「意識」について学ぶ(雪本剛章)

『私はひとりの他者なのだ』とランボーは言ったそうです。

『自己』と『他者』とか言う二元論を超えた『第三領域』、『もうひとつの場所』というのが、実は意識、主体の場所だと思います。

科学者たちは『第三領域』を、『客観』として捕らえようとしています。

英オックスフォード大のロジャー・ペンローズ教授の『心は量子で語れるか』(講談社)では、物理世界を描く数学が人間の心や意識に深くかかわり、その人間の心は物理的な存在であるという「三つどもえ」の関係を強調します。

心の問題を解決することが、数学と物理の関係を解くカギにもなるということです。

認知哲学

心や意識といえば昔から哲学者のおはこでした。

しかし、近年の哲学的アプローチはひと味違います。

神経科学や実験心理学に通じた「認知哲学者」が登場し、意識の科学に一石を投じました。

米国アリゾナ大学

神経科学から哲学に転向した米国アリゾナ大学の認知哲学者デビッド・チャルマース教授。意識に「難しい問題」と「やさしい問題」があると区分けしたことで知られています。

意識には「難しい問題」と「やさしい問題」がある

特定の音を意識しているときの脳の活動を客観的に分析するのは「やさしい問題」です。

これを音楽として聞いたときの感じ方など主観的経験の分析は「難しい問題」に当たります。

意識には「客観的データ」と「主観的データ」の違いがあります。

現在の研究はほとんどが「やさしい問題」を扱っているにすぎません。

意識の謎(なぞ)に迫るには「難しい問題」を解かなくてはなりません。

「二つの問題の違いを認め、橋渡しをするところに意識の科学の役割がある」とチャルマース教授は主張します。

認知科学や心理学も意識研究に欠かせません。

京都大学の研究

注目されるのは、記憶の働きや、色、形、運動などの情報を束ねる脳の仕組みです。

京都大学の苧阪(おさか)直行教授(実験心理学)は、記憶の一種であるワーキングメモリーと意識の関係を示すモデルを提案しました。

ワーキングメモリーは短時間だけ情報を蓄えながら、この記憶を情報処理に使う脳の機能で、暗算するときなどに働くといいます。

参照:https://ha2.seikyou.ne.jp/home/Naoyuki.Osaka/

ワーキングメモリー

意識には「覚醒(かくせい)している状態」「外界でおきる事象に気付いている状態(知覚的意識)」「自分が何をしているか知っている状態(自己意識)」の3レベルがあるそうです。

このうちワーキングメモリーと関係していると考えられるのは「知覚的意識」と「自己意識」です。

「ワーキングメモリーは脳で行われる情報の時間的統合や自己監視など、心の働きそのものを担っている」と苧阪教授は考えました。

これを検証するため、脳の働きを画像化する手法で実験を進めました。

雪本剛章

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