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【4-4】環境負荷が少なく災害に強いインフラ整備

 国の一般会計で6兆円が計上されている公共事業は、大半が地方公共団体を実施主体とする国庫補助事業です。地方公共団体の負担分を加えた全体事業費は2倍程度になるとみられ、さらに地方交付税交付金を充てこんで施工する箱モノなど諸々の工事も合わせると、年間20兆円程度が何らかのインフラ整備に費やされているとみられます。
 公共事業費のおよそ3分の1を占めているのが道路整備です。これに港湾・空港整備を加えると、交通インフラ整備は公共事業全体の2分の1を占めることとなります。交通インフラは、整備すればよいというものではなく、大事なのは公共交通手段として機能させることです。脱炭素を進めていくには、マイカーがなくても、公共交通機関だけで誰もが生活を維持していくために必要な移動と流通のサービスを享受できるような環境を整備することだと考えます。
 バックナンバー【1-9】でも述べたとおり、居住地から1km以内の鉄道・バス停空白域を解消すること、深夜を除き概ね1時間以内の運行間隔を確保することを基本とすべきです。空車でバスを走らせるわけにはいかないので、状況によってはデマンドバス・タクシーやカーシェアリングを公共交通網に組み入れるなどして、極力、空白域をカバーすべきでしょう。
 このように公共交通ネットワークの枠組みを固めたうえで、交通サービスを充実させるために必要なインフラ整備を計画・実施していくのがあるべき姿です。場合によっては、車両の確保・補修・運行を含め基盤のメンテナスに振り向けても良いでしょう。国費を充てた新たな路線の開設は、鉄道、バス高速輸送(BRT)だけに認めるべきです。バス路線の計画がなく単に車を走らせるだけの道路の新設は、もはや必要ありません。
 儲け第一で鉄道・バス・船舶を運営するとどうしても、出来る限り乗客を詰め込み、乗客が少ない路線は運行間隔を広げ、最終的に廃止してしまおうという意向がはたらきます。利用者も、不便な公共交通に時間を拘束されるくらいなら、どこへ行くにもマイカーを使えばよいという気になってしまいます。道路の大渋滞や交通事故は、貧弱な公共交通の帰結です。
 そもそも公共交通を民間企業の経営努力で維持させることに無理があります。民営・公営の事業者で維持していくのが困難な鉄道・バスの赤字路線は、国鉄を復活させて、そこに経営資産と運行責任を集積したら良いと思います。
 公共事業費で道路整備に次いで国庫支出が多い治山治水対策についても、抜本的なリストラが必要です。バックナンバー【2-1】~【2-9】で詳しめに考え方を述べていますが、河川・渓谷にダム・堰堤など構造物を建設したり、崩れた斜面を固めたりする従来型の工事は、無益であるばかりか、水害・土砂災害を助長すらしています。
 治山治水対策には、偏在する水資源を再配分し、地域住民の生活環境の改善や、生物多様性の保全に役立てるという、全体を統括する目的意識が必要です。そもそも人の生活環境自体が生物多様性と相互依存の関係により成り立っています。その意味では、治山治水対策のほか、農林水産基盤整備、住宅都市環境整備、公園水道等整備をひとまとめにして、「生物多様性の保全・活用」の趣旨に合致するインフラの整備・保守に使えるよう再編するのが良いと考えます。
 具体的には、流域内の水利用・調整と防災対策を一体的に行うほか、地域産の木材や発生土といった再生資源を活用して構造物を建設・改修するとか、森林間伐や農作業など地域資源活用のため必要となる作業道を整備保守するといった事業に予算を振り向けます。
 治水対策は、流域全体を俯瞰して、上流から下流に至るまで一貫した考え方で設計する必要があります。山間部流域で集約された河川水を平野部の水路や水田を活用して、広く分散・展開することで、淡水資源の海域への流出を遅らせるとともに、洪水被害の軽減に努めます。河川は、水だけでなく、土砂や栄養分も同時に運んできます。これらは本来、河川敷内に堆積したり海に排出されたりするだけでなく、氾濫時に扇状地からその先の平地にかけて広く分配されるべきものですから、農業用水路には土砂・栄養分の分配機能も担ってもらうのが望ましいと考えます。
 大地震の被災地において生活を再開しようとする際に、真っ先に取り組まないといけないのが水道の復旧です。水道管が破断している可能性があれば、その場所を特定して修復しないといけません。広域水道は、平常時には管理しやすい仕組みですが、大地震などのトラブルに見舞われると復旧に時間を要することになり、その結果住民の避難生活が長引いてしまいます。
 山間部や沖積低平地においては、洪水時や地震時の土砂災害・液状化防止対策を目的とする地下水排除施設を分散配置して、それらを地域の生活用水に活用するのが良いと考えます。広域水道に全面依存するのではなく、できる限り水源を分散する方が、トラブルが起きた時の復旧に手間取ることも少なくトラブルを最小限に抑えられます。
 山間部では、迂回路のない生活道路が洪水時・地震時に被災を免れるため、こうした地下水排除を中心とする防災対策を徹底することが望まれます。道路は水道管が埋設されていたり電線が併設されていたりして、まさにライフラインです。傾斜地防災対策としての地下水排除施設は、ライフラインの寸断を防ぎ、地域の水源も兼ねるということで、非常時のレジリエンスを高められます。
 なお、洪水時の湛水被害や大地震時の液状化は、どんなに手を尽くしても完璧に抑え込むことはできないでしょう。浸水想定区域や液状化危険地として地域が認識しているエリアは、元来湿地であったり水田利用されたりしていたところです。不幸にして被害を受けてしまった地域は、無理に復旧するのではなく、湿地や水田に戻すことを基本に跡地利用を検討するのが適当だと思います。
 水田が、洪水調整システムに組み込まれて、増水の受け入れなど水の運用が受け身の形になるのは、農業者の立場からすると不本意かもしれません。しかし、こうした事業は流域治水の一環として行うものなので、ハード整備や改修から施設の運用・管理に至るまでかかる費用は、農業者には一切の負担を求めるべきではなく、国費を主体とする公共事業として取り扱うべきだと考えます。
 16兆円程度計上されている地方交付税交付金は、公共事業予算の6兆円と統合した上で、教育、給食、公共交通、生物多様性の保全・活用などの限定した使途に充てるのが適当です。予算執行にあたっては、整備した施設を長持ちさせることや、発注する際の入札条件で地域の企業を優遇するなどして、地域内の経済循環にも注力したいところです。


高木 圭介
E-mail: spk39@outlook.jp

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