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続・暮らしのはじめに椅子ありき

旅するスーパースター、蕎麦宗です。

《お客さんに長居をしてもらう》

という、蕎麦屋としてはあまり一般的でない蕎麦宗の新しいコンセプト。これを体現するための一環として、カウンターにはカールハンセン&サン社のYチェアを7脚揃え、奥のテーブル席にはJLモラー社の63Aという長椅子を用意した。

さて、その搬入の時に静岡の北欧家具専門店《クラフトコンサート》さんと話して意気投合したのが

『暮らしのはじめに椅子ありき』。

で、その後《クラフトコンサート》さんへと伺った際にした《悩ましい体験》、それが【ザ・チェア】である。

移転した別館への案内を受けてあれやこれや見て廻るなか、2階へと階段を登りきった角の一段高くなった目線の先の棚に、燦然さんぜんきらめくその椅子。Yチェアと同じくハンス.J.ウェグナーのデザインで、かのケネディ大統領がニクソンとの対談にて使用した際、そのあまりの座り心地に

『これこそ,椅子の中の椅子だ!』

と言った逸話から【The Chair(ザ・チェア)】

と呼ばれるようになった。その日にはまだ、この逸話を知らぬ僕でさえ、神々しい佇まいに息を呑む程だった。これはなんとも優美で、堂々たる品格と存在感。繁々しげしげと眼で舐め回して眺めていたら、そこにクラフトコンサートの店主さんが一言添える。

『座ってみる?』

『えっ,イイんですか?!』

と,図々しいこの僕がこう返答したワケは、後ほどの説明を待って貰おう。店主さんは小柄な身体をめいっぱいに伸ばして肘掛けの袖を掴み、ゆっくりと棚から下ろしてやさしく床に置く。それに手を添えていた僕は、*ジーパンのポケットから財布とクルマのキーを取り出しそばに置き、【ザ・チェア】の革張りの座面にはんなりと腰を下ろした。

『ヤバいっ。これ座っちゃダメなヤツですね』

思わずこぼれる笑みに、店主さんもニコリ。このところ【Yチェア】の座り心地にいたく感激して悦に入っていた気持ちを、さらにふた回りほど大きくして包んでくれる【ザ・チェア】。広げた掌で肘掛けを撫でさすりながら、丸めた背中を背もたれに乗せる。うわっ、《至極》のひと時。正直言ってYチェアが霞んでしまった。勿論,アレはあれでとても素晴らしいモノだのに。

『いや、ヤバい!久しぶりですよ、この感覚!』

僕は【オガハウス】で最上級のウールジャケットに袖を通したあの瞬間を思い出し、かの入店試験の話をサラリと披露した。そしてチラリと値札を見遣りながら二回、ゆるりと顎を縦に振って頷いた。なぜならこの椅子、7桁価格の一品だから。

『その手のと同じね。これ以上はないから』

『いや、これは…座っちゃダメだ』

恍惚な悦楽に身動きさえ取れぬまま柔らかく固まった僕に、クラフトコンサートさんはもう一言添える。

『蕎麦宗さん、いくらだったら出せる?在庫品だから特別に〇〇万円ならイイわよ』

すっかり《強欲》に取り憑かれている僕も、さすがに我に帰る。なぜって、値引きされてもあのYチェアが6脚買える価格。テレホンショップみたいに『うわ〜、それってお値打ち〜』とはならない。

『まぁ、ちょっと無理ですけど…いや、欲しいな、〇〇万か〜、いや、イイなぁ』

手持ちがありもしないくせに、買う買わないの逡巡しゅんじゅんもマヌケてる。しかし、ちょいとこれは手に入れたい。そこまで思わせる座り心地、つまり《至極》。そんな悩ましい体験だった。

帰り道。借り物の軽自動車のシートに、肘やお尻・背中に残った感触の反芻を転写して浮かべながら、あの【わらしべ長者物語〜】の東京タワーを想い出し、《欲》に喜んでいるこの自分に重ねた。そして翌日、バイトに入ってくれたyuto君にその話をする。

『宗さん、買っちゃいますね、多分』

と、横でニヤニヤと笑顔を浮かべる大学院生。

『いやぁ、イイなぁ〜!あれ欲しいは!久々のアホな物欲だよ。フェラーリだな、まさに!』

そんなワケで、久しぶりの《欲》と《感激》に心躍ったのでした。うん、いま、ちょっとアレを手にするのは目標です。ひょっこり蕎麦宗に置いてあったら席料upチャージでどうぞ!なんてね。みんなに蕎麦食べに来て貰わなきゃなっ。って《もりそば》何枚分よ(汗)

ははは、ガンバラナシませう。

*ジーパンの…傷などつけないようにするマナー。どんな価格の家具でも売り物は売物。時計とか気をつけましょう。

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ザ・チェアとケネディ
クラフトコンサートさんにあるザ・チェア

#わらしべ長者物語 #ザチェア #欲 #おうち時間の過ごし方


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