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【1-10】GDPと連動した所得補償と累進税制の確立

【直接所得補償】
 就業機会(雇用)を増やす対策を充実させることで、仕事を求めるすべての人々に仕事と生活に必要な報酬が行き渡るよう努めるのが国の責務です。その上で、日本国憲法第25条に規定する「健康で文化的な最低限度の生活を営む」ために必要となる所得を、個々人に対して漏れなく補償するべきです。
 従来の生活保護は、親族に対する扶養照会や住居の評価額制限などがあるために、真に生活が困窮している人であるにもかかわらず受給申請をためらわせる仕組みになっています。私は、そうした申請主義によるものではなく、各個人が預貯金口座の届け出さえすれば、その口座への入金額に応じて所要額を自動的に補填する「直接所得補償」にすべきと考えます。「直接所得補償」はセーフティネットなのです。
 なお、私が考えている直接所得補償は、全国民に一律の手当を支給するユニバーサル・ベーシック・インカムとは仕組みが異なります。個人の収入を一律に上乗せするだけでは、所得の格差は放置されたままになりますし、富裕層をはじめ所得税の課税対象者にも給付していると、無駄にキャッシュを往復大移動させることとなります。
 具体的な補償額は、18歳以上の個人に対して一人あたりGDPの4分の1(月額10万円前後)程度の現金給付を基本として、収入(口座への入金額)が増えるにつれて給付額を徐々に減らしていき、収入が一人あたりGDPの2分の1以上ある個人には給付しないことを想定しています。一方、18歳未満の個人に対しては、教育の無償化や給食事業により基本的に現金がなくても生活していけるよう保障します。
 直接所得補償は、給付条件を満たすか満たさないかのボーダーラインによって給付の可否が決まることがないよう、シームレスな形で給付額を算定する仕組みとします。給付額の計算式を以下に提案します。
〇 給付額=Im×(0.25 - 0.5×I / Im) [円]
  Iは金融機関の預貯金口座への年間入金総額
  Imは1人当たり国内総生産(GDP)
 
【税制の基本的枠組み】
 国の一般会計の歳入は、支出の財源とするものではありません。課税を行う趣旨は2つあると考えます。一つは、国の支出により世の中に共有された通貨のうち、市中で循環することなく滞留しているお金を回収するものです。もう一つは、脱炭素社会の実現に向けて障害となるような消費行動を抑制するものです。
 そこで軸となるのは、所得に対する課税と、炭素税の2本です。所得税は、収入が一人あたりGDPに満たない場合は課税対象とせず、一人あたりGDPを超えて所得が増えるにつれて税率を累進的に上げていき、最高税率を50%とすることを想定しています。税率は段階的なものではなく一定の計算式によるシームレスな累進性とすることを提案します。計算式は、時の政権が恣意的に税率を改変できないように固定します。
 また、個人と法人が所有する過剰な金融資産に課税する「富裕税」の導入を提案します。キャッシュフローに対する課税を基本とする従来の税制から一歩踏み出し、金融ストックも課税対象とします。
 個人や法人の所得は、各々の預貯金口座への入金額によって把握します。金融資産とは、預貯金口座の残高のことです。複数の金融機関に口座を所有している場合は、それらの合計となります。各自が所有する預貯金口座を税務署に申告することで、税務署が納税額を自動計算し、月割で口座引き落としされる仕組みを提案します。これにより、納税者にとって税の申告にかかる手間を省くことができ、税を徴収する側も事務が大幅に簡素化されます。さらに、脱税行為や資金洗浄などの不正をあぶり出すことができ、金融機関の検査と一体的に事務を遂行できるようになります。
 次に、日々の暮らしをサポートする公益事業の中で特に身近なサービスを提供している、医療・介護補償、年金、地方公共団体の活動については、それぞれ独立した特別会計の中で運営していくことを提案します。支出に合わせた財源の確保が必要となります。これらは主として個人の便益に関わることなので、すべての個人に対して、その所得に応じて保険料もしくは税金を徴収することとします。直接所得補償の給付対象となりうる18歳以上の人はすべて対象です。所得に対して一定の割合で課税するものとして、3本の会計とも一律10%程度ずつが相当だとすると、3本の合計で税率は30%程度となります。
 ここでいう所得とは、直接所得補償の収入を含む、合計の収入です。所得税が課税されている人であれば、税納付額を控除した残額になります。このため、所得に対する課税総額の割合は、所得が一人あたりGDP以下の人で30%程度、所得税の最高税率が課される人で65%(50%+50%×0.3)程度となります。
 直接所得補償を受給する人も含めて、すべての個人が少なくとも所得の30%以上を課税されるとなると、一見して重税感がありますが、それは現行の税制と比べても大差ないレベルです。しかも、18歳未満の人には教育と食料を国が補償する前提なので、その分家計の負担は軽くなるはずです。電気料金や水道料金と同様に、応分の負担が求められるのは当然のことだと考えます。
 なお、これら3本の会計による課税は、消費税と同様、付加価値を課税対象とするもので、どちらも徴収するとなると二重課税になります。とりわけ医療・介護補償と年金に関して、一般会計からの繰り入れに頼ることなく、独立採算の会計運営を徹底していくとなれば、消費税を存続させる意義は失います。
 従来の医療補償と年金は、自営業・一般企業・公務員といった職種ごとの互助組合がそれぞれに保険料を徴収して運営する形になっています。これは転職する人や、官民交流などの人事で異動する人にとっては煩わしい仕組みなので、改める必要があります。私は、医療保障も年金も、それぞれ会計を一本化し、各個人が住民登録時に加入手続きする方式にすべきだと考えます。


高木 圭介
E-mail: spk39@outlook.jp

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