日本の経常収支黒字の考慮点ー投資収益収支に注意

かつて大きな黒字であった日本の貿易収支は、2011年からは赤字状態に陥った。2016年に黒字回復するが、現在はほぼ収支が均衡した状態だといえる。
しかし、経常収支はかなりの黒字を維持してきた。その大きな理由はこれまでの黒字を積み上げた結果である外国への投資から得られる収益が大きくなっており、投資収益収支が大きな黒字で経常収支の黒字の最も大きな要因となったからである。その意味で投資収益収支を分析することが肝要になってきたといえるだろう。
財務省発表の国際収支統計で見ると、2021年の貿易収支は1兆7,538億円の黒字に対して、第一次所得収支(ほとんどが投資収益の収支)は20兆3,811億円の黒字であり、第二次所得収支(贈与・移転など)やサービス収支を含めた経常収支は15兆4,359億円の黒字となっている。2007年のピーク24兆9,341億円から減少しているものの大きな黒字を維持しているということができる。

2021年は国際収支統計上では、大きな経常収支黒字となっているが、中身を検討していくと、そうばかりとは言えない実態もある。問題は投資収益収支である。現行のIMF方式では、投資収益収支のうち直接投資に関しては投資に帰属する利益額を計上することとなっている。一方、証券投資の場合は、利子・配当のみの受取・支払を計上している。この方法の問題点は株式投資の場合に株式保有に伴って帰属する内部留保の部分が含まれないことである。株式投資に伴う利得が過小評価されていると考えることができる。実際の2021年の証券投資による配当収支は3234億円のプラスになっている。受取分は5兆583億円、支払い分4兆7349億円となっている。概して外国の株式や投資信託の配当性向や分配は高く、日本企業の配当性向は低いので、内部留保の帰属を考慮すると、収支は違った姿になるはずである。

日本の対外資産負債残高(2020年末、財務省)を見ると、日本から外国への株式投資残高は104兆6,700億円、外国から日本への株式投資残高は214兆1,890億円と株式投資残高に関しては大幅な受入超過である。もしも、株式投資による内部留保の帰属においては相当の赤字になっていると思われる。

2020年度の上場企業全体の利益額は30兆,4283億円(日本取引所調べ)でああった。外国人の上場株式保有は226兆3000億円、保有比率30.2%(同)であるので、株式保有を通じて外国人に帰属する額は約9兆円となる。また、配当額は上場企業全体で11兆5102億円(同)であるから、比例的であれば外国人への支払い額は約3.4兆円(国際収支上の数字とは相違があるが)と考えられる。つまり公式の経常収支統計上には表れない日本企業の内部留保の外国人投資家への帰属額は上場企業だけで約5.6兆円あることになる。この分だけ投資収益の支払が過小評価になっているという考え方もできる。

一方、日本から外国への株式投資についても帰属する内部留保があるはずだが、推計はなかなか難しい。概して欧米企業の配当性向は日本企業より高いと言えそうだが、日本からの投資先について同様のことが言えるかは推計が困難である。S&P500種で見ると、直近の平均益回りは約4%、平均配当利回りは約1.3%なので、株価に対する内部留保の率は2.7%程度と考えられる。やや大胆な仮定ではあるが、仮にこれを日本の外国株式保有に当てはめれば、帰属する内部留保は2.8兆円程度ということになる。

幅を持って見る必要があるが、仮に株式保有に帰属する内部留保分を潜在的な収支と考えれば、日本が3兆円程度潜在的支払超になっている可能性があるだろう。経常収支の黒字もその分小さい可能性があると言うことになる。

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