F-16供与を急がないといけない理由

"アメリカ国防総省のカール国防次官は28日、議会下院の軍事委員会の公聴会で、機体の供与や訓練も含めて実戦配備するまでには、およそ1年半かかるとの見通しを示しました。
これは、すでに使用されている機体を供与する場合で、新しい機体を供与するには最大で6年かかるとしています。
そのうえで「F16戦闘機を供与することが最良の選択だとは言えない」と述べ、現時点で供与は現実的ではないとの考えを示しました。
F16戦闘機の供与をめぐっては、バイデン大統領が先週放送されたABCテレビのインタビューで、ウクライナが必要としているのは戦車や大砲だなどとして「戦闘機は現時点では必要ない」と述べています。”

NHK

なーに言ってんだ、このクソジジイ共は

戦闘機の機種転換に掛かる時間

基本的に戦闘機の機種転換にはおおよそ3か月程度(T-4課程→F-15/F-2の戦闘機課程は100時間だが、F-2課程→F-4EJ改で20~30時間)と見積られる
ただし、旧ソ連系と西側のコクピットは基本的な設計思想から異なるので、実際の所は倍程度の時間を要するであろう。というのは理解できる

実際、下記の記事では西側戦闘機に慣れたパイロットでウィングマン資格に最短69日、編隊長で一年程度と見積もっている

ウクライナ空軍の損失と補充

翻って、ウクライナ空軍の損失であるが、MiG-29が18~28機、Su-27は6~8機喪失している

元々200機超のMiG-29をソ連から引き継いでおり、NATOのMiG-29の部品供与などで損失の補充には多少の余裕があるMiG-29に対して、Su-27は部品供給の余裕はあまりない。ソ連から引き継いだ70機超の内、実戦に投入できる体制だったのは開戦時で57機とされていたようだ。損耗を考慮すると、稼働機は30~40機(おおよそ2個飛行連隊程度)を切っていても不思議ではない

特に戦時では、整備や修理が不十分なままな事を強いられたり、戦闘外損失(低空飛行を強いられることによる事故、故障)で非稼働になる機体も出てくる(低空飛行を強いられるため友軍からの誤射や、シャヘド自爆ドローンの迎撃の際に破片に突っ込んで墜落した機体が複数ある)

現状、ロシアのスタンドオフ攻撃は、BoBにおけるロンドン空襲のような戦術的効果の薄い民間インフラ打撃に集中していたため、これらの航空戦力を徒に消耗せずにすんでいたが、春以降となるとこれまでの攻撃効果の低さと、インフラへの攻撃の効果が薄れる為、航空戦力を削るために空港への攻撃に転ずる可能性はある

そうでなくとも、Su-27だけではなく国内在庫のあるSu-24やSu-25の部品ストックは、戦争が続く限り減り続けていく上に供給源がない。最大の供給源と戦争してるからだ
NATOのMiG-29も、在庫の殆どをこの一年で出し切ったため、今後MiG-29の部品在庫も減少していく事はほぼほぼ確実であるといえる

西側戦闘機(特に最も欧州に普及しているF-16)への部隊転換に1年以上を要するというのであれば、早期に訓練と供与を進めなければ、ウクライナ上空の航空優勢が地対空ミサイル(これも供給源はNATO頼り、しかも供給能力は低い)のみとなり、ジリ貧になっていく事が予想される

航空優勢がないと勝つのは困難

一般的に、航空優勢がある側の勝率は2倍程度、勝者が航空優勢を握っていた割合は、実に79%だという

著者らは1932年から2003年までに起きた戦闘のデータを利用し、回帰分析を行いました。著者らは専門家としての定性的判断に基づいてそれぞれの戦闘で航空優勢を獲得した国家と、そうでない国家をコード化しています。交戦国のいずれもが航空優勢を獲得できない場合も考慮されています。この分析では政治体制の種類や、国力、戦闘に参加した部隊の規模などの影響を統制しました。
著者らの分析の結果によれば、航空優勢を獲得した国家が戦闘で勝利する確率は平均で2倍に引き上げられます。勝者になった国家の79%が航空優勢の保持側でした。その影響の強さは他の要因と比べても圧倒的であり、もし独裁的な国家が航空優勢を獲得できなければ、ほとんど勝利は望めないだろうと著者らは述べています。

上記Noteより

戦争の序盤、ロシア空軍の致命的な怠惰な行動やロシア陸軍の地対空ミサイルが兵站の準備不足で仕事できなかったため、全体的な航空優勢はウクライナ側にあった

故に、バイラクタルTB2の様な安価なUCAVや、Su-24/25の様な旧式機、武装ヘリコプターによる急襲と言った、劣勢であるはずのウクライナ側の航空戦力が多くの戦果を挙げたことは記憶に新しい

また、航空アセットが偵察や攻撃任務に就けることは、2003年のイラク戦争や2020年のナゴルノ・カラバフ紛争で見られた通り、反攻作戦において陸上部隊の目となる事から、空陸の連携で大きな戦果を挙げられる可能性は十分にあると言える
また、ウクライナ軍はNASAMS運用でAIM-120、MiG-29やSu-27にHARMを半ば無理やり搭載して運用するなど、F-16の兵装の中核となる兵器類をすでに運用しており、GLSDB(GBU-39)や今回供与が決まったJDAM-ERと言った、F-16の基本兵装となるものを今後運用していく事は確実であるので、兵装面の安定供給と運用面でのサポートも厚くなるであろうことが予想される

また、英国がスタンドオフ兵器(ストームシャドウ?)の供給を検討するなど、航空阻止攻撃アセットとして、F-16とその兵装は有望な対象であると言える

ウクライナ側の停戦条件に、少なくとも2022/2/24以前の国境線に戻すことがある以上、早期にウクライナ側の航空戦力の刷新を図り、反攻作戦を成功に導く必要があると思う

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?