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【3-13】日用品のローカル自給を意識した流通改革

 朝市は、地域住民や観光客など多くの人を魅了します。その土地ならではの新鮮な食材や特産品が並び、特徴のある多種多様な品物を見て回るだけでも十分に楽しめます。朝市の開催は、週1回、隔週の日曜日など様々ですが、神子田(盛岡市)、勝浦(千葉県)、輪島(2024年1月末現在、能登半島地震被災のため休業中)、宮川(岐阜県高山市)、呼子(佐賀県)では、年間を通じてほぼ毎日行われています。
 毎日開催されている全国的に名の通った朝市は、県庁所在地にある神子田を除けば、人口数万人の市町にあって、近隣に大都市・中核都市があるわけでもありません。人のニーズは実に多様で、売れ筋の規格品を並べるだけの店は次第に客が離れていきます。自分の嗜好に合ったものを選べる品揃えが必要になりますし、大勢の人の目に触れる機会があって、当然のことながら最終的に売れなければビジネスになりません。
 これらの市町で永年の間、朝市を続けてこられたのは、朝市全体で、地域住民の多様なニーズに対応できる品揃えがあり、中でも日用品に関しては地場産で賄えていることが背景にあるものと思われます。
 朝市は販売者が個々に屋台・露店など軒を並べて、食品・雑貨類・民芸品を販売するのが基本スタイルなのに対して、商品陳列と売買を行うスペースを屋内に集約したのがスーパーマーケットです。個々の販売者と消費者が目利きでマッチングする場を提供するのがマーケット本来の趣旨です。自分が売ると決めたものを並べて売るだけなら、単なる「店舗」であって、スーパーマーケットを名乗る資格はありません。
 和歌山県田辺市に本社を置く株式会社プラスが運営する「産直市場よってって」は、卸売市場を通さずに、新鮮な野菜・果物・花を収穫後に直接店舗へ出荷・陳列し、生産者自身が決めた値段で販売することを経営方針としています。大阪府南部、奈良県、和歌山県北部に複数店舗があり、生産者と消費者を結ぶ流通プロセスを大幅に短縮する画期的な事業を展開しています。大阪都市圏に立地するとはいえ、農産物のローカル自給をビジネスとして確立した産直市場よってっては、本物のスーパーマーケットと言えます。
 ローカル自給を実践するビジネス事例は、大都市近郊のスーパーマーケットだけではありません。秋田県横手市の株式会社マルシメが運営する「スーパーモールラッキー」は、地元農家が出品するファーマーズマーケットのコーナーがあるほか、加工食品も基本的に秋田県内もしくは近県で製造された商品を販売しています。食べ物以外にも、衣服や日用雑貨のコーナーがあり、こだわりの強い買い物客も満足できる品揃えに徹しているとのことです。
 (株)マルシメの遠藤宗一郎社長には、地域・会社・従業員・取引先がみなハッピーになることを目指すという揺るぎない経営方針があります。30km圏内の14路線で会員専用の買い物バスを無料で週1~2回運行していること、地元農家と加工業者を引き合わせ相互の事業拡大にも一役買っていることなど、地域とともに歩むという強い意志に基づく独特の取組は、JR東日本が発行する雑誌トランヴェール(2024年1月)に掲載された特集記事を見て知ることとなりました。
 スーパーモールラッキーに日常的にアクセスできる地域の人口は、南隣の湯沢市などを含めてもせいぜい15万人程度です。この範囲には大手スーパーも10箇所近くあり、お互いがしのぎを削る関係にあり、コアな客層は1万人前後ではないかと思われます。品揃えも充実した「ローカル自給」のビジネスモデルを成立させるのに、必ずしも数10万人とか100万人規模の都市圏人口を必要とするわけではないことが分かります。
 農産物を全国から大都市の卸売市場に一旦集約し、仕分け後に再び全国に発送する、農村から取り寄せたパーツを都会の工場で組み立てて、全国各地に画一的な製品を送り出すというスタイルは、供給サイドの事業者にとって効率的で都合が良いのかもしれません。しかし、それでは大都市から離れた農村ほど、流通過程の最末端に位置づけられるため、生産物は安値で買い取られる一方で、流通にかかった余計なコストを払わされることとなります。
 生産者は大都市に出荷することを目指すのではなく、ローカル自給を意識すれば、もっと所得を上げられるはずです。ローカル自給とは、狭い範囲の閉じたエリアの中で生産と消費の関係を完結させるものではなく、必要なモノはなるべく近い所から調達する、近隣で揃わないモノはもう少し広い範囲で融通しあう、天災など非常時にはもっと広域の物流で支え合うというものです。
 狭いエリアだと小学校区とか、もう少し広い範囲だと都道府県の地方振興事務所の管轄地域、さらに広くすると流域単位といった感じで、対象となるモノによって集出荷範囲を変えれば良いと思います。具体的には、普通野菜は狭い範囲で、乳製品や魚介類は広域で集荷・配送するのが基本となるでしょう。
 高齢のため車の運転を控える人が増えていけば宅配の需要も増えてきます。生き甲斐を持ちながら20年から30年続く年金生活を過ごすため、運動を兼ねて農作業をする人も増えてくるでしょう。「環境再生型農法」であれば、機械や施設の投資をすることなく始められて、農薬や施肥などの手間をかけずに続けられます。必ずしも収益を上げようと気負う必要はなく、試行錯誤しながら気楽に野菜や草花を育てていく中で、ときには食べきれないほど作物が採れることも想像できます。すると、余った作物を集荷してもらい、逆に自分が作れなかった作物を宅配してもらうという、双方向の流通需要も発生します。
 消費者の中には、近隣で採れた環境にやさしく栄養価の高い多様な野菜を求める人や、形や大きさにこだわらず食べきれるだけの量が欲しいと思っている人もいます。生産者と消費者の双方にニーズを掘り起こす余地がまだまだありそうです。
 ニーズの聞き取りやマッチングは、個々のスーパーができればそれに越したことはありませんが、経営方針の異なる事業者がみな同調するとは限りません。ローカル自給を全国展開するには、全国ネットワークの流通基盤を持ち、広く認知されている生協・農協・漁協の組織力を借りたいところです。
 生産者サイドの農協・漁協と、消費者サイドの生協のどちらも、宅配と店頭販売のサービスツールを持っています。組合員同士が情報交流を深め、ローカル自給というコンセプトと方向性を共有すれば、双方が有する既存の基盤を使って共通のサービスを広範に展開することは可能だと思います。店舗や集配拠点が近くにない地域では、地場産の販売に熱心なスーパーやコンビニエンスストアに協力を仰ぎ、産直コーナーを設けてもらうなり、宅配サービスを代行してもらうなりすれば、ローカル自給のトレンドは強固なものになるでしょう。


高木 圭介
E-mail: spk39@outlook.jp

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