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【4-14】公益事業を次世代の環境整備に重点シフト

 私は、バックナンバー【1-1】~【1-15】で「緑のベーシック・サービス構想」の概要を提唱し、人々の基本的な生活基盤を保障するための公益事業の重要性を訴えてきました。また、バックナンバー【4-1】~【4-13】では、様々な公益事業がある中で、脱炭素化を進める観点から、政府調達の予算配分のあり方にも注意を払う必要があることを述べてきました。
 公益事業の予算に関して言うと、医療、道路等の公共土木工事、防衛施設・装備が手厚く措置されているのに対して、教育、保育、介護の部門への投資が厳しく制限されているのは、業務を担う事業者団体による行政機関への働きかけ、いわゆるロビー活動がいかに物を言うかを示唆しています。
 公益事業の従事者が個々に受け取る報酬は、政府調達の予算の範囲内で分け合うこととなるため、結局のところ、予算総額によってコントロールされます。
 その中でも、医師、看護師、薬剤師、事務職員等の医療従事者の報酬は、診療保険料にしっかり包含されていて、安定的に保障されていると思われます。
 公共土木工事や防衛施設・装備にかかる費用は、主として業務を受注した民間事業者の収入となります。これらの受注事業者は、競争入札による契約手続きを経て決まる仕組みになっていて、その契約額は発注する行政機関が設定する予定価格の80%を下回ることは基本的にありません。そしてこれらの予算は国庫負担または地方交付税交付金によって措置されていて、事実上、国費100%で賄われています。
 行政機関が発注する事業の予定価格は、所管する国の行政機関によって算定方法が事細かに定められていますが、その算定方法自体は関係する事業者の見積もりに基づいています。したがって、公共土木工事や防衛施設・装備に関しては、受注事業者にとって経営が成立できるだけの収入が得られて、事業従事者の給与も一定程度保障されると言うことができます。
 その一方で、教育、保育、介護といった、人をケアする事業に関しては、従事者が多い割に国の予算はあまりに抑制的です。費用の大部分は地方自治体が負担し、国は一部経費を渋々補助するという形をとっているので、こうしたケア事業を充実させるには地方自治体の厚意と熱意に頼らざるを得ないというのが現状です。
 保育園の待機児童数が一向に減らない、小学校教員が定員割れで不足している、介護施設の労働が過酷で職員が長続きしないといった問題がよく聞かれます。これは、給与の割に重責を個々の職員に背負わせすぎていることが根本の原因です。人をケアする仕事は、分け与えられた役割をマニュアルどおり機械的に淡々とこなせばよいものではありません。ケアする対象者を一人の職員に任せきるのではなく、複数の職員がカバーしあう体制の構築が必須です。現場の職員の声をよく聞いて、ゆとりある職場環境を確立するためにも、十分な待遇が保障された十分な人員を確保できるように、国はしっかりと予算措置するべきです。
 公共事業費や防衛費に、毎年何10兆円も計上できるのであれば、5兆円程度しか計上していない教育・保育予算を2倍や3倍に増額するなど難しい話ではありません。国の財政部局と予算を審議する立法府の見識が問われる問題です。
 国の予算で優遇されている、医療、公共土木工事、防衛施設・装備に話を戻します。これらの事業にかかる費用のうち人件費を除けば、その多くが化石燃料を消費してモノを製造・整備することに使用され、それらのメーカーや建設会社の収入になっています。
 政府調達の発注機関が大都市にあれば、受注する会社も多くが大都市に拠点を置きます。事業で購入・整備したモノが農山漁村に置かれたとしても、資金は大都市の中で右に左に流れるだけです。農山漁村はモノを購入する立場になり、一次産品を売って得られた資金が大都市に吸い上げられてしまいます。
 政府調達に関わる発注機関と受注会社の従事者は、どちらも大都市もしくは大都市近郊の住人となり、仕事のある大都市は益々人々を引き寄せます。住民であり消費者でもある彼らは、自らの生活のために必要なモノを近所で手に入れようとするので、消費者が支払う代金も大都市の中でグルグルと循環することになります。
 食べ物や身の回りの生活用品や住居は、都市から離れた農山漁村もしくは海外のどこかで生み出された原材料が加工され、運ばれまたは組み立てられたものです。したがって、人口が都市に集中するほど多くのエネルギーが消費され、その帰結として自然に還らないゴミが大量に生産されます。都市への加速度的な人口集中は、地球環境を息苦しいものにして、次世代の人々の幸福を奪うことになります。
 国の予算において、第一に充実させないといけないのは教育ですが、これに次いで目的意識を持って進めたい取組として、都市から農山漁村への人と資金の還流・分散が挙げられます。
 農山漁村に直接お金を配るといった愚策はしません。まずは政策として、未成年者に対して食事や居住空間生活を無償で提供します。その際に公共事業などの政府調達と同様、地域の行政機関が給食事業や教育・滞在施設の整備改修事業を企画・発注します。そして、食材や木材等の生産物を提供してくれる地元の事業者と契約することを前提として、再生産可能な予定価格を設定し契約受注者に所要額を支払うのです。再生産可能な額とは、事業者が生活していくのに十分な対価を意味します。市民の福祉向上と農山漁村の活力再生を両輪として前進させる公共事業であり、私はこれを「グリーン・ディール」と総称しています。
 公共事業として位置づける以上、公平性が担保されないといけません。固定資産の形成・改修を目的とする事業であれば、公有地で実施することが条件となります。将来世代の生活環境を考慮するならば、ゴミを排出・蓄積することなく、土・水・バイオマスといった再生資源を循環利用する仕組みを社会全体に根付かせていくような事業が望まれます。遠方からエネルギーを消費しながら資材を運んでくるのではなく、身近にあるモノを活用して、資源のサイクルを地域内で完結させる方向に、公共事業を通じて誘導していくのです。
 国が事業の要件を事細かに規定し、内容について干渉を始めると、事業を硬直化させる可能性があります。公共事業は、「生物多様性の保全・活用」と「公共交通の確保」という大枠の目的に合致しているのであれば、地域の創意工夫と合意形成のもと展開していくのが良いと考えます。


高木 圭介
E-mail: spk39@outlook.jp



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