プロDD・M ~その497

※この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。

 かつて戦場を支配した男がいた。
 彼の拳は天をも砕き、彼の足取りは千鳥足だった。
「攻撃が…..当たらない……ッ!」
「六文屋流酔拳の泥酔ステップ…より訓練された人間ほど、その動きに対処できない。泥酔パンチ!」
「かはっ!」
 ガリの拳がイーを捉える。だが、イーはガリの動きに全く対応できていなかった。
「既にスギコデパートは落ちたぞ!イー!」
「なんだと!?」
「カリスマも死んだ。お前はどうする?」
「嘘だ、嘘をつくなァーーー!!」
 イーは次第に冷静さを欠いていった。
 それほどまでにガリの動きは洗練されていた。
「くっ…!ここまでの差が……!?これが本気のガリ……!」
「そろそろ終わらせようか、イー」
「くそっ!アンシェント・ファーメンティング・イー……」
怨返し
「がはっっっ!!」
 集束したエネルギーをそのまま返され、イーは遂に膝をついた。
(強い…..全て手の内で踊らされていただけだと言うのか……この男…底が見えない……)
「お前を殺すのは、決して恨みではない。これが走馬灯戦争だ」
「ふん…どうせ私は召喚されたヲタク…..また闇へと返るだけだ……」
「さらばだ、イー。次に生まれ変わったら、共に酒を酌み交わそう…」
 そして、ガリは拳を振りかぶった。

(笑った…?これは余裕か?諦めか?)
 マルスは、ライチが笑ったのを見た。絶体絶命のはずのライチ。
 考える必要はなかった。遊戯機構勢に、アネンゴ達もいる。
 勝利は揺るがない。
「まだ抵抗するのなら!」
 サエカピの術がライチへと飛ぶ。
「四方から攻撃されたらたまらないねぇ!」
 ライチがそれを躱した先にカシワギのDIAMONDの拳が待ち受ける。
「ぐあっ!」
 美しき鮮血にまみれながら、それでもライチは笑顔を崩さなかった。
DDパンチ!」
 マルスの攻撃がライチを吹き飛ばした。
「いいねぇ、おじさん!もっとだ!」
「ライチ…!」
 すると、アネンゴが間に立った。
「マルス様、連戦でお疲れでしょう。わらわがこいつは始末します」
「アネンゴ…君だって」
「今はこの遊戯機構の連中もいます。ご安心を」
「…」
 マルスに、ブルーハワイが耳打ちをした。
「マルスさん、アネンゴの意志を汲んであげてください。彼女は、マルスさんがライチを手にかける事を気にしているのです。かつての育ての息子を殺させるのは忍びないと…」
「…わかった」
 マルスがおとなしく下がると、アネンゴ達は猛烈にライチに襲いかかった。


「スギコの目がなくなったおかげで、周囲の状況が把握できる」
 コジオは再び周囲の戦いに目を配っていた。
「これでスギコデパート側についた勢力は全滅しそうだよぉ。俺はそろそろ帰るよぉ」
 ナオユは、任務が終わったとばかりに帰ろうとしていた。
「確かにな。体勢は決した。これ以上、この場にいても仕方ないかもな」
 だが、隣で2人の話を聞いていたライコは、1人、足が震えるのを感じていた。
(なんだ、このどうしようもない不安感は…いったい何が起ころうとしているんだ…?)
「どうした?ライコ、顔色が悪いぞ」
 その時、ライコはその気配の正体が朧気に掴めたような気がした。
「感じませんか…?この圧倒的な呪力を…..」
「呪力…..?いや、俺には何も……はっ!?」
 その時、コジオもかっと目を見開いた。


 目を閉じたイーはいつまでもガリの拳が飛んでこない事を不思議に思い、目を開けた。
 しかし、壁のようなものに覆われ、何も見えなかった。
「どうしたんだ?これは??何が起こっているんだ??」
 その時、目の前の壁が言葉を発した。
ナイットン!!」
「まさか…トンジルスキーだと!?」
 ガリの拳は、トンジルスキーの身体にブロックされていた。
 だが、ガリは、それよりも別の事に注意を削がれていた。
「どうして…ここに…ここにお前がいるんだ……!!」
 ガリは叫んだ。
 その視線は、トンジルスキーではなく、その後方に浮かぶ女に注がれていた。
「消し炭の魔女…….!!」
「あら?久しぶりね。どうしてって?だって、私、イーさんのファンだもの」


「ふっふははっはあ!まさか消し炭の魔女が現れるとはな!ライコ、貴様、鼻が利くらしい!」
 コジオは豪快に笑った。
 しかし、ライコの表情は浮かなかった。
「何を言っている?コジオ…」
「ん?膨大な呪力、距離をとっていても伝わる圧倒的な力…消し炭の魔女だろう。俺にもわかるぞ」
「俺が言っているのは、消し炭の魔女の事じゃねぇ…..!!」
「何を言って………..!!!?」
 その時、コジオの奥深くに響く不快な気配があった。


 ライチの蹴りはアネンゴに当たった。
 だが、アネンゴはびくともしなかった。
「軟弱者め、それでも男か」
 アネンゴの拳はライチの顔にヒットした。
「参ったな、顔は商売道具なんだけど」
「安心しろ、すぐに使えなくなる」
 アネンゴは容赦なく次の拳を繰り出した。
 が、止まった。
 息苦しい、そうアネンゴは思った。
「アネンゴ、言ったよね、俺は。あの時、任務は完了した、と」
(バカな…..身体の奥から、何かが…..溢れだしてくる……ぐ….うぐ……)
 マルスの目にも、それは見えていた。
 アネンゴの内側から溢れ出すどす黒いオーラ……。
 その色に、マルスは見覚えがあった。
「最南端との戦争…あの時、スギコ様、いや、スギコに言われて植え付けておいた走馬灯の欠片……」
「はぁ…はぁ…..うご、うごごごごお….」
「走馬灯の示す22枚のタロットには変化があるというのは既に知っているでしょう?例えば、節制が技となり、審判は永劫となる……」
「あ…あがぁぁぁ」
「では、力は?……力は欲望となる!!目覚めよ!!欲望のヲタク…….!!!!」
 アネンゴの身体を突き破って、そのヲタクは現世へと降臨した。
 そして、そのどす黒い不吉なオーラを纏い、その双眸はマルスへと向けられた。
「やっと会えたね……待ちわびたよ……兄さん」
 マルスはその男の名を口にした。
「……..カエル

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