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呪いの子の二年


朝。呼吸は深いし、アラームは鳴らない。


寝ていた。あるいは、時間が経過しただけでずっと目を閉じていただけかもしれない。いや、そもそもあの夜から何もかも止まっているのかもしれない。が、僕は寝ていたのだろう。決まりが悪いので便宜的にそう決めて、のそのそと起き上がった。
観葉植物に霧吹きしてから、ビタミン剤を水で胃に流し込み、昨晩買ったレーズンブレッドにバターを塗ってオーブンで焼く。とっておきのフルーツ入り杏仁豆腐もテーブルに並べて、牛乳を注いだコップに青汁の素を入れて混ぜ終えると、パンが焼き上がった。早いな。もう焼き上がった。
Netflixで次に見る作品を探しながらの朝食。梅雨のボーッとした曇天。見たい作品は見当たらない。じゃあ、U-NEXTで探す。でもやっぱり見つからない。そういえば、今日やりたいことも見つからないな。
僕はテレビを消して、静かに朝食を終えて、タバコを吸いながら目を閉じた。


「――――――――――――――――」
瞼の裏で焼き付いて離れない光景


電話が鳴っていて目を開けた。マネージャーからの業務連絡だ。軽いタスクを貰ってやる事ができた。よし、やろう。でも一旦鼻くそほじろう。うまく取れない。ならティッシュでほじろう。ほじたら、取れた、ゴミ箱へぽい。
沈黙
そういえば、動物って鼻くそほじらないな、溜まらないのだろうか。どうしてるのだろうか。
沈黙
今頃、皆んな何をしているのだろうか。
沈黙


そのまましばらく沈黙していると、遠くの方からジムノペディのピアノの調べが聴こえてきて、彼が突然、僕に話しかけてきた。


やぁ、門田くん。(今ジムノペディがかかっています)

君は、鼻くその妖精?

違うね。僕が誰かなんて今はどうでもいい。君は今、何をするにも身体が重たいね。いや、重たいかどうかももはや判らない。何に戻るべきか、何に委ねるべきか、ふわふわ決めかねているような感じだろ。目の前の全てがそう見えている。誰もいない部屋。

そうだね。なんだか、ここはお祭りが終わった後の公園みたいだ。たくさん踏まれた団扇が、遊び尽くして萎んだ水風船が、がじがじ噛んだストローとかき氷の入れ物が、すっかり静まり返って足元で散らばっている。時間も細胞も、子どもたちと一緒に居なくなってしまっている。

このままここにいる?

いや、後片付けがしたいから文字を綴ってみる。自信ないけど。

それがいい。上手く片付かなくたっていい。それが新しい部屋に、新しいこれからに成っていけばいいから。

新しいこれから、とは・・・。
今、何をするにも億劫になっている。開放感と虚無感が大群を成して押し寄せてきて、まったく僕は訳が分からないことになっている。消滅に似た感覚。だから、これはやらなきゃいけない事な気がした。多分、肝心な事はわからないけれど。[これから]なんて天明は、きっと貰えることは出来ないけれど。過去から文字が散らばったら、別の何かでも浮かんでくるかもしれない。ここから抜け出せるかもしれない。そう思った。
僕は脳内ジムノペディを止めて、一つ咳払いをする。


「――――――――――――――――」
時刻は午後十六時二十分、六月二十三日。
耳を覆う鳴り止まぬ拍手、衣装に染み付いた汗と涙の匂い、まるで夢の中みたいに光に包まれた光景。


