見出し画像

ロシア・アヴァンギャルド(3)

ロシア革命のスローガンとして、「土地とパンと平和」が掲げられていたといわれています。革命に駆り立てられた人々は普通に食べられるようになりたいと切羽詰まった状況だったと思われます。

ロシアに限らず、日本でも、かつては白米を腹いっぱい食べたいとの話はそこらじゅうであったようです。例えば、世界遺産の富山県五箇村も江戸時代には水田がなく、飢饉になると多くの人が餓死したと聞きます。私は、白米をおなか一杯食べることができる幸せにあらためて感謝したいと思います。

さて、そういった経緯もあり、ソ連邦は当初、人民に食料を供給することが重要課題と考えていたようです。モスクワ市内には、ロシア・アヴァンギャルドが輝いていた時期と同じくして、パンを大量生産できる工場が建設されました。

第5パン工場「Zotov Bakery」
手前の小屋で工場のパンを購入できました。

そうしたパン工場にも魅力的な建物が多くあります。ただ、構成主義というのか微妙なのです。というのも今回紹介する第5パン工場「Zotov Bakery」の設計者G.マルサコフは建築家というよりもプラント設計技師です。(芸術的な観点ではなく、合理的なパン製造工程を目指して設計したと思われます。)しかし、構成主義は装飾を廃して、建築そのものの形が主張する様式と理解すると同一視できるのではないかと思います。

動物園の北側に所在します。

この第5パン工場は、1931年に操業開始し、2007年に発生した火災により閉鎖されました。このパン工場が再建されたとのニュースを目にしました。再建された工場はパンの工場ではなく、映画館や店舗の複合建築とのことです。まさに外観上の意匠が再評価されているとのことです。

真ん中の円筒部分がパン工場の心臓部です。

この第5パン工場は円筒形で、工程を建物内の曲線のコンベアで一回転するとパンが出来上がるという合理的な設計のプラントだったそうです。