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【3-7】森林利用の多目的化で地域に賑わい

 食料品を含むあらゆるモノは、各メーカーが農山漁村からパーツを取り寄せ、都会もしくはどこかの工業団地で画一的な製品として加工した後に、全国各地に配送されています。目ぼしい生産物がない地域は、単なる消費地でしかありません。それでは所得が流出するばかりです。流通インフラが寸断されれば、たちまち地域の生活が成り立たなくなり、安全保障の観点から脆弱な社会構造だと言わざるを得ません。
 農山漁村は、部品産地扱いされてモノカルチャー化が進んだ結果、活力も失われてしまいました。地域の活力を回復し、社会の安全安心を取り戻すためには、食料をはじめ日常生活に必要なモノをローカル自給できるようにしていくことが、極めて重要な課題だと私は考えます。
 単なる部品産地から脱却するには、地域が日用品の最終生産地になること、そしてそんなに広範でない地域内で製品に必要なパーツを必要な量だけ融通し合うことです。これができれば、地域の就業機会が多様化し、再生可能資源の有効活用と経済循環のサイクルが成り立ち、温室効果ガスの排出削減にも繋がります。
 再生可能資源は農地・林地から採取するのですが、農山漁村のモノカルチャー化は、農地・林地の土地利用に象徴的に現れています。地域の活力低下の元凶となっている、このような状況を打開するためにも、農地、さらには国土面積の7割を占める森林エリアにおいて、モノカルチャーとは対極となる、土地利用の多目的化を進めていく必要があると考えます。
 森林作業道網を整備して間伐等のため林地へのアクセスを良くするとともに、一般の人が散策しながら、バードウォッチングや花・新緑・紅葉の鑑賞をオールシーズンで楽しめるよう、それぞれ地形条件(谷、尾根、斜面の傾斜、標高)に応じて多様な樹種を、それぞれ工夫して配置すると魅力が増します。作業道に近いエリアに山菜・果実採取、植木・苗木生産、枝物(生け花、クリスマス飾り、墓前切り枝など)の採取、鑑賞用樹木の管理を目的とする低木を植栽し、少し奥まったエリアに材木生産を主体とする高木を保存するといったゾーニングが有効と考えられます。
 「小さい林業で稼ぐコツ2」(2022年、農山漁村文化協会)には、目的に応じた森林利用の具体的活動が紹介されています。以下に主な事例を挙げます。
○(株)木葉社(茅野市)
 ヤドリギ → フラワーアレンジメント
○ササノワ合同会社(丹波篠山市)
・端材 → ウェデングブローチ
・ウッドチップ → 有機マルチ材、腐葉土
○京都北山マルタ生産組合
・スギの穂先 → クリスマスツリー
・ハゼ → ろうそく(樹液)、ナンテン → 防腐剤
・ヤナギ → 柳行李(やなぎごおり)、消炎剤・鎮痛剤
・センダン → 家具、内装材、殺虫剤(葉)、生薬(樹皮と果実)
○NPO南会津はりゅう里の会
 クロモジ → 芳香精油、生薬「烏樟(うしょう)」
○(株)木葉社(茅野市)
 アカマツ → 乾燥茶葉(高血圧に効果)
○有賀建具店(伊那市)
 色調や木目の異なる材木(河川浚渫土中の埋もれ木を含む)の組み合わせによる建具・家具の製造
○菅原昆虫店(宮崎・美郷町)
 クヌギ → ホダ木を使った原木シイタケ栽培、カブトムシ・チョウの育成
○大野製炭工場(珠洲市)
 クヌギ(8年で伐採) → 茶の湯炭、バーベキュー用、調湿・脱臭用炭、木酢液、粉炭(土壌改良材)、木灰(陶芸の釉薬ゆうやく)、洗顔料(炭の微粉末)
○(株)えこのは(日向市)
 クスノキ → 樟脳(除菌・虫除け、芳香)
○秩父樹液生産協同組合
 キハダ → ボディソープ(抗菌・保湿効果)、内皮を粉末化しコウゾを混合して手漉き和紙(防虫シートを含む)、健康茶、防虫剤、染料
○(株)キノコハウス(西会津町)
 イタヤカエデ → メープルサイダー・シロップ
○岩手県森林組合連合会(ウェブ入札により木材売却)
・クリ・アカマツ → 文化財の修復
・ナラ・サクラ・オニグルミ → 住宅の床材
・サワグルミ → バドミントンのラケット、トネリコ・シデ → バット
・ナラ・ブナ・ウダイカンバ・シラカバ(硬質材) → 木製釘
○NPO活エネルギーアカデミー(高山市木の駅プロジェクト事務局)
・市内の土場6箇所に持ち込まれた丸太 → 薪(ストーブ)、椅子などの家具、エッセンシャルオイル、作業道の簡易舗装(チッパーを粉砕)、育苗・植付け時に散布する天然植物活力液(スギ枝葉を蒸留)
(作業の特徴)
・10~15人でメンバーの山や共有林を順番に間伐。主な担い手は定年帰農者で、作業は週2回午前3時間程度。週2回、集材トラックが各土場の原木を回収し、ペレット工場へ搬入。
○城里パーマカルチャー研究会(茨城県)
 スギの樹皮をむいて1~2年放置し、間伐材の乾燥時間を大幅に短縮。
○小林保氏・レイ子氏(長岡市)
・タラノキを腰の高さで切っておき、毎年春に繁茂するタラの芽を収穫。
・スギ林の下草刈りした土地で、ワラビ、ヤマウド、ヤマユリ(切り花、鉢植え、食用の球根)、シオデ、ゼンマイ、フキを収穫。
・薄暗いスギ・ヒノキ林内で、サカキ、花ワサビ、ハラン(鑑賞用、生け花)を栽培。


高木 圭介
E-mail: spk39@outlook.jp

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