プロDD・M ~その517

※この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。

 アッキーの眼前で、なにかが光った。
 次の瞬間、口元の手羽先は綺麗な断面を残して地面に落ちていた。
「さて、約束通り帰ってもらおうか」
 ヨシケーは、するりと刀を腰に締まった。
 ライコは感じていた。
(アッキーさんが冷や汗をかいている…今の剣筋、俺にも見えなかった…)
 しかし、次にアッキーがとった行動は、一同の予想に反したものだった。
「あっはっはっはっは!」
 大笑いしたアッキーを見て、ヨシケーは不快感を示した。
「笑うな」
 再び抜かれた刀の切っ先は、アッキーの眼前に向けられていた。
 その凄まじい剣速は、側にいたライコにすら見えなかった。
「いいのか、そのまま俺を斬っても」
「何?」
 ヨシケーは、はっとしてアッキーの視線の方向を見た。
 すると、そこには、うずくまるマキゲの姿があった。
「マキゲ!!貴様、いったい何をした!!」
 ヨシケーは叫んだ。
栞は未来への約束
 ぼやりと情念の炎が灯り、アッキーの強い気配を伴った栞が、マキゲの体にくっついていた。
 ライコは分析する。
(そういうことか…アッキーさんは、手羽先を落としたらと挑発することで、攻撃の行き先を自身ではない手羽先へと限定した。そのうえで、初めからマスターであるマキゲを狙っていたのか…)
 アッキーは、ヨシケーの刀が振るわれた時、自らの力をこめた栞をマキゲへと飛ばしていたのだ。
 誰もがヨシケーの刀、アッキーの手羽先に注目する状況を作り出し、その隙をついて、己の計画を実行していた。
(恐ろしい…..なんという外道だ……)
 ライコは改めてアッキーの恐ろしさを確認していた。
「どうする?ヨシケー?俺を攻撃すれば、マスターであるマキゲは死ぬ。今や彼女は俺の操り人形だからな。この栞を取り除かない限り」
「くっ…..」
「無理矢理ひっぺがせば、当然死ぬ。でもいいんだぜ?シナリオは君が掴むんだ。アッキー軍団は選択型グループだからな」
「…….詳しく話を聞こう」
「賢明な判断だよ、ヨシケー」


 その頃、マルス達。
「マルスさん、感じますよ。また圧倒的な強さを手にいれましたね」
 ブルーハワイはマルスの変化にいち早く気付いていた。
 過去の時代でセルー達と共に、最前管理組合と戦ったことで、マルスは古代のヲタク並みの力を取り戻していた。
「いったい何があなたを変えたの?」
 ツムギがマルスに尋ねた。すると、マルスは遠い目をしながら、セルー達との日々を語り始めた。
「最初は、敵かと思って戦った。不思議と拳が合った。そして、幾つもの組織を束ねるようになり、最前管理組合という巨悪を共に滅ぼした……」

DDパンチ!!」
「気に入ったァ!俺はセルー、特区の戦士だ!」
 この出会いから、すぐにマルスは、セルーの勧誘を受けるようになった。
 しかし、当のマルスは、まだ過去へ来た意味を見いだそうとしており、仲間になる気もなかった。
 しかし、その勧誘は続き、マルスはセルー達と共に行動するようになった。
 これは最前管理組合を潰すに至る物語。

 第16部 特区 ~最後の戦士~ (続き)

 それよりも以前、マルスが過去に来てセルーと出会う前、ラルクマとスペは、どちらが壁の外の王になるのかで揉めていた。
「タイマンだ!勝った奴がボスだ!」
「乗った!!」
 だが、誰かが言った。
「壁の外…この特区の王は、セルーさんだろう」
 2人はそれに反発した。
「誰だ、そのセルーってのは?」
「見つけ出してやってやるぜ」
 少し探した後、2人はセルーの居場所を掴んだ。有名人である、それは簡単だった。
「あんたがセルーか?」
「…そうだが」
「自己紹介してやるぜ、俺はラルクマ。ここから西一帯を仕切っている」
「俺はスペ。東は俺の縄張りだ」
 後に彼らは語る。それが、セルーさんとの出会いだった、と。
「「俺達と戦え、そして、誰が特区のトップか決めようぜ」」
「特区のトップだと?……なら、お前がなれよ、俺は寝る」
(なんだ、こいつ?ビビったのか?王でも何でもなかったのか?なんでボスがこんな諦めの早い弱者なんだ?)
 思わずスペは漏らした。
「あ、はい、おやすみなさい」
 ラルクマもそうだった。
「プライドもねえのか…」
「じゃあな、昨日までのトップさん。これはプレゼントだ」
 別れとばかりに、2人は、セルーの前に酒瓶を置いた。
 そして、離れた場所で2人は向き合っていた。
「やっぱ、俺たち2人でトップを決めようぜ」
 その様子をにやにやしながら見る男がいた。
「おう、思う存分やりあえよ~。トップになった奴は俺がぶちのめしてやるぜ、そしたら、俺がトップだ。表向きはセルーだったが、そもそも俺はあいつのことが気に食わねぇ」
 その後ろには配下と思われる集団もいた。
 そして、ラルクマとスペが相討ちになった頃を見計らって、2人を襲撃にかかった。
「なんだ、こいつら」
「まだ俺らの勝負もついてねぇぞ」
 そう言いながらも2人は立つのもやっとの状態だった。
 襲いかかる集団。それに飲まれていく2人。
 そこに、現れたのはセルーだった。
「いい加減にしろ。大勢でよってたかってカッコ悪い」
 思わぬ男の登場に集団は手を止めた。
「誰かと思ったら、特区の王、セルーさん。今日はお昼寝じゃないんですか?こいつらの肩を持つんですか~?そうやって登場すんのがかっこいいとでも?」
「ん?かっこいいつもりはねぇが、お前にはそう見えたわけだ」
 その時、ラルクマ達は思った。何しに来たのか、と。
「ちょうどいい。前からお前にはムカついてたんだ。今日、ここで俺が特区の王になってやる」
「俺は戦うつもりはねぇし、王になったつもりもねぇ。ダチだからな」
 そして、囲んできた配下達を無視して、一気に男との距離をつめた。
「お前が戦えよ?こうやってぶちのめせば、お前がトップになんだろ?なぁ?」
 セルーは男の首根っこをつかむと、それを武器のように扱い、男の配下をぶっ倒していった。

 そんなセルーとの出会いの話をラルクマとスペは、マルスに嬉しそうに話した。
「それで、セルーさんは言ったんだ」
「そうそう、あれには笑っちまったよな」
「実はな、スペ、あれは嘘だ」
「ただ単にお前達がくれた酒がうまかったからだよ」
「「ってな」」

「おいおい、おめぇら、俺より先に来てマルスくどいてんじゃねぇよ」
「特区には入らねぇ、昨日もそう言ったはずだぜ?」
「つれねぇな、マルス」
「帰ってくれ、セルーさん」
 2人は最初から意気投合していたわけではなかった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?