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申鶴のモチーフ考察[原神]

今回は申鶴のモチーフ考察を行いました。

道教、易経、陰陽五行論など中国の文化がかなりつまっています。
モチーフ上、重雲とは正反対のキャラとしてデザインされているように思います。

前提知識・陰陽論

陰陽論とは、世界が陰の気と陽の気でできていると考える古代中国の哲学です。

基本的に陰と陽は対立するものを表しますが、陰だけでも陽だけでもだめで、世界はバランスが保たれるべきという考えに基づいています。

この陰陽論は易経や道教に結びつけられています。
過去に考察した胡桃や重雲、今回紹介する申鶴もこの陰陽論がベースとなってデザインされています。

易経(中国古代の占い)

璃月キャラは易経の影響が強いのですが、申鶴の『申』も恐らく易経から影響を受けた名前です。

申鶴という単語がある訳ではないため、恐らく『申』と『鶴』という二つの意味をくっつけて名前にしました。

『申』は干支十二支の9番目です。
申は旧暦(中国の昔の暦)における7月を意味します。

七月は易経(占い)において、陰陽のバランスが崩れる月で、妖魔が湧きやすい時期でもあります。

史記の二十五巻(律書第三)によれば、
『申は陰を意味し、万物を滅すため、申と呼ばれる。』

説文解字によれば、
『申は神であり、七月は陰の気が形成される季節である。そして体は申によって縛られる。』『陰の気が形成されるということは、3つの陰によって否卦(易経の言葉)になったということだ。』

※古代中国において、神と霊(悪いものを含む)はほぼ区別されていなかったようです。

易経において、
万事の安定を意味する胡桃の泰卦(地天泰)とは反対に、
申鶴の否卦(天地否)は万事の不安定を意味します。

世界に陰の気が増える一方、陽の気が徐々に減る状態を天地否といいます。

『陽』の気が少なくなることで、
幽霊や神が自由に動き回るようになり、人間に害を及ぼす可能性が生まれるのが『申』の月です。

つまり、親戚である重雲が易経の『純陽の体』(妖魔を寄せ付けない体)なのに対し、申鶴は陰に満たされた体ということになります。

この伏線は原神のストーリーにも出てきます。

留雲借風真君によれば、
申鶴の体質は特別なもので、その身には邪気が宿っているそうです。

つまり、『申鶴』という名前は、陰の気で満たされた鶴という意味だと捉えることが出来ます。

氷霜の化身にも易経の卦がついています。

道教

申が陰の気で満たされることを意味するとすれば、鶴は何を意味しているのでしょうか。

鶴と亀は道教(中国の宗教)において、長寿を表す生き物です。
鶴は天と陽、亀は地と陰を意味します。

道教において、鶴は道教の目指すべき徳のある人を意味します。

易経の言葉ですが、
『鳴鶴陰に在り、その子、之に和す。(鶴が見えない陰で鳴くと、その子がそれに応えて鳴く)』
という記載があり、徳のある人は陰に潜み(人里離れ、隠れ住み)交流し合うものだと考えられるようになりました。

申鶴も人から距離をとって生きてきています。

そして同時に、鶴が陰に住むのは、鶴自身が陽の存在だからだともされています。

つまり申は陰を表し、鶴は陽を表すので、
申鶴と合わせると陰陽を表すことになると思います。

後述しますが、申鶴の命の星座は、申鶴が元々陰の気で満たされた体を持っており、修行で陽の気が強い体を手に入れることに成功した過程を表しています。

ちなみに申鶴はアネハヅルを参考にしているように見えます。

命の星座

申鶴の命の星座は全体的に、道教に寄せたものになっていると思います。

1凸 心斎
道教において雑念をなくし、心穏やかにする修行を心斎といいます。
これは後に6凸と繋がります。

2凸定蒙
蒙とはぼんやりしていることを意味しますが、それを定めるとはどういうことでしょうか。

易経において、蒙卦(山水蒙)というものがあり、それは師匠による弟子の教育を意味します。

易経の山水蒙に関する記載ですが、
『蒙は亨る。我童蒙を求むるにあらず。童蒙我を求むるなり。初筮は告ぐ。再三すれば瀆る。瀆るれば告げず。貞しきに利あり。』

というものがあり、これは、
『曖昧なことも順調にいく。私が弟子を求めるのではなく、弟子が私を求めるのである。最初の占いは教えるが、何度も占うことは、神聖さを汚す。神聖さが汚されるような時は教えない。正しいことは守らなければいけない。』
という意味です。

