友達ってなんだろうねっていう昔の話(2000字くらい)

最近よく思い出す、大学3年のときの、僕と友人Kとのお話。

僕とKは大学1年からの付き合いで、お互い住んでるところに遊びに行ったり、いっしょに飲みに行ったりしてるので仲は良い…ように見えて、Kは僕に対してどこか見下すようなところがあったし、プライドの高い僕はそれを許せないでいた。

そのせいで会話がギスギスすることもあった。けど、Kは寂しがりだったし、僕は近くで他に遊ぶ人もいなかったしで、ふたりでよく遊んでいた。

あるとき、Kが僕のアパートを訪ねてきた。

1時間後にはふたりとも同じ飲み会に行く。Kが他のゼミを辞めて、僕のゼミに転向してきたから開かれた飲み会。いわゆる歓迎会だ。

自分のために開かれた飲み会に、Kはわくわくしてるみたいだった。

対して僕は気が進まなかった。大人数の飲み会が苦手というのもあるけど、僕が所属するゼミは雰囲気が良くなくて、これ以上仲良くなる必要はないと全員が思っているようなところだった。ゼミ外ではパリピやってるような奴もいるにはいるのだが、このゼミではだんまりだった。

そんなわけで、Kには悪いけど、この飲み会が楽しくないのは確定なのだ。一次会で早々に切り上げて全員帰るところまでもう想像がついてしまった。僕も早く帰りたかった。

(後にKはこのゼミを「童貞と処女しかいない合コン」「ぼっちが集まって牽制球投げ合ってる」「毎回初対面」と称している)

そんなわけで、Kが期待するような飲み会にはならないよ?と諭してみるのが、彼は聞く素振りすら見せず、自前で持ってきたストゼロ500mlを飲み干した。「これから騒ぐぞ~~~」ってことだろうか。

そして飲み会。

予想通りというか、そもそも来ない奴もいた。やっぱりこういう飲み会は苦手だ。僕は部屋の隅に逃げて煙草を吸った。

向こうのテーブルに目をやると、Kだけが酔っていた。Kは誰かれ構わず話しかけていた。Kだけが浮ついて見えた。Kは日本酒をあおり続けた。

飲み会終了。案の定二次会は開かれなかった。僕はみんなを駅に見送った(僕のアパートは居酒屋と駅の間にあった)が、Kだけが来ない。

みんなに声を掛けたけど、

「知らない。まだ店じゃない?」

「知らない。トイレに行くのは見たけど」

「もう帰っちゃったんじゃない?」

だんだんKが不憫に思えてきた。僕は居酒屋に引き返す、というそのときに電話が鳴った。Kからだった。

…Kか?今どこ?

「○○(居酒屋)のトイレ。みんなは?」

…帰ったよ。

「そうか」

…とりあえずそっち向かってる。店の前で待ってて。


店の前には、顔を真っ青にしたK。トイレで吐いてたらしい。

次の電車までだいぶ時間がある。とりあえず彼をコンビニに誘って二人でアイスを食べた。

体調が落ち着いてきたのか、ずっと黙っていたKが嘆くようにしゃべり始めた。

「やらかした」

「酒癖悪いってバレたから誰にも飲み誘われないじゃん」

「どうしよう、もう俺ゼミに行けない」

「絶対みんなに嫌われた」

Kのダメなところである。僕は煙草に火をつける。

「ねえ、一本頂戴。」

…煙草はもう吸わないんじゃなかったのか?

補足すると、Kは少し前になにか煙草でやらかして以来、俺はもう絶対煙草は吸わないと宣言していた。詳細は一切教えてくれないが。

「いいから、一本だけ」

僕は煙草を渡した。そしてなぜか、ここで煙草を渡すのは優しさじゃないな、自分で買えとか言えばよかったな、と思った。

Kは煙草を吸いながら、さっきの嘆きを再開した。

Kが乗る電車はもう少しで来る。駅までの道、Kは突然怒り出して、

「お前はどうしようもないクズ」

「お前は本ばっかり読んで頭でっかちになってしまったんだ」

「お前はバカだ」

大きな声だった。まだ酔いが抜けてないんだろう。

僕は不思議な気持ちになった。普段の僕ならムキになって皮肉のひとつぐらい言い返すだろうけど、そんな気は微塵も湧いてこなかった。うん、とかそうだな、とか、そんな返事だけしていた。

ここまで真正面に悪口を言われたことは、今まで無かった。

今になって思い返してみると、Kの気が済むまでやればいいと思ったんじゃないかな。あのときのあの自分には、Kを見下す気持ちも、自分を卑下する気持ちも無かったと言い切れる。もしかしたら、はじめてKと対等になった瞬間だったのかもしれない。

あの日以来、僕のKに対する心の壁は消えた。なんでかはよくわからない。

という、オチの無い話。最後まで読んでくれた方、ありがとうございました。

p.s. これ、去年の話なんだけれど、冒頭で「昔話」としているのは、記憶の美化が始まっているからです。あのとき感じたはずの生の感覚はもうどこかへ行ってしまったのかもしれない。記憶は大概、なくなってしまうか、美化されてしまうかのどちらかです。これは少しさみしいことです。完全に美化されてしまう前に、この文章を残しておきたいと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?