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ざっと近況報告、と小さなライ麦畑

昨年末クリスマス、noteでも何度も触れてきた、あれだけ気に入っていた東京のマンションに別れを告げて、鎌倉へ引っ越した。

(追記: ベランダについては、チラッと見返したら思ったほど書いていなかった。書きかけの下書きがいくつもあるだけでした。)

理由はいろいろあるし温度差も各自あるにせよ、家族全員、便利で居心地のよい東京の家は大好きだけど、娘は成長し夫もリモートワークが増え私も家で制作…、と各自もう少しパーソナルスペースがほしいね、次へ行ってもいっか、という気持ちになったことが大きかった。

じゃあどこへ?

夫も私も関西出身で、首都圏に懐かしいなと帰る場所はない。せっかくなら長野に北海道に、いややはり神戸に帰る?いろいろ考えた結果、鎌倉に落ち着いた。

娘は、保育園卒業時に仲良し幼馴染ファミリーが鎌倉に引っ越していたこと、夫はリモートワークが増えたとはいえ仕事で東京へのアクセスが必要、鎌倉なら都心まで1時間あれば十分行けるし、趣味のランニングや興味のあるマリンスポーツもできるかも?、戸建てなら私は庭でライ麦や植物栽培ができるかも、アトリエ部屋も確保したいし、とそれぞれ「引っ越そうか」と思える動機が鎌倉ならあったのだった。そんなに腰の軽くない私たちだけど、なぜか今回はすっと動いた。「今ある満足感を手放したら、何かわからないけれど新しいものが手に入る」、そんな気がした。そういう時は動いたほうがいい、そんな勘もはたらいた。

噂には聞いていたけれど、鎌倉はコロナ前から安定的に人気の居住地。コロナによる東京からの郊外移住ブームも相まって、物件がとにかく見つからない。東京の家は早々に売れてしまい、このままいったら文字通りホームレス…なんて思いかけたころ、なんとか見つかった、広さだけは確保できた戸建ての賃貸に、とりあえずえいっと引っ越した。

あれから10ヶ月。もうすぐ季節がひとめぐりする。雪も積もった寒い冬に、断熱材もほとんど入っていなそうな、「古民家」と呼ぶほどすてきな鎌倉感があるわけでもない昭和ハウスに越してきた。下手したら都落ち感すらあって不安になってもおかしくないはずなのに、なぜか「なんとかなるさ〜」という割とポジティブな気持ちで水漏れを直し、歪んだドアを取り払い、荒れ放題の庭をこつこつ耕し植物を植えた。仮住まいとはいえ暮らす間は、できるだけ心地よく過ごしたいと知恵をしぼり工夫して、湿度と闘い東京よりは過ごしやすい夏が過ぎ、10ヶ月が経った。そんな何とかなるさ感は、不思議なことに時間が経ったいまも変わらない。そして、ようやく家も私たちも、お互いをつかず離れず受け入れた気がする。引っ越して数ヶ月続いた、丑三つ時の無人ピンポンもいつしかなくなり、鎌倉の妖怪たちも私たちを受け入れてくれたのだろうか。

昨年、引っ越しが決まった11月に、しばらく手が入れられず放置されていた猫の額ほどの小さな庭の、カチカチの土をざっとひっかいて、ライ麦の種を急いで撒いた。寒い冬が終わり、春が来て、収穫は予想よりできた。今年は同じ面積で、収量をあげたいと9月に入り夏野菜が終わるとあれこれ漉き込んで、土を整えた。

なのになのに。

撒くつもりだった種類のライ麦の種が、油断していたら今年はもう入手困難になっていたのだ。ライ麦は、寒い地方の植物なので、本州では品種改良された、(去年も撒いた)暖地でも育ちやすい品種の種を撒きたかったのだ。

そうは言っても手に入らないものは仕方ない。でも収穫ができなかったら来年はソダスを作れない。そんなわけで今年はリスクヘッジも兼ねて、数種類のライ麦を撒いてみることにした。

まず最初に届いた、一番不安要素のあるドイツ産オーガニック種を、先日撒いた。今年はあと2種類ほど、届いたら畑を分けて育ててみる予定。うまく育ちますように。

来年に向けて一歩踏み出せて、ちょっとホッとしつつ、目前に迫った個展にむけ、手を動かしている。頂上の清々しい景色を目指して、今日も苦しみながら、時にゴロ石に足をとられながら山道を登っている。山の上で出会える、だれかの笑顔を想像しながら。





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