たないのではないか、という気もしました。父親のダメ感が上手く描ければ、また印象が変わるかもしれませんね。宇宙人の設定は率直にもう少し斬新さが欲しいなと思いました。


以上です!

感想において誤字、脱字、読み違え、勘違い、知識および読解力不足、意味不明瞭、思い込み、なんか偉そう、など諸々あるかと思いますが、ご容赦ください。

今後も聴講生として何らか感想やコメントを通じて受講生の皆さんと交流できればなと思っています。感想に対する異論反論質問などありましたら、ぜひ飲み会などで縦谷を見つけて吹っ掛けてみてください。それでは。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?