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緊球手術

その日、私は腎臓に悪性の腫瘍が見つかり、緊急手術をすることになりました。

私の腎臓に見つかった腫瘍はかなり進行していて、即摘出しなければ命に関わるとのことで、覚悟を決める暇もないまま手術が始まりました。

しかし手術は難航し、もう少しで腎臓を取り出せるという寸前で、私の命は事切れてしまったのです。


私は少し前から幽体離脱をし、魂の状態でその様子を見守っていたのですが、私が事切れ心電図が

ピーーーーー

と音を鳴らした瞬間、医者や助手たちも皆一斉に私の取り出しかけた腎臓から手を離しました。
そして手を離すのが一瞬遅かった助手に向かってみんなで「はいお前片付けなー」と吐き捨て、その助手だけ残してみんな手術室から出て行ってしまったのです。


どうやらこの病院は、学校で昼休みにドッヂボールをした時、

『チャイムがなった瞬間に最後にボールに触ってたやつがボールを片付けなければいけない』

というあの暗黙のルールに則り

『心臓が止まり心電図が鳴った瞬間に最後に腎臓に触ってたやつが腎臓を片付けなければいけない』

というルールを採用しているようでした。

手術室に残された助手は舌打ちをしながら面倒くさそうに私の腎臓を所定の位置に片付け、「やべ、遅れる」とつぶやきながら走って出て行きました。

手術室内に一人残された私はどうしたらいいかわからず、ただ空中を漂い、死体となった私の体の周りを回っていました。


そうして約2時間ほど経った頃、医者や助手達が皆手術室に戻ってきました。

ある者はビブスを身につけ、ある者はバッシュに履き替え、そこはさながら放課後、部活動が始まる体育館の雰囲気でした。

そして次々と私の臓器を取り出し始めたのです。

背の高い助手が私の心臓を思いっきりトスすると、私の心臓が手術室の天井に挟まりました。トスした助手は「やっちゃった~」みたいな顔しながら別の心臓を取りに霊安室に走りました。
こんなことは日常茶飯事なのか、よく見ると天井の至るところに心臓が挟まりドクンドクンと脈を打っていました。

おちゃらけた助手が私の肝臓を取り出し、服の中に入れ「太っちゃった~」などとふざけていると、顧問医に「そこふざけない!」と一喝されていました。

バッシュを履いた助手が私の脾臓を取り出し、バスケットゴールの真下に立ち、通常のシュートとは逆からシュートを試みました。
私の脾臓はゴールポストに当たり、ものすごいスピードで跳ね返ってその助手の顔面に直撃しました。
鼻血を出した助手は周りから「何やってんだよ~」と笑われながら、そのまま保健室に走って行きました。

部活を終えた様子のサッカーシューズを履いた助手が私の肺を専用の網みたいなやつに入れ、手にぶら下げ蹴りながら下院して行きました。

そしてもちろんその間もずっと私の腎臓を使ったドッジボールが行われていました。


なんなんだこの病院は。私の五臓を各種ボールみたいに扱いやがって。
私は魂の状態ながら頭が狂いそうでした。

その時、後ろから「そりゃー!」という叫び声と共に、私の体にとんでもない衝撃が走りました。
見ると、バドミントンのラケットを持った医者が私を打ったようです。

魂はバドミントンのシャトルかよ。

ものすごい勢いで飛んで行った私の魂はそのまま私の体にスポッとはまりました。
後ろで医者の「よっしゃー!」という雄叫びと、ペアの医者とのハイタッチの音が響きます。

見えてたのかよ。そんで点数入ったのかよ。あとダブルスなのかよ。そういえばなんでゴールポストあんだよ。てか保健室行くなよ。医療従事者のくせに。自分で直せよ。いやなんで病院に保健室あんだよ。

してもしきれないほどの突っ込みを心の中で叫んでいると、パッと視界の映像が手術室の天井に切り替わりました。
魂が体に戻ったことで、幸か不幸か、私は息を吹き返したのです。

こんな空間、一刻も早く逃げ出したい!
その一心で、えぐられた傷口をかばいながら私はその狂気の手術室を後にしました。


全く、健康になりたくて手術したのにこれじゃあむしろ体がボロボロに…


あれ?

あれ、でもすごい!体が軽くなった感じがします!手術すごい!




なんか体感、ちょうど5キロくらい軽くなった気がします!





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