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棚からぼた餅、東京オリンピック

目指せスーパースター。蕎麦宗です。

10日ばかし前に、行きつけの三島の名店《BAR AOKI 》に飲みに出かけた。その際ちょうど知人が先客として座っていて、挨拶がわりに東京オリンピックの話題になった。この地、伊豆をはじめ静岡県内はロードレース、トラック、MTB(マウンテンバイク)の3つの自転車競技の会場となっており、しかも他のほとんど競技・種目がコロナ対策とやらで無観客となってしまっている中、すべてを直に見ることができる数少ない機会となっている。

「宗さん、何か観ます?」

僕は自転車好きではあるけれど、血眼にチケット漁ろうとまではさすがにならなかった。開催が決まった時からハスに構えての『オリンピックふ〜ん組』だった。スポーツ観戦も好きだし、超一流のアスリート達が繰り広げる全力の躍動は、勇気やパワーを貰えるので楽しいものだ。ところがオリンピックとなると、理念とは裏腹に政治と商業がべっとりとまとわりついて回る。なので、あの背広組の鼻の下や袖の下を想像して、なんとなく辟易して冷ややかに見てしまう。

「…でも、せっかくだから見に行こうかと思ってますよ。ロードならチケット無くても沿道で観られるし…」

「ただ、ロードは一瞬なんだよな、奴ら速いから。余程の*急登でないと見れない」

マスターのツッコミが入る。

「…となるとトラックも良いけど、周回で見られるMTBが一推しですかね!」

と、知人が言った時に一通のLINEが届いて僕のスマホが光った。

開くと、暫くご無沙汰している浜松在住の自転車仲間からだった。おっ、珍しいなアイツどうしたんだろ?っと思って読んでみると、

『MTBの観戦チケットが1枚余ってるのですが、宗さん観に行きませんか?』

とある。いやいや、なんともタイムリーでグッドタイミングではないですか。

『行く!!』

と一つ返事の返信送ってチケットを入手。値段も知らぬままに購入確定。その他諸々の詳細は後日にして

「青木さん!オリンピックのMTBチケット手に入れちゃいましたよ!」

「はぁあ〜?!」って感じのマスターと、先客の知人に喜びを分かち合って頂いて*《YUMOTO》ラベルのブナハーフンをもう一杯注いで貰った。

こうして2021年7月26日。伊豆市CSC(サイクルスポーツセンター)で開催される、東京オリンピックMTB競技・男子クロスカントリーを観戦することが決まった。つづく

*急登…自転車ロード選手達は平地を時速50km以上で駆け抜けるので眼前は一瞬で通り過ぎる。そこで急な坂であればゆっくり(それでも速いが)じっくり観戦出来るため、人気スポットとなる。

*《YUMOTO》ラベルのブナハーフン…スコッチウィスキーを樽で買い、それによってできた酒にオリジナルのラベルをつけた三島のBARの名店《YUMOTO》のオリジナル。

2021年7月26日。まるで『棚からぼた餅』のように東京オリンピックの観戦チケットを手に入れた僕は、MTB男子XC(クロスカントリー)競技が行われる伊豆市にあるCSC(サイクルスポーツセンター)へと向かった。

CSCまでは日頃のロードバイクのルートとして勝手知ったる道だが、修善寺駅からのシャトルバスにての移動。到着すると検温などのコロナチェックに加えて、手荷物検査などもあった。毒物や爆発物あるいは凶器を持っていないか、などと、まるで空港の搭乗ゲートの様子に似た場所の重々しさを抱えて会場入りした。

検問を抜けるとトヨタの電気カートが出迎えてくれた。距離200mの急坂を登るには歩いても5分。しかし、せっかくの世界的イベントらしさを感じたかったので、そちらに乗って近未来を感じつつスタート付近へと移る。迎って降車した先には、各国選手達の控え室から*固定ローラーでウォーミングアップする音が聞こえてきた。見やるとそこはオランダのルームで、プレファブの窓に有力選手が映った。

「マチューだ‼︎」

今回チケットを用意してくれた友人が静かに、でも興奮して声を上げた。気がついた選手もこちらを見遣る。優勝候補の最有力選手オランダ代表、マチュー・ファン・デル・プールだ。いきなりすごいモノを目の当たりにしてボルテージは高まる。辺りを見渡すと、沢山の人だかりがアップゾーンに視線を送っていて、プラ網で仕切られた向こう側には、アスリート達の緊張感に包まれた様子と余念なく準備する姿が垣間見えた。今回をもって引退が決まっている日本代表の山幸平選手もすぐそこでローラーを回している。中には早々にスタート地点に移動する選手もいる。

それを見て僕らもスタートゲートへ向かうことにした。スタートまであと10分。ひとりひとり名を呼び上げられてコース入りする選手達。同時に真横の巨大なスクリーンにも目の前のその姿が大きく映し出される。過去3度のオリンピックでメダル獲得しているスイス代表のニノ・シューターをはじめ優勝候補達が肩を並べる。皆、驚く程に細い。しかしそれは筋肉の塊だけで作られたブロンズ像のようだった。

15:00きっかり。号砲に引火して暴発したミサイルのように発車する選手達。いや、発射の方が正しい。これからオフロードを30km(獲得標高1500m超)も走るとは思えない勢いだ。選手達がホームストレートから過ぎ去ると、今度は観客達の民族大移動が始まった。

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