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【4-2】脱炭素視点の財政リストラ

 国の財政支出は、教育や生活インフラを充実させ、その水準を維持するのに欠かせない政策ツールです。ただ、財政支出によって脱炭素に逆行する投資や消費行動が促されるような事態は避けたいものです。一見して目的が同じ予算費目であっても、使い方次第で化石燃料の消費を促進し、関連のメーカーやサービス事業者の懐を潤すだけという事態も起こり得ます。脱炭素社会の実現に向けて、政策の実効性を上げていくため、予算編成の過程で留意すべき点を幾つか具体的に述べたいと思います。
 日本国の社会保障費は、2023年度に37兆円が計上されていて、一般会計の3分の1を占めています。内訳を見てみると、全体の3分の2にあたる24兆円が医療保険と年金保険の補填に使われていて、生活困窮者などをサポートする直接的な社会福祉経費は13兆円程度に過ぎません。バックナンバー【1-14】でも述べましたが、医療保険と年金保険はそれぞれ独立採算の特別会計の中で運用することとし、一般会計からの繰り入れに頼るべきではないと考えます。不足する24兆円は莫大ですが、高額所得者に対して、保険料の負担率を下げずに一般庶民と同率に課税することで賄うべきです。
 医療費の中味についても精査する必要があると思います。高額医療の象徴であるがん治療に関して、医師の赤木純児氏が著書「がんを切らずに治す」(ワニブックス、2023年)で問題提起しています。赤木氏が実践する「免疫統合医療」は、末期がん患者の70%の生存日数を伸ばし、がん細胞を縮小・消失する実績を上げていますが、治療に際しては、深刻な副作用を回避し、かつ免疫力を高く保つために抗がん剤の使用量を、保険診療で規定する量の10分の1~6分の1に抑えているとのことです。しかし、個々の薬剤の使用方法・量を複雑かつ厳格に定めている保険診療では、医師の裁量で節約するなど規定に従わない治療方法を保険の適用外としており、したがって免疫統合医療は患者の全額自己負担になってしまうという実情があります。
 医療保険の制度設計の主導権は製薬会社にあるとみられます。できる限り多くの薬剤を消費するよう誘導する仕組みになるのは自明のことです。医療費高騰の要因は、一にも二にも薬剤の過剰投与にあると考えます。また、薬剤の製造は化石燃料の大量使用が伴います。医療費の高騰は、製薬業界を成長産業化する観点からは望ましいことでしょう。しかし、人々の健康を増進し、患者の健康寿命を伸ばすことを目指すのであれば、薬剤使用量に関する保険の適用を全国一律で規定するのではなく、ある程度個々の医師の裁量に委ねるべきではないかと思います。評判を聞いた患者が、実績を上げた診療所・病院を選択するようになれば、高額医療に頼らずとも医療進歩の見通しが明るくなるかもしれません。
 私は医療保険の管理主体を都道府県に移行するのが良いと考えています。医療費の多くを占める薬剤の投与を最小限に抑えるべく、地域で真剣な議論が展開されれば、脱炭素にとっても一歩前進です。
 近年爆発的に増加している疾患で、医療費高騰の主要因となっている、2型糖尿病、アレルギー性疾患、うつや自律神経失調症などの精神疾患などは、日々の食生活や運動不足からくる免疫異常に起因していると言われています。好きで医者の世話になろうという人はいないはずです。医療の充実も大事かもしれませんが、誰もが実践できる生活習慣病の予防策を普及するのが先だろうと思います。
 まず手を付けるべきは、貧困の解消です。万病のもとである肥満は、貧困と大いに関連性があります。貧困者は、手っ取り早く食費を抑えるため、出来合いの安価なジャンクフードでお腹を満たしがちになります。炭水化物と油脂がメインのジャンクフードは、やみつき成分、砂糖、保存料、着色料などの食品添加物がてんこ盛りで、食べだすと止まらなくなるようにできています。そんな偏った食生活を毎日続けて、肥満とも病気とも無縁なんて、土台無理な話です。
 ドラッグストアを頻繁に利用する人は気づいているでしょうが、市販薬やサプリメントが置かれた棚の隣にジャンクフードが陳列してある店舗がほとんどです。他人のビジネスにダメ出しをするつもりはありませんが、これぞまさしくマッチポンプです。
 貧困者に限らず、子どものいる家庭には、地元産の多彩な旬の野菜を中心にバランスの取れた食材を宅配するのが良いと思います。学校給食にも地元の食材を提供すべきでしょう。強制はまずいので希望する者に支援するのですが、これを国費で調達するのです。あくまでも自分が食べたいものは自分で買うという人はそうすれば良いですが、国が補償するのであれば、利用しない手はありません。身体をつくるタンパク質と腸内環境を整える食物繊維を日頃からしっかり取っていれば、余計なものを食べようという気が起こらなくなるでしょうし、医療の世話になる機会も減るはずです。それで家計に幾分かの余裕が生まれれば、ハレの日などたまの余暇には思い切って外食でグルメを楽しむのも良いでしょう。
 日本の医療費は年間40兆円を超え、50兆円に迫るとされています。これが多いのか少ないのかを述べる立場にはありませんが、それに比べて、国が教育予算にかける5兆円というのはあまりにも貧相です。大学に進学を希望していても、親に経済力がなければ、進学を諦めるか、学業に励むため借金を背負うのか決断しないといけません。大学は行きたい人が行けばよいと思いますが、行くか行かないかの判断が親の経済力に左右されるという状況は情けない話です。
 「返さなくても良い奨学金がある」といいますが、同じ学生なのに、スタートラインで将来お金を返す必要のある人とお金を借りなくても大丈夫な人に分かれてしまうこと自体が、そもそもおかしな話です。貸付ビジネスに頼らなくても学生が不自由することがないよう、教育を無償化するのはもちろんのこと、一定の所得補償も行うべきです。


高木 圭介
E-mail: spk39@outlook.jp

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