あの日、呪いの子の二年が終わった。長く続いたお祭りが、とうとう終わった。



いつも、朝8時にアラームが鳴る。爆音のアラーム。爆音のアラームを買った。何があろうと目が覚める近所迷惑甚だしい音量。そいつを止める。そして、何があろうとベッドから起きる。やばい2時間しか眠れなかった。うるさい、起きる。何があろうと起きる。やばい首が、首が痛い。うるさい、起きる。最近あの共演者と気まずいぜ、あのスタッフさんとも気まずいぜ。うるさい起きる。まじ吐くかもしれん、吐くかもしれんてこれ。うるさい起きる。「速報です。東京近郊に小型の隕石が降ります。どうか都民の皆さんは家から出ないでくだ」うるさい起きる。時に灼熱の中、時に極寒の中、嵐であろうが雹であろうが隕石であろうが、赤坂へ向かう。イスラエルがガザへ侵攻する、藤井聡太さんがタイトル戦連勝する、僕の運転免許の取得期限がガンガン迫ってくる、身内の不幸も、大恋愛も大失恋も、「ぼきはーぼきはー頭がーおーかしくなりそうだー」も全く関係なく、赤坂へ向かう。容赦無く本番はやってくる。


劇場に入ると、入り口にある神棚に手を合わせるのが日課だ。出る時も同様に手を合わせる。劇場の神様は、いつも優しく僕に微笑みかけてくれる。なんそれ、良い気なもんだ。ちゃんと仕事してくれてますか?微笑んでるだけなら僕でもできますよ?今日も頼みますよ?って思う。
神「知らん、励め」


タイムカードを切る四角い機械、あれがビビビーと年期の入った音を立てて僕らを出迎える。タイムカードを切って、着倒番の自分の板をひっくり返し、制作さんに挨拶をして、楽屋へと向かう。楽屋に入ると、大体僕より先に先輩俳優の慎也さん(ドラコ・マルフォイ役)と迫田さん(ロン・ウィーズリー役)が居る。2人の息のあったおふざけトークを笑って聞きながら、コンビニで買った朝食を食べる。楽屋なのでそれぞれの机の前に鏡があるのだが、これには慣れなかった。どうしたって自分の顔面の状態が情報として飛び込んでくる。情けない顔してる時が一番辛い。今の心身を強制的に自覚させられる。「このまま本番やれんのか?お前」って自分を叱咤しながら、本番中に飲むクエン酸ドリンクを作って、稽古着に着替えて、楽屋を出る。ここで一度、朝の一服を挟む。外の喫煙所で音楽を聞きながらタバコを吸う至福のひととき。しかしそれも束の間、朝は時間が無いのだ。ここで、今日の目標を決める。小さい目標も大きい目標も合わせて、ここで決まる。


一服を終えたら劇場のロビーでアップを始める。あー、まーじで今日体動かしたくない、ダルすんぎ。とか思っているそこのあなた。もちろんうるさい。ほぐす、伸ばす、動かす、温める。舞台本番は限界を越えに行く挑戦になる為、心身のコンディション全てが影響を及ぼす。呪いの子が始まった頃の新鮮な気持ちや、作品への新鮮な感情なんぞとうに使い果たしているので(ちなみに僕は呪いの子が始まって1週間でこれらを使い切った)、あとは超えていくのみ。発見していくのみ。己との対話のみである。


更に、この舞台は怪我と常に隣り合わせだ。通常よりも硬めの舞台の床、動きにくい事この上無い硬い革靴(衣装のこだわりは本当に徹底していて、見えないような服の裏地まで裏起毛になってたりする。暑いて。夏エグいて。冬でも暑いわ、暖房効いてるからさあ)、変身に水泳に引火に飛ぶわ跳ねるわ逆立ちするわの激しいアクション。僕は大きな怪我をデビュー前に一発やり、小さな怪我は通算数えきれないほど何発もやった。たぶん舞台上よく見たら血まみれだと思うよ。掃除してもらってるけど、役者のありとあらゆる身体の一部を吸収して、あそこは念の塊、心霊スポットならぬ邪気スポットと化していると思います。邪鬼退散。くわばらくわばら。まぁ舞台上なんてどこもそんなもんか。


よって、本番後は当然の肉体疲労。ケアせずに放っておくと大きな怪我に繋がっていく。劇場には専門のトレーナーが在中し、休みの日は整体やら病院やら銭湯行ったりひたすら寝たりと、役者はとにかく体を労る。次の本番までにコンディションを整える生活、決して他の事で無茶はできない日々。これはかなりストレスだった。たまには羽目を外して盛大にリフレッシュしたい、朝までボドゲとかしたいよ。しかし、それやったら終わる。肉体の疲労は集中力を遠ざけてしまう。したがって、粛々と整体や病院へと通う。共演者の某先輩は、ケアの為とは言え複数の病院に通い過ぎという事で名を馳せており「いいか宗大、友人も仕事仲間も良いが、人との繋がりのなかで一番繋がるべきものは、医者だ」と、僕に名言を残した。