蒙とは曖昧な道を行く弟子のことであり、それが定まるとは師匠によって道が定まったという意味だと解釈できます。

つまり、2凸は恐らく留雲借風真君と申鶴が師弟関係になったことを意味すると思います。

3凸 潜虚
恐らく司馬光の著書『潜虚』から連れてきた言葉だと思います。

司馬光によれば「虚」は万物の根源です。隠された根源を探求するという意味を込めて「潜虚」と名付けられました。
すべてのものは「虚」の「気」から生まれます。その「気」は体を形成するというのが司馬光の考えです。
この考えは後に5凸に繋がります。

4凸 洞観
洞観は道教において、道観とも置き換えられています。
道観(洞観)は、道教の寺院や道士のいる場所を意味します。
また、洞だけでも道士がいる場所を意味しますので、そこを見る(=修行)という意味かもしれません。

5凸 化神
道教の内丹術という修行を行うと、化神となります。
内丹術によれば、最初は陰の気で満たされていても、
天地万物の構成要素である「気」を養うことで、自己の身体中に神秘的な霊薬である「内丹」を作ることが出来るそうです。
そして身心の陰の気を減らし、陽の気で満たし、「純陽」へと近づけていきます。そして神(陽神)となることを「化身」と言うようです。

申鶴もよく言っています。
「氷霜よ、化身となれ!」
「煉気化神(れんきかしん)!」
→ 煉気化神とは、内丹術の修練のうちの一つです。

6凸 忘玄
九成宮醴泉銘に
『欲望を持たないことによってのみ、人は六道を達成することができ、世俗の心を忘れることで人は三秘(三玄)を得ることができる。』
という言葉があり、そこから連れてきているようです。

※三玄…『荘子』、『老子』、『周易』

これは仏教の悟りに似たニュアンスだと思います。1凸の心斎から始まった修行が完成したことを意味すると思います。

つまり、申鶴の命の星座は、
1凸2凸で留雲借風真君と出会い、修行を始め、

3凸4凸で修行を続け、

5凸で陰の気が抑えられ化身(純陽)に近づき、

6凸で修行が完成する。

武器

武器に名付けられた息災という言葉は元々、災い(陰の気の強い状態)を取り除き、困難な状況から救われることを意味します。

妖魔退治の一家に、陰の気で満たされた子供が生まれてしまうという悲劇は、留雲借風真君との出会いと、申鶴自身の修行の成果により、克服されました。

天賦

① 通常攻撃·踏辰摂斗
辰と斗は北極星と北斗七星です。
それを踏んで得るという意味のようです。
英語版ではDawnstar Piercer(明けの明星の槍)で北極星や北斗七星の要素が消えていますが…。

