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「いいウソ」について。【2023年9月3日】

「ウソはいけねぇ」おれもそう思う。でも「いいウソもある」って、誰かがよく言う。「いいウソ」ってどんなのかなぁ、とぼんやり考えていた。

訳あって、電車に乗って板橋区の方に向かっていた。渋谷や新宿付近に比べると高齢者の方が多い印象で、電車の中で誰かが誰かに席を譲る光景を目にする機会が多い。みんなサラッとやるから、コミュニケーションはドライだけど、そこで起きていることはとってもあたたかい。

ひとり、おばあちゃんが乗ってきた。その車両は満席。自分は立っていたからどうしたもんかと思っていたら、おっちゃんが「次降りるんで」と言いながら席を譲った。正確に言うと、最初譲ろうとしたらおばあちゃんに断られてしまって、おっちゃんはその後に「いやでも次降りるんで」と言った。おばあちゃんは「なら…ありがとうねぇ」と言いながら座った。

そして、そのおっちゃんは次の駅で降りることなく、席から少し離れたところで、結局自分と同じところまで乗った。おっちゃんは鮮やかにウソをつき、おばあちゃんに席を譲ったのだった。おっちゃんが降りるとき、「ありがとう」を言える距離でもないのだけど、おばあちゃんは頭を下げていた。

見ていて気持ちのいいウソだった。人はなんでも言い訳がほしい。それは、好意を受け取るときもそうだ。おっちゃんにとっての座席は、渡しても何にも痛くないものなんだから、おばあちゃんに受け取ってもらったほうが幸せの全体量は間違いなく増える。でも、まっすぐな好意は受け取りにくい。だから、「次、降りるんで」と譲る言い訳をつくった。

もしかしたら本当に次降りる予定が変わったのかもしれないし、とっさにでたウソだったのか、それはわからないけど、あのウソはいいウソだったなー、と思った。

東京に出てきた姉ちゃんが体調を崩した。住んでいる場所は離れてる。「いいよ、ちょうどそっちの方に行く予定あったから」とウソをついた。「じゃあ、お願いしよかな」と姉ちゃんは言った。

今日も読んでくれてありがとうございます。でもよ、結果よければすべてよし、ってわけでもないんだよなぁ。

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