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タンブルウィード

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ーあらすじー これは道草の物語。露木陽菜(ツユキヒナ)は地元山形を離れ、仙台に引っ越してきて三年目。自宅とアルバイト先を行き来するだけの淡々とした日々を過ごしていた。ある日、誤…
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2020年6月の記事一覧

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真っ白な皿の中心、ドーム状に綺麗に盛られた狐色のご飯。外食する際に陽菜は、それを炒飯と認識していた。 お世辞にも丁寧とは言えない態度で陽菜の目の前に置かれた皿。それは、一見するとピラフの様だった。 銀色のスプーンを使い、米の隙間から小海老やとうもろこしの粒を探したがそれらしき物は見当たらない。 バターやハムの香りは全くなく、ネギ油や牛脂の主張の強さが強引に鼻に入った。 品書きに書かれた「チャーハン」の文字をもう一度確認すると、陽菜はその料理に対する印象を一つ改めた。 陽菜は物

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「デビと陽菜ちゃんは先に降りて祭り行ってて、うちは車停めてきちゃうから」 市街地から少し離れた道路脇に荒々しく車を停めると、まゆは後部座席の二人へ言った。 新緑の銀杏並木が立ち並ぶ道路の向こうからは、既に賑やかな音が陽菜たちのところまで微かに聴こえていた。 長い時間を待っていたとばかりに聴こえる笛や太鼓の協奏曲は、照り付ける日差しを浴びて高いところで響いている。 まゆは助手席に散らばった大学の資料やファイルに気付くと、エンジンを切る事もせずに隣へ体を曲げた。 シートベルトを外

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橘(タチバナ)君は、苦笑しながら電話口の店長の話を聴いていた。 先日出したアルバイトの休日申請が、一度穏便に通ったと思われたが、急遽出勤して欲しいという内容の電話だった。 何か先だって予定があった訳ではないのだが、こういった話しが月に度々ある為、タチバナ君は便利なスペアパーツの様な気分だった。 部屋の姿見に映るのは雷に打たれた様な毛色の、こんがりと肌の焼けている、見事な眉毛を蓄えた青年だ。 「またクボさんすか」 握ったスマートフォンの裏面を、人差し指でカチカチと叩きながらタチ