北極星も北斗七星も易経において重要な星でした。

そして同時に、辰は申の反対に位置する干支十二支です。

『辰』は干支十二支の5番目で、
辰は旧暦(中国の昔の暦)における3月を意味します。

三月は陽の気が動き出す良い時期になります。

説文解字によれば、
『辰は「震」であり、三月は陽の気が形成され、雷が振動する時期である。』
だそうです。

『申は七月は陰の気が形成される季節である。』と言われていたのに対し、反対だと分かります。

陰の気が多かった昔に比べ、現在の申鶴は陽の気が多いことがここでも表現されているようです。

辰は易経(占い)では震為雷を表し、
震為雷とは雷のように感情的になりやすい、攻撃的になりやすいが、やがておさまり、願いが叶っていい未来が訪れることを意味します。

申鶴の性格や、旅人と出会って変化した話の伏線だと考えることができます。

ちなみに寂しげな申鶴のPVの名前が『孤辰新夢』となっています。

これは孤独な辰(申鶴)がみる新しい夢(旅人との出会い、多くの人との関わり)という意味が込められていると推測できます。

②仰霊威召将役呪
霊威を仰いで召喚し、その霊威を将(ひき)いて使役する呪(まじない)という意味だと思います。

この霊威とは誰でしょうか。

それは陰陽五行説に基づく天の五帝の内の1人、霊威仰(れいいこう)ではないでしょうか。この五帝の上に、北辰耀魄宝(ほくしんようはくほう)という最高神がいます。

この北辰耀魄宝は北極星を象徴する神です。
天賦①で北極星を登場させたのは、北辰耀魄宝を表しているからかもしれません。

つまり、天賦の仰霊威召将役呪とは、霊威仰のような位の高い霊を召喚し、使役する呪い(まじない)だと解釈できるかもしれません。


③ 神女遣霊真訣
神女とは、申鶴のことで、
遣霊は籙霊(ろくれい)のこと、
真訣は道教の道士が呪文を唱えるときに行う秘術のこと。

元素爆発の説明文
〈力を解放した「籙霊」が俗世を駆け、氷元素範囲ダメージを与える。
「籙霊」は領域を形成し、中にいるすべての敵の氷元素耐性と物理耐性をダウンさせ、持続的に氷元素ダメージを与える。〉

籙(ろく)は道士が妖魔や神を祓うときに使う図式のこと。

申鶴は元素爆発で陰陽が描かれたフィールドを生成しますが、それを籙だといっているようです。あのフィールドで魔物を倒し(祓い)ます。


④大洞弥羅尊法
これは道教にまつわる名前です。

道教の神である玉皇大帝が住む場所を弥羅宮といいます。
つまり道教の神が住まう大洞(道教の寺院)の法に従うという意味かもしれません。

つまり、道士として道教の法に従っていることを意味しているのかもしれません。


⑤縛霊通真法印
縛霊は地縛霊のこと。
通真法印は道教において神とやりとりし、悪を祓うことを意味します。

申鶴の天賦は全体的に道教の要素が強く、道士として神を召喚し妖魔を祓う才能(天賦)を意味していると思います。

翡翠の櫛

申鶴は翡翠の櫛を大切にしています。
翡翠は厄除けであると共に、中国においてとても愛されたものです。

また、申鶴の名刺や櫛の物語は、中国の伝承を参考にしています。

三梳の礼と言い、
中国において「一回目は櫛で最後までとかす。二回目は櫛で眉毛までの白髪をとかす。三回目にとかす時には家族が子や孫に恵まれる。」と言い伝えられています。

申鶴の名刺
〈愁苦ゆえの白髪。「梳」と「疏」の発音が同じため、璃月の人々は櫛で髪を梳かすと、悩みもほどけると信じている。〉

申鶴のストーリー
〈留雲借風真君はこう言ったという。今後、俗世との縁を切り、仙人の弟子となることを望んだ時、この玉櫛で髪を三回梳かすといい。さすれば弟子と見なされる。
すると、申鶴は躊躇うことなく、髪を三回梳いた。不思議なことに、髪を一回流かすと、その黒髪に銀色の霜が降りた。二回梳かすと、黒髪と白髪が半々になった。三回梳かすと、まるで白雪に覆われたかのようになった。〉

その他・衣装に関して

申鶴は頭に琉璃百合っぽい髪飾りをつけています。

また赤紐を沢山身につけていますが、赤紐は中国において妖魔を祓い、災厄から身を守る効果があると言われています。

申鶴は肩の辺りにも赤紐を巻いています。

作業する際に紐で襷がけするのは中国でもよくあり、これは日本でもよく行われていました。なので、宵宮の考察をした時にも襷がけの要素が出てきましたね。赤紐が出てくるのも宵宮と同じです。

花のような結び方は、中国において万字結びと呼ばれる結び方で、縁起が良い結び方です。永遠を意味し、長寿に繋がるともされていました。

長寿を意味する鶴の名を持つ申鶴にぴったりですね。

まとめ

宵宮(日本文化)との繋がりがある上に、胡桃や重雲の考察の時に易経繋がりで申鶴も考察したいと思っていました。

申鶴推し以外の方にも今回の考察を読んでいただけたら幸いです。

申鶴がこれからも多くの方に愛されますように。

※今回の考察はXにて先行公開していたものです。普段モチーフ考察はXにて投稿していますが、これからnoteにもまとめていこうと思います。(HanaのXアカウント)

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