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【4-10】産業振興目的の補助金は不要

 諸々の産業振興補助金は、零細企業の経営支援が表向きの目的ですが、実態はモノを買わせてそれを補助するものばかりで、その結果、投入した資金は施設メーカーに流れ、肝心の中小企業の所得向上に繋がることはありません。
 特に農業者は、国の補助金に翻弄され続けてきました。アメリカ・ノースダコタ州のゲイブ・ブラウン氏は、「土を育てる」(2022年、NHK出版)において、モノカルチャーを中心とする近代農業は政府の支援策なくして成り立たないと述べる一方、それがもたらす影響は人々の健康被害などにも及んでいるとして、以下のように警鐘を鳴らしています。
・量を追い続ける生産モデルのせいで、単一栽培が広がり、栽培される作物の品種も20世紀の100年間に90%失われた。
・先進国の食生活は、カロリーやタンパク質の摂取量は十分すぎるが、作物を品種改良して甘く噛みやすいものにしてきた結果、必須ミネラルやその他栄養素が不足するという状態にある。栄養素よりも、作物の外見、成長速度、日持ちなどに重きを置く工業型農業によって偏った作物ばかり選ばれた帰結として食べ物の選択肢が狭まった。
・最近の品種改良された作物の多くは、菌根菌と共生関係を築く力を持たない。生物多様性の喪失は、養分循環の減少と雑草の増加を招き、それは化学肥料と除草剤への依存度を増した。除草剤は作物が病気を撃退するために必要な栄養素を不足させ、害虫の影響を受けやすくする。そして農薬の使用が増えて益虫も同時に殺される。
・牛舎に閉じ込められて育つ乳牛の乳製品は栄養価が著しく低下し、人間の健康にも悪影響を及ぼしている。デンプン質の飼料を与えられる牛の肉も栄養価は下がっている。
・アメリカの農家はみな、政府の農業保険で面積あたりいくらの額が受け取れるかを正確に把握している。経費をその額以下に抑えれば確実に利益が出るビジネスになっているが、保険で補償される金額は結局のところ、化学肥料、除草剤、農薬、殺菌剤、農業機器の業者に食いつぶされてしまう。
・生産者の多くは、1~2種類の作物または家畜しか育てておらず、非常に効率はよいが、値段の変動に経営が左右されるという大きな代償を払わされている。生産者の利幅がどんどん少なくなり、農地のサイズを巨大化しないとやりくりできなくなった。農場はより少ない人間で管理する形となり、たくさんの町や村の崩壊につながった。
 
 吉田太郎氏は「土が変わるとお腹も変わる―土壌微生物と有機農業―(2022年、築地書館)」において、アグリビジネスは耕起することを前提とする工業型農業に誘導しながら、それが原因で発生した問題の解決のために様々な資機材を購入するよう仕向けてくるが、それこそが益々化石燃料への依存を止められなくする戦略だと指摘し、その問題背景を以下のように解説しています。
・現在のフードシステムのあり方を決め、それと関連した情報を提供しているのはアグリビジネスで、そこでは経済尺度だけで物事が判断されている。草地が農地に転換されれば、タネはもちろん、化学肥料や農薬、抗生物質、ホルモン剤が販売できるし、農業機械メーカーや畜舎の建設業者、飼料会社も参入していける。牛のげっぷのメタンが温暖化の原因として槍玉にあげられ、化学肥料から出る亜硝酸窒素がほとんど批判されないことは、コインの裏表である。
・化学窒素肥料の製造は、不活性の窒素を天然ガスやガス化された石炭に由来する水素と高温高圧条件下で触媒反応させるため大量のエネルギーを必要とする。全世界のエネルギー消費の約1.2%を占めるうえ、化石燃料を原料として用いていることからして持続可能ではない。それでいて、作物に吸収されるのは施肥量のわずか10~40%にすぎず、残りは、アンモニアや亜硝酸窒素として大気中に放出されたり、硝酸塩として水圏へと流出したりして、世界各地で環境汚染を引き起こしている。最高90%も失われるとなれば、経費的にも非効率極まりない。
・工業的に生産された食品のビタミンやミネラルの欠乏の原因は、土壌の栄養循環の原動力である土壌カーボンが失われ、植物からの液体カーボンと土壌微生物からのミネラル交換という関係性が破壊されたからに他ならない。劣化した土壌から生産される食品には、免疫システムが効果的に機能するうえで必要な必須微量ミネラルが含まれていない。病気は、食生活における必須ビタミン、ミネラル、微量元素の不足に大きく関連している。カロリーが豊富でも栄養価が乏しい食品を過剰消費することは、肥満、糖尿病、心臓病につながる。
 
 メソポタミアやインダスなどの古代文明から近代の慣行農法まで、農業は一貫して広大な大地をカーボン排出源にして荒廃させてきました。脱炭素社会への移行が迫られている今こそ、環境保全型農法の普及によって農地をカーボン吸収源に転換する取組を進めるチャンスです。
 まずは耕起(水田では代掻き)をやめることです。耕起するから、その後の行程で施肥や農薬散布が必要不可欠になるわけで、カバークロップにより土壌の健康が改善されれば、それも不要となります。とりやめた作業工程の分、確実にコスト縮減ができます。それで想定の収量を上げられるのであれば実施しない手はありません。地域の農業者が作物の品質や雑草対策に関する疑問が解けないようであれば、試験栽培を行ってみたら良いでしょう。
 CSA(Community Supported Agriculture:地域支援型農業)を普及し、生産者と諸消費者の距離感を縮めるのも、事実上これまで生産者が負担してきた流通経費の節減に有効です。環境保全型農法もCSAも導入経費はかかりません。農業振興を目的とする補助金は不要なのです。
 産業振興は国の仕事ではないですし、それが結果として無駄なモノの生産を促すことになれば、脱炭素にも逆行します。いきなり補助金を廃止することで業界がパニックになるのを防ぐ必要があるならば、3~5年の経過措置(激変緩和対策)を設けて、補助金をフェードアウトしていくのが良いと思います。
 現代は、資本を蓄積することが権威の象徴となっていて、世界中が国を挙げて資本増殖を至上目標にしてきた結果、地球環境の劣化を加速させてきました。これに加担してきた国の財政方針は根本的な見直しが求められます。「衣食住 ローカル自給を グローバルに」をスローガンに、世界中の国々が歩調を合わせれば、次の世代に豊かな地球環境を継承していくことは可能です。


高木 圭介
E-mail: spk39@outlook.jp

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