劇場のロビーでアップを終えると、今度は全体のアップが舞台上で始まる。ここまでに役者は全員着到する決まりで、稽古着に着替え終えて集まってくる。こーへーとハル(2人はアルバス・ポッター役)もいる。全体アップが終わると全員で円陣(マジックサークルと呼んでいた)を組み、声高らかに「エクスペクトパトローナム」と唱え、精霊を・想いを空へと放つ。ここから本番前の稽古や確認が始まり、終わった人から本番前の準備に取り掛かる。僕はこのタイミングで発声と滑舌のアップをして、これらを終えたところで最後の一服をする。ハルが居ればハルと吸う。ちなみに僕とハルは、他の喫煙者が居るメインの喫煙スペースには行かず、端っこの誰も来ない場所でひっそりとタバコを吸っていた。コミュ障丸出し、しっかり隠キャである。


ここからプリセットと呼ばれる最終準備に入る。メイクを済ませ、着替えを済ませ、ウィッグやマイクを装着して、舞台袖へ。舞台袖では直前に着る衣装を羽織ったり、小道具の準備をしたりして、それぞれ幕が上がるのを待つ。この間、呪いの子カンパニーは役者同士でハグをし合っていた。これは好きな習慣だった。とは言え、ほとんど全員が舞台袖でハグをし合ったり再度円陣を組んだりしている中、僕は衣装小屋で1人ぽつねんと座って瞑想をしていた。ここでも隠キャが発動している。僕とハグをする為にわざわざ足を運んでくださる方も居た。なんて優しいのだろう。快く受け入れてハグをした。しかし、決して自分からは衣装小屋から出ない。そうゆうところ。そうゆうところだぞお前。


そして、息を整えて、心を整えて、目を真っ直ぐ開けて、煌々と照らされたステージへ上がっていく。


これを、2年やった。合計425ステージ立った。
上演時間は約3時間45分、時には1日2ステージでお送りする、血沸き肉踊る大スペクタクル冒険ファンタジー。泣いて笑って芝居して芝居する、ACTシアター発のホグワーツ超特急こと『ハリー・ポッターと呪いの子』は、2年もの間1300人の客席の前を走り続けた。きっと、共演者・スタッフ・制作陣の誰もが振り落とされぬよう、必死に戦っていた。ストレート芝居の超ロングラン公演は全員が手探りで、誰もが千穐楽を全員で無事迎えられるよう祈っていた。だって2年だ。オーディションの頃から数えると、3年以上だ。初めは27歳だったのに、僕は今年30歳になろうとしている。あまりにも長い時間を費やした。某先輩が千穐楽の日にこう言っていた「この日を迎えられたことは、本当に奇跡だと思う」。まったくその通りだ。僕らの傍らにはずっと、不吉で無邪気に笑う【降板】という名の死神がドカッと鎮座していた。長い時間をこいつと共に過ごした。その日の降板、長期の降板、永久降板が常に僕らを手招きしている状態。僕も2年間の内で何度か降板した。その度に、しっかり訪れる絶望感がある。それは、存在が否定されているような気持ち、消滅に似た感覚だった。


正直何度も逃げ出したくなった。甘ったれるなと思われるかもしれないが、早く終わってくれと何度も願った。何回か気が狂った。自分が今どこにいるのかわからなくなる事もあった。何度も演じてきた事で骨にまで染み付いたセリフは、気を抜くとオートマで身体から流れていって、同様に染み付いた動作もオートマで流れていってしまう。その度に後悔と反省と絶望。気が狂うといとも簡単に消えていく心の火を、なんとか消えぬよう雑巾を絞るよう、全力で油を絞り出した。こんな事とても1人じゃ出来なかった。そんな毎日をいつも助けてくれていたのは、支えてくれて背中を押してくれていたのは、大切な出会いがあったからだ。それが、僕にとっての奇跡だった。


