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【5-1】ローカル・コモンズで無駄な資源消費を抑止

 ジェイソン・ヒッケル氏は「資本主義の次に来る世界」(東洋経済新報社、2023年)の中で、地球規模の生態系崩壊と炭素排出量の増加のほぼすべての原因は、「成長そのものを追い求める資本主義」のもとで行われる高所得国の過剰な成長、とりわけ超富裕層による過剰な蓄財にあると指摘し、「人間の具体的な必要を満たすためでも、社会的な目標を達成するためでもない」資本主義の無理筋と反民主性を厳しく糾弾しています。主要な論点を以下に紹介します。
 
【複利的成長主義の無理筋】
・投資家の観点に立ってみると、投資した金額に利子をつけて返してもらうには、毎年、前年より多くの利益を出さなければならない。成長が鈍化する兆しが見えたら、投資家は資金を別の成長企業に移し会社は潰れることになる。投資家が飽くなき成長を追い求めるのは、資本は動かさなければインフレや市場の変化などのせいで価値が下がるからだ。
・大半の投資家に利益を保証するために必要な成長率は年3%とされるが、これが問題になるのは、成長には複利的性質があることだ。年3%のペースで成長が続けば、23年で経済規模高は倍になり、100年後には20倍になる。
・GDP成長率が世界各国の主要な政治目標になった20世紀後半以降、成長は経済と政治に深く組み込まれており、成長が止まれば、企業が倒産し、政府は社会サービスの資金を失い、人々は失業し、貧困が拡大する。資本主義のもとでは、成長は全員を人質にした要求なのだ。アマゾンやフェイスブックなどの企業が拡大し続けるのは、これらの企業とそのCEOが構造的な成長要求に支配されているからだ。
・資本主義が非物質的な財に成長の機会を見出すとすれば、豊富にあってただで使える知識や歌や緑地といった財を囲い込み、人為的に希少な状態にして商品化し、その対価を人々に支払わせる経済が想像できる。
・グリーン成長の提唱者は、今の成長率を維持できるという幻想を守るために、奇想天外なシナリオや巧妙な会計処理を当てにするだろう。
 
【過剰な所得が過剰な資源消費に直結する背景】
・1990年以降、富裕国はGDPが伸び続けているにもかかわらず、国内物質消費量が減少しているのは、消費する輸入材の生産をほとんどグローバル・サウスにアウトソーシングしているためであり、それらを包括する「マテリアル・フットプリント」は、この数10年でGDPの成長率を上回るほどの勢いで劇的に増加している。
・富裕国のGDPにサービス業が占める割合は、1990年代に脱工業化が始まってから急速に増加し、現在では74%を占めているが、同じ期間に資源消費量も加速しているのは、サービス業で得た収入が、豪邸、大型車、プライベートジェット、頻繁なフライト、外国での休暇、贅沢な輸入品など大量のエネルギーを消費する有形財の購入に充てられているためであり、サービス業自体が資源を大いに必要としているためだ。
・同じ量の燃料を得るために、より多くのエネルギーと資材を使い、同じ量の金属を得るために、1世紀前に比べて3倍以上の鉱石を採取しなければならなくなっている。資本主義のもとで、成長志向の企業は成長を促進するために効率の良い新技術を導入するが、エネルギーや資源をより効率的に利用する方法が開発されると、資本家は、節約して貯まった余剰資金を、生態系を破壊する成長産業に投資して生産を拡大してきた。
・テクノロジーが成長に目覚ましい貢献を果たしてきたのは、資本がより多くの自然を生産活動に取り込めたからであり、採取地や生産地へ物質をより迅速に輸送できるようにしたからであり、広告を見なければ買わなかった商品を買わせることで生産と消費のプロセスを拡大したからだ。テクノロジーは、成長要求に駆り立てられ、同じ時間でより多くの仕事をこなすために使われてきたのだ。
・成長は「外」から無料で、あるいは可能な限り安く価値を採取することを必要としており、循環型経済や炭素に適切な値段をつけることによる資源コストの内部化は、資本主義の論理とは相容れないのである。
・資源消費量の増加は世界GDPの上昇とほぼ同じ経過を辿ってきた。1850年から2015年までの排出量のうち92%は、世界人口に占める割合がわずか19%のグローバル・ノースの国々が責任を負っている。世界経済は資源消費にますます頼っており、何より懸念されるのは減速の兆しがまったく見えないことだ。
 
【大量消費を止める非常ブレーキ】
・スマートフォン、ラップトップ、タブレットなどのハイテク機器は、内蔵された部品が故障し、数年で買い換えが必要になる製品に設計されており、大量の電子機器廃棄物が、この計画的陳腐化によって生み出されている。過去10年間で100億台のスマートフォンが、毎年1億5000万台のコンピューターが廃棄され、ナイジェリアなどに輸送され、金属を回収した後、ゴミ捨て場に山積みにされ、水銀、ヒ素、その他有害物質が垂れ流しになっている。この意図的な非効率は、人間の要求とエコロジーの観点から見れば非合理的だが、利益の最大化を追求する資本主義の観点から見れば合理的だ。
・現状よりずっと長い10年以上の保証期間をメーカーに義務づけたり、リース方式に切り替え、メーカーに修理の全責任を負わせたりすれば、大型家電や機器の消費量は75%減り、マテリアル処理量は大幅に削減され、生活の質は向上するだろう。
・芝刈り機や電動工具のような機械は、地域のコミュニティが購入・共有・管理し、所有権から「使用権」へ移行すれば、製品の需要は減少し、お金もマテリアル処理量も節約できる。特に自動車の総数を大幅に減らし、公共交通機関へ投資することは、化石燃料からの脱却を目指すあらゆる計画にとってきわめて重要だ。
・高所得国では過剰に厳しい賞味期限やまとめ買い割引により、低所得国では貧弱な輸送・保管インフラにより、世界で生産される食品の50%(20億トン相当)が廃棄されている。食品廃棄を防ぐため、フランスやイタリアでは売れ残った食品の慈善団体への寄付を義務づけ、韓国では捨てた生ゴミの重さによって料金を徴収している。


高木 圭介
E-mail: spk39@outlook.jp

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