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PASSAGE入荷本紹介!『「黒い雨」訴訟』

 PASSAGEのSOCIALDIA棚に、毎日新聞、小山美砂記者の新刊『「黒い雨」訴訟』を入荷しました!SOCIALDIAの棚は、入って中央右側の「アレクサンドル・デュマ通り4番地」にあります。実は著者と大学の同期である副代表がこの本を紹介します。


 今日は広島原爆の日。我々は毎年被爆者に黙とうを捧げているが、その時にイメージする被爆者とは、原子爆弾の直接的な爆発により命を落とした人々ではないだろうか。しかし、本書を読んだ後には、そのような人々に加え、現在も被爆の影響に苦しむ人々の存在、彼らの70年以上に及ぶ戦いに対しても祈りを捧げる1分間になるはずだ。

 本書は「黒い雨」訴訟を巡り、被爆者がいかに国から切り捨てられてきたかを記すノンフィクションである。訴訟と言っても、単純な裁判プロセスが描かれているわけではない。そこには被害者間の分断、行政組織、被害者自身の健康、援護範囲を広げなくない国と、様々な問題に切り込まれている。

 本書の興味深い点は、被爆者の発言の表現である。例えば2017年に刊行され、東日本大震災の被災者への取材が記されている石戸諭氏の『リスクと生きる、死者と生きる』においては、被災者の発言は<「~~~。」と打ち明ける。>や、<こう証言してくれた。「~~~。」>と、著者に向けて被災者が話したことが明確に分かる形で記載されている。本書も基本的には同じような表現なのだが、ところどころに被災者が取材の回答として著者に語ったものではないであろう発言が登場する。

「福島のためにも、わしががんばらんと」。高東は決意を固くする。

p.115

「病気だらけの人生を、自分のせいにして死んでいった人が大勢いる。彼らを思うと、やれん気持ち」。やってられない、という意味の広島弁をつぶやき、眉間にしわを寄せてうつむいた。

p.195

これは、支局に駐在し、彼らと距離感の近い著者だからこその書き方だと感じる。記者の取材という枠を越えて被爆者と信頼関係を築き、並走し、そして発信を続けてきた著者への尊敬の念を抱かざるを得ない。

刊行以降、WEBにもいくつか記事が上がっており、こちらも併せて読んでいただきたい。

「死ぬべきものは死んだ」広島・長崎原爆の「残留放射能汚染」をアメリカが徹底的に否定した理由 | 文春オンライン (bunshun.jp)

土にしみこまずに地面にぽろぽろと転がる不思議な雨…広島の少女たちが浴びた「黒い雨」の恐ろしい作用 暑さに口を大きく開けて「黒い雨」を飲んだ人もいた | PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)


SOCIALDIAの本棚には4冊入荷しました。この夏、必読の1冊です。是非PASSAGEにてお求めください。

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