Moglie 〜モリエ〜 その5

自分の店に向かって「立ちション」をしたオヤジが、そそくさ隣のモリエに入って行くのを目撃した僕は、激怒しつつも落ち着いて静かにドアを開けた。

ちょうど先ほどまでのカラオケの怒号は止んでいる。合流した二人の仲間を招き入れ、乾杯でも始めるところだろうか。僕がモリエの店内へ入ると十数人いたお客たちが一斉にこちらを見た。

「モリエさん、営業中に大変失礼しますが、今しがた中に入ったお二人と話がしたいのですが…」。僕は静かに切り出した。あらどうしたのかしらとも言わんばかりの訝しい顔をするママさん。構わず僕は続けた。「そちらの方がたった今、蕎麦宗の庭に向かって小便をしました。目の前で見ていたので確かです。表に出てください」。怒りを押し殺して、冷静に説明しながら視線を変えた。立ちションオヤジは目を合わせないように俯向いている。その瞬間だ。

「うちのお客さんがそんなことする訳ないでしょ、そんな失礼なこと言うあなたが出ていきなさい」。狭い店内にママさんの怒鳴り声が響いた。立ちションオヤジはさらに小さくなっている。
僕はその一瞬で全てを悟った。「申し訳ない、失礼します」。軽く会釈をしながら、固く握りしめていた拳をゆるめて丁寧にドアを閉めた。つづく

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