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9月。猛暑の後の急な肌寒さが押し寄せた晩、その電話はかかってきた。 音楽を聴いていた陽菜は携帯の呼び出し音に気付かず、微細な振動をかろうじて感じることで咄嗟にイヤホンを外した。 自室の丸テーブルにノートを広げていた陽菜は電話をかけてきた番号未登録の相手を液晶越しに思案しながら、壊れ物を扱うようにゆっくりと通話ボタンを押した。 「はい、もしもし、露木ですが。」 しまった。相手が誰か分からないという状況なのに、変に気を使った為か自分の苗字を堂々と名乗ってしまった。が、もう遅い。