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戸締り〜閉店に向けての挨拶回り

 旅するスーパースター、蕎麦宗です。

 物事を終える時、きちんとケジメを付けるのが僕の流儀だ。
 たとえ疎遠になっていたとしても、もし仮に喧嘩別れしたとしても、その時に世話になった事には変わりないのだから、出向かないまでも、せめてたった一言のLINEなりメールなりをする方が良い。と思っているけれど、それはあまり一般的ではないようだ。
 
 ここ数日を使って4カ所へ閉店の挨拶に出向いてきた。
最初は亡き妻の両親。ちょっと遅い時間だったこともあり、

『話したいことがあって』

という出だしに神妙な顔付きだった。話せば僕の事は良く勝手知ったるものなので、店を辞めて新しくやりたい事にチャレンジするのだという話に、応援と花向けの言葉をくれた。
 教員を辞め料理の世界に行く時に、一度目は新婚だったこともあって義父には反対されたが、その一年後にやはり辞意と転職の決意が変わらないことを伝えると、しかと認めて下さった。また、店を開店する時にも色々と力になってくれた。ありがたいことだ。この件は書きかけになっている【僕の蕎麦屋が出来るまで】にて、またそのうち話すとしよう。

 次に、料理を教わった故・菅沼一郎氏(親方)宅へと出向いた。この7月、亡くなってから20年になる。なので久しぶりに線香をあげようと、かつて勤めた懐石・八千代のあった場所へ伺う。
 当時大学生だった娘さんは高一の息子の母となり、女将(親方の奥様)さんは『年金高齢者だよ!』と笑う。親方も生きていたならば65歳。まだまだ料理人としては現役でやれる年齢だから、

『どんな料理をやっているんだろう?!』

と、この20年間の料理や飲食業を取り巻く時代の変化を話しながら語らった。

 次に出向いたのも線香をあげるためで、故・白岩正和氏(オヤジさん)も去年の春に亡くなった。
 僕を懐石・八千代に紹介してくれたのが息子の故・白岩和幸さんで、オヤジさんよりだいぶ早くに50歳前半で亡くなっている。
 それゆえか、ここ何年かは僕を息子のように気にして下さって、どうやら伝えたいことが沢山あるよう。するとサイキックヒーラーの愛守花さんが繋ぎ、メッセージを届けてくれた。彼女の友人のユウコさんも《口貸し》にて手伝ってくれたけれど、今となっては彼女達はもっと崇高な使命のある故か、死者との会話はあまり都合良くないよう。そこで通訳のようにヒカリの存在・トイタが手伝ってくれた。
 オヤジさんは色々と心配してくれていて、料理人を全て辞めてしまうのも勿体ないし、これからのことも力になりたいとも言っているけれど、もうすでにあの世の者。トイタが説得して、僕に対しても

『強く潔く覚悟を持て』

という話で終わった。

 ここまで読んで、随分と身近な人や世話になった人を亡くしているのだな、と思ったことだろう。僕のnoteを初めて読む方は、いつぞや【死について語る】に書いたので読んでいただくとしよう。

 で、最後に出向いたのは浜松のイタリアンレストラン・エッセ。こちらの店主・竹内一文かずふみさんは生きているのでご安心を!
 エッセさんは、かれこれ29年の付き合い。教員を辞め料理の世界に行く一度目の決心の際に、修行させて頂く約束をした店である。結局それは反故にしてしまい、申し訳なかったけれど、それからも足繁く通っている。なぜなら本当に美味しいからで、僕はイタリアンをこの店以外で食べない。
 そんな竹内さんとも料理や飲食業を取り巻く時代の話をした。続いたデフレ。ファミレスや居酒屋チェーン店の一般化と凋落。冷凍食品の進化…etc。それらは日本人の舌(=味覚)や調理への関心に変化の影を落としている。それでも、作り手によって《味》は創られる事に変わりはない。

『結局はセンス*だに』

は、僕が料理の素人だった28歳の頃に竹内さんから聞いたセリフ。料理の世界に入ってプロになり52歳を過ぎた今、僕もおんなじセリフを言えるようになった。

 あと少しで料理人としての蕎麦屋としての毎日は終わりを迎える。それでも、そんなセリフをサラッと言えるようになったのは、ここに挙げたお世話になった方々をはじめ、お客さんや友人知人も含めた沢山の人達のおかげ。ひとえに《感謝》しかありません。
 なので、まだまだあちこちへと挨拶回りに出向くけれど、それはこの長い期間を噛み締めながら振り返ることでもあり、みんなへと感謝を伝えるためでもある。
 新しい場所へと旅立つ前に、今いる所の戸締りをしっかりとする。それはそのまま僕の人生にとっての、大切な心の財産になるだろう。

よし、ガンバラナシませう。

*だに…遠州の方言。○○だよ、という意味で使う。

懐石・八千代のかつての入り口の屏風
エッセさんの前菜スペシャル特盛
浜松の名店イタリアンレストラン・エッセ

#エッセ1992   #感謝 #辞める時も挨拶 #店じまい

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