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【1-12】化石燃料の消費削減を促す炭素税

 環境税(炭素税)は、脱炭素社会の実現に向けて化石燃料の消費を抑制し、環境に負荷のかからない産業・サービスを育成していくための政策誘導として有効だと考えます。必ずしも安定した税収の確保を目指しません。生活必需品だからといって税率が低くなるとは限らず、輸送距離の長いものや製造過程で化石燃料を大量に消費しているものは結果的に納税額が多くなります。逆にエコロジー商品・サービスは税率が低くなります。
 税の徴収は、産油国から輸入し精製する石油元売会社に対して、精油販売価格の一定割合を課税するものとします。税率は年々上げていって然るべきだと考えます。安定財源を期待するのであれば、少なくとも現行の消費税と同等以上の税率にするべきでしょう。
 環境税(炭素税)が導入されていない国からの輸入品については、移動距離や製造にかかる化石燃料の消費量を想定して、応分の関税を課すのが妥当です。
 化石燃料の消費者に対して、消費量に応じて広く負担を求める間接税であるため、消費税と同様の税収効果があります。化石燃料の消費を抑制する事業者ほど負担が軽くなるので、政策誘導の面でも効果テキ面です。
 
【無駄な生産流通がもたらす弊害】
 仲村和代氏と藤田さつき氏は「大量廃棄社会」(2019年、光文社新書)で、アパレル産業や食品流通業において発生している、製品の大量廃棄と劣悪な労働環境に関して、以下のような問題点を指摘しています。
○大量廃棄
・有名ブランドの売れ残った服やカバンは、安売りすればブランド価値が傷つくから、処分費用がかかっても、すべての商品を粉砕・焼却して、横流しなどされないようにしている。
・供給量と消費量の統計データによると、新品の服は半分近くが販売されることなく廃棄されると見積もられる。
・コンビニやスーパーは、納品遅れや欠品があると、それを目当てにしていた客への販売機会を失い、不利益が生じると考えており、「たくさん作って余らせて捨てる方がまし」というマインドから、余ってしまった食品はコストをかけて廃棄している。
・食品に関しては「3分の1ルール」と言われる商習慣があり、製造から賞味期限までの期間を3等分し、製造から3分の2の期間を過ぎた商品は廃棄されている。
○劣悪な労働環境
・生産現場では、同業同士の仕事の奪い合い、バイヤーからの値下げ圧力により、受注する工賃の単価が下がり、数をこなして売り上げを確保せざるを得ない状況。
・販売されることなく廃棄されるという無駄の裏には、国内では技能実習生に対する、最低賃金割れの労働やサービス残業の強要、海外ではバングラデッシュなど貧困国の過酷な労働環境での長時間労働という「無理」がある。
 
 半分はゴミになることが分かっていてモノを生産する、その生産現場では低賃金の長時間労働を強いられているというわけです。このように大量生産・大量廃棄を繰り返している典型的な業界が、アパレルや食品流通なのでしょうが、その他の産業でも同じような問題を大なり小なり抱えているものと思われます。雇用を維持するためとはいえ、大量の「ゴミ」を生産する事業を存続させれば、大量生産に伴う大量のモノの輸送と、大量の化石燃料の消費を継続することとなります。
 経済界は、温室効果ガスを削減するプロセスとして、省エネ設備の導入や再生可能エネルギーの活用によるCO2等の排出削減量や、適切な森林管理によるCO2等の吸収量をクレジットとして認証する「J-クレジット制度」や、各国家や各企業に温室効果ガスの排出枠を定め、個々の排出枠の不足分・超過分を金銭取引で調整できる「排出権取引」制度を強く推奨しています。
 しかし、これらの制度に参加するには、新たにエコ商品を購入するとか、エコ施設に投資するとか、モノを新たに製造するか、そのためにお金を使うことが大前提となっています。従来から継続して省エネに取り組んでいた事業者は、恩恵がなく蚊帳の外です。従前から温室効果ガスを大量に排出してきた経済界がスポンサーになって取引を主導する制度なので、最終的に資金が経済界に還元されるような仕組みになるのは当然のことです。製造するものがエコ商品だとしても、目指すところが新た投資の促進となると、結局はモノの大量生産・大量販売となり、省エネに逆行した無駄な生産に繋がります。
 こうした無駄な生産を抑制するためには、化石燃料の消費量に応じて課税する炭素税の導入は欠かせません。最低賃金を上げる、労働時間を制限するといった労働法規の厳格な運用も徹底するべきです。こうすることで、産業構造を薄利多売の体質から、少量高値販売を志向するものへ転換していく必要があります。
 炭素税導入や労働法規の厳格運用で廃業を余儀なくされる企業が出てくるでしょうし、その結果、失業者が多く生み出されることも想定されます。グリーン・ディールによる雇用の創出や、失業者への直接所得補償は、そうした事態への備えにもなります。


高木 圭介 
E-mail: spk39@outlook.jp

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