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【1-8】農林地の公有地化と協力者への特典

 過疎の農山漁村では、相続未登記の土地が余りに多く散在しています。その大半が農地や林地で、権利関係が不明な土地をあえて借りて使おうとする農業・林業の事業者が現れるわけでもなく、結果、荒れ放題になっています。
 相続未登記の背景には、100%、相続人の経済的な問題があります。皆、本音のところでは相続放棄したいのですが、国の法体系がそれを阻んでいるのです。土地の相続を放棄するには預貯金を含む全遺産を放棄しないといけません。要らない土地だけ選抜して国有化する制度もできましたが、樹木を伐採して更地にするか、管理費名目で1筆当たり数10万円を納めるかしないと引き取ってくれません。やむなく相続して名義変更しようとすると、登記には容易でない手続きと少なくない費用が発生します。それで手続きを怠り、死亡した人の名義のまま放置し、法定上は相続人たちの共有地となる土地が無数に発生しているのが実態です。
 相続未登記の土地や管理を怠っている遊休地は、所有者にとって資産価値がないのが明らかです。都会に出て、自分の土地に関心すら向けない人たちに、そもそも私的占有を認めるべきではありません。農山漁村の土地を有効活用し、農業や林業だけでなく公共事業も円滑に実施できるようにするため、農地・林地・雑種地等を積極的に公有地化する制度をつくるべきです。法務局にいかないと所在や連絡先の確認が取れないような所有者と個別に交渉するよりは、希望者が公的機関に申し出て土地の貸借権を設定し使用できるようになる方が良いはずです。
 手続きの必要に迫られるという点で、相続は公有地化を一気に進める契機になると考えます。年配者が一人暮らしとなる家屋のある宅地も、相続のタイミングで公有地にして、市町村などと貸借契約により住み続けられるようにすればよいのです。
 なお、お年寄りの一人暮らしは、病気を患ったりケガを負ったりしたときのことを想像すると不安があります。だからといって、子ども夫婦が同居したり、頻繁に訪問したりするのもお互い気が引けるものです。子ども世代よりも、むしろ孫世代の方が祖父母と同居することに抵抗はないかもしれません。進学先や就職先が通える範囲にあれば、祖父母の住宅を活用し、ゆくゆくは名義を継承するという流れも良いように思います。
 また、一人暮らしの年配者が亡くなって空き家になってしまっても、公有地になっていれば元の住人とは縁のない他人に中古物件としてスムーズに貸し出すこともできます。結婚して世帯ができたらマイホームを新築してローンを背負いこむよりは、中古住宅に賃貸で入居する方が経済的ですし、骨組みを100年くらい維持する前提で家屋を長寿命化し、必要に応じて簡易なリフォームをする程度であれば省資源にもなります。
 このように農林地だけでなく宅地についても公有地化することで、農山漁村の土地がそれを必要とする人によって有効活用され、遊休地の拡大が抑制されるのではないでしょうか。
 
【公有地化の促進】
 農林地において必要な公共工事を実施しようとするには、土地の公有地化を促進するほかありません。ただし、公有地化するための土地買収費用まで国費で補償するのは適切ではありません。
 農地や林地の公有地化は、農地中間管理機構の制度の拡充により対応することを提案します。従来の制度は、都道府県公社の仲介により、地主から借り上げた農地をまとまった形で農業従事者に転貸するものですが、さらに都道府県公社の権限を強化して、基本的に所有権取得を促していくこととします。具体的には、以下の方法により公有地化を進めていきます。
(1)寄付または収用による農林地等の公有地化
①所有者から寄付(無償譲渡)された農林地(※)を取得。元の所有者は当該農林地の時価相当額の出資者と認定。
(※)ここでいう農林地とは、動植物の育成管理に適した土地。ただし、コンクリート被覆や過度な締め固めがなされていないこと。
②過去1年以上にわたり、不在(死亡)者及び所在不明者の名義のまま登記変更がなされていない土地、その他地権者が立ち入った形跡のない土地の収用。
③所有権を取得した総農林地面積の1%を上限として、農林水産業関連施設(滞在施設を含む)用地を寄付(無償譲渡)により取得。元の所有者は譲渡面積に応じて、周辺農地と同等の時価相当額の出資者と認定。
(2)所有権を取得した農林地等の扱い
・所有権を取得する際に発生する債権は、都道府県公社を介して発行または販売(譲渡)することが可能(上場はしない)。
・元の所有者への返還を含め、売却(再民有地化)は禁止。ただし、必要に応じて、道路敷地等の公有地と換地することは可能。
・農林地の所有権が都道府県公社以外の者に移転(相続を除く)される場合、そのキャピタルゲインは全額、都道府県公社の収入とする。
(3)土地提供者に対する特典
 都道府県公社は、農林地の使用者が支払う賃借料を原資とし、土地提供者(出資者)に対して、1年につき出資額の1%相当のサービスを提供。
① 地域の農林水産物の割引宅配。一般企業が出資者の場合、社員食堂への食材提供もしくは社員宅への配達。
②    体験農業、アグリ・ツーリズムなどの活動への参加。


高木 圭介 
E-mail: spk39@outlook.jp

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