共演者との出会い。今までたくさんの奇跡的な出会いがあった。その中でも呪いの子で出会えた共演者たちの存在は、僕の一生の財産になった。心底、心根の良い人たちだった。先輩も、後輩も、共に2年を走り抜いた絆が大きな連帯感を生み、某先輩も「他の舞台で共演した人は友達になったりするけど、呪いの子は家族になったね」と言っていた。まさにそうだ。様々な芝居の世界線から集まって、普段エンカウントすることのないような人と出会い、あの日々を共有して、語らい合い、共に闘った。僕は親友も出来た。それってとんでもないことだ。大好きな人たちの生活を見て、大好きな人たちの芝居を浴びて、僕は芝居感が変わった。変えてもらった。これが本当に本当に、幸せだった。心の雑巾ひたひた。気が狂っても潤った。


次に、スタッフさんとの出会い。共演者同様、共にすぐ近くで闘っていたスタッフさんたちとの出会いがあった。呪いの子は大きめの商業舞台で、舞台のスタッフさんとはただでさえ関わりが少なくなる上、商業舞台ともなると少し距離感も遠くなってしまう(商業舞台初めてだったので憶測だが)。しかし、呪いの子は違った。演者と遠からず同じような苦しみの中で共に闘い、日々を過ごし、日々を語らい、絆ができた。千穐楽で僕より泣いている人もいた。僕らよりも僕らに思いを乗せてくれている事が嬉しかった。経験の無い事だった。スタッフさんたちも、紛れもない家族だった。すぐそばで見守ってくれている姿は、まるで父親や母親のようで、本当に本当に幸せだった。


次に、ファンの方々との出会い。僕にとってはたくさんのファンの方々と出会えた。カーテンコールで眼差しを送ってくれて、拍手を送ってくれて、手紙やプレゼントを送ってくれる方々との出会いは初めての経験だった。もらった手紙やプレゼントはスマホで一枚一枚写真に収めて、様々な大事な場面で見返した。DMもスクショした。中には人生が変わったと言ってくださる方もいた。「かけがえのない友人と出会えた」「挑戦する勇気をくれた」「死にたくなくなった」こういった言葉で、僕の夢が一つ叶ってしまった。もっと遠い先かと思っていた出来事だった。そんな出会いを呪いの子は連れてきてくれた。本当に本当に、幸せだった。ファンレターさえあれば良い。身一つとそれだけ抱えていれば、人生何とかやっていけるだろう。僕の一生の財産になった。


呪いの子で得ることの出来た経験と出会い。
ほんと様々過ぎる出来事があった。その全てに共通して根本にあったもの、それはたぶん、“僕がずっと探し求めているもの”。恥も外聞も無くそう思える。それを教えてくれたカンパニーだった。
僕は“それ”を、貫けただろうか。いや、貫き切れなかった。やり切ったけど、途中だった。だから終わってから泣いた。千穐楽のカーテンコールで、あまりにも大きな解放感と、あまりにも大きな光景に、圧倒されて泣いた。
「――――――――――――――――」
耳を覆う鳴り止まぬ拍手、衣装に染み付いた汗と涙の匂い、まるで夢の中みたいに光に包まれた光景。
ここでもう一つ、大切な出会いを綴る。



僕は、スコーピウス・マルフォイと出会った。


分厚いステンドグラスの向こうに、ぼんやりと小鳥の姿が見える。毎朝木の実を食べに来る小鳥たちを、スコーピウスは温かいベッドの上から眺めていた。友達になりたいが、窓は開かない。その開かないステンドグラスは、スコーピウスの憧れや夢を具現化するみたいに美しく表面が凹凸していて、外の世界の光を綺麗に屈折させ、部屋を明るく照らしている。


彼はふたりの魔法使いの間に生まれ、後にホグワーツへ入学し、そこでかけがえのない出会いを果たす。お菓子と魔法とパパとママが大好きで、嫌いなものは魚の味がするもの。母親譲りの明るさと、父親譲りの強さを持っており、臆病で優しい少年だ。


