蒼月エリ引退の知らせを受けて

才気煥発たるVtuberであった蒼月エリ引退の報を受け非常に複雑な心境であったが、ある程度気持がまとまったので思ったことを書いておく。
まず最初に結論を書いておくと、非常に残念である。
理由については5/21に行われる放送における本人の言を待たねばならないが、このような着地点しかなかったのだとしたら不幸と言わざるを得ない。
以下、感じたことの詳細を記していく。

・本人の姿勢と、本人を取り巻く環境のすれ違い

初めて蒼月エリを知ったのはtwitterのフォロワーさんからハニーストラップを教えていただいたタイミングだったと思う。
ハニストでは鬼才にして奇才の周防パトラが話題に上りがちだが、蒼月エリの歌声は90年代の上野洋子を彷彿とさせる冷たい澄んだ水のような清らかさを見せており「これぞ才覚の片鱗」とこちらも期待を大きくしたものであった。しかしながら気になったのは、著作権問題が非常に多く取りざたされる近年において有名バンドや有名グループ、有名歌手などの音楽を演奏し歌っていたことである。Vtuberの収入は当然Youtubeの収益化によってもたらされるものであるが、著作権に問題を抱えた状態であれば通る申請も通らないのではないかと危惧していた。
実際に一度は収益化が通った蒼月エリのチャンネルはその後収益化取り消しの憂き目に遭っており「やはりか」と思わされた。

本人は非常に努力家で頭も良い典型的な秀才タイプ。そんな彼女のVとしての姿勢は周囲の多彩ぶりに付いて行こうと必死であった様子が伺えた。
配信界隈においては百戦錬磨の古強者として酸いも甘いも噛み分けてきたパトラ。自身の経験の豊富さから縁の下の力持ちとして工夫と協調に長けるメアリ。多芸で思慮深く独特の持ち味を生かすミコ。マイペースを貫きゲーム実況という牙城を持つシャル。その中で一人「歌」という(バーチャルではない)リアルかつフィジカルな得意分野で戦わなければならなかったエリ。
放送においても、パトラがマインクラフト実況に本格参戦したあたりからエリに焦りの色が見え始める。自分の本文を生かす機会に恵まれないと感じていたのではないだろうかと推察していた。他Vとのコラボレーションにおいてハニストがマインクラフト界隈の環境を整えるのは必至の策であり、これは避けることのできない判断なのはもちろんだが、この策に画面酔いなどの問題を抱えつつ参戦を余儀なくされたエリの心境や如何ばかりであっただろうか。
先の楽曲の著作権の問題も踏まえつつ解決策を模索するとすれば、エリはハニストの音楽関係の窓口としてオリジナル曲を次々と歌わせることでしか輝くことができなかったのではないかと思われる。
歌ウマVtuverという存在がいる。有名なところだと富士葵、YuNiなど( http://kannnagi.com/vtuber-1/ )である。ハニストはエリをプッシュし、(特にパトラの作曲の才能を活用する上でも)これら歌うまVとのコラボを後押しするべきだった。
不幸なすれ違いが生じていたと考えている。

・良い別離を。

理由はどうあれ、引退を決めたことが本当に自分の意思であるなら(Vの引退は往々にしてそうでないこともある http://xn--vtuber-nq0kg861b.com/intai/ )それは個人の就業の自由とともに尊重されなければならない。
返す返すも理由はまだ分からないのである。
今は暖かく見守るべきであろう。

名曲「蒼い蝶」のロックチャート1位獲得のような快挙を成し得る才能の持ち主であったためにロック方面に今後の期待があったのも事実だが、個人的にはロック路線は彼女には難しかったかもしれないとも感じている。
声が細く繊細である場合、ロックのようなラウドな音楽には不向きである場合も多い。だが、かと言ってパトラの得意とするようなカワイイ系電子ポップのような路線はエリ本人の気質にも合致しない。
声を聴かせる音楽のジャンル(初期ザバダックや00年代上野洋子のようなスピリチュアルな実験音楽系プログレッシブロック)に早々に路線転換すべきだった。独自色が強く、チームであるハニストのイメージに沿い、強味である声の美しさも強調でき、コラボレーションもジャンルの自由度の高さからやりやすかったはずである。
個人的に彼女にはマーシュマロウの「北へ」やザバダックの「私は羊」「二月の丘」などを歌ってほしかった。

彼女のような稀有な才能の持ち主が世に埋もれないことを願うばかりである。

本当に残念だ。

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