僕は、彼についていくのに、必死だった。人間臭くても、彼の奥底に広がる海のような人を想う気持ちは、掴み取ろうとしても出来ない。意図的に掴めるものではなかった。根っこから自分を見つめ直さないと、簡単に浜辺へと打ち上げられてしまった。


開演前の衣装小屋で、何度も彼と話をした。その度に自分の小ささを思い知り、惨めな気持ちを抱えたままステージへと上がって行った。何度も何度も巡らせて巡らせて挫けそうになって、結局そのまま本番がきた。しかし、やはり本番にこそ探し求めていたものがあったのだと、何度も痛感する。ステージの上が、物語が、役者が、空間が、客席が、全て導きだった。
星のように光り輝くあの人、毛布のように温かく包み込んでくれるあの人、本のように知恵を教えてくれるあの人、隣にいつも立ってくれているあの人。人を想い、自分を想うこと。そこに、スコーピウスはいた。


全てに共通してあったもの。探し求めているもの。場所は見つけた。あった。
でも僕は、途中だった。


そうだね。

一通り文字を書き終えると、また彼が現れた。

僕が誰だかわかるね?

わかるよ。

うん。

やぁ、スコーピウス。

やぁ。

君と2年一緒にいたね。長かったね。
僕は、君の一番の味方になれていたかな。たぶん、自分のことばかり考えていた。自分の芝居が上手くいくようにと、そればっかりだった。君と一緒になれるように、自分なりに頑張ってみたつもりだ。でも、誰よりも「優しさ」を探している君に、置いていかれてばかりだった。何度もこの話を君とした気がする。だめだね。
追いつく準備はできていた。アルバスのこと、皆んなこと、この作品のことを考え尽くしてみた。君のことも。君を演じる感覚。あれは不思議だ。君のおかげで僕は、すごく楽しかった。ずっと楽しかった。ここまでやってこれた。君と出会えた人生は本当に豊かだと思える。感謝しかないよ。
僕も家族のことでたくさん悩んだ。境遇が少し似ている。両親2人とも、大好きだ。だから、母さんを失ってしまうことなんて考えられないよ。華奢で大きな背中にしがみついて眠った。世界中のどこよりも温かい言葉で泣いた。母さんとの思い出は、僕の人生そのものだ。君にアルバスがいてくれて本当によかった。じゃないと、とても耐えられないよね。そばにいてくれるだけで良いよね。好きな気持ちだって封印できる。いじめだって耐えられる。親友だから。僕も親友にたくさん救われてきた。ずっと味方でいてくれて、ずっと応援してくれているよ。
君は、本当は優しさを追い求めていたわけじゃないよね。アルバスとパパしかいなかった。パパとは距離があるけれど、アルバスがそばにいてくれて、誰よりも大切で、大好きだった。彼の為に何でもしてあげたかった。ずるいとか、僕を見て欲しいとか、たくさん思ったよね。決して強くなんかないよね。何度も打ちのめされたよね。
大丈夫。僕がアルバスを繋ぎ止めた。パパを繋ぎ止めた。世界だって元に戻した。自分がどうなるかじゃない。アルバスやパパやママがいる世界を、ただ守りたい。そう心から思った。どこまで君の味方になれたかわからないけど、ずっと近くにいたよ。大好きだよ、君が。だからどうか、これからもそばにいて。見守ってくれたら嬉しい。
支離滅裂になってしまった。
僕は君から、アルバスから、パパから、カンパニーから、呪いの子から、親友から、家族から、応援してくれる人から、本当に大きなものを貰っている。
返す。きっと、返しに行く。午後十六時二十分、六月二十三日。あの日から、また始まった。だって僕たち、新しいバージョンになったから。

最後にそれ言うと思ったよ。

ありがとうね。



また、呼吸は浅くなったり、そのうちアラームも鳴る。次も、これから先も、最高の青春を生きたい。そう思う。
消滅の感覚も消えてきた。物は増えたけど、部屋が片付いている。

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