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ロシア・アヴァンギャルド(2)

ロシア・アヴァンギャルドは、建築の世界でも花を咲かせました。
1917年に帝政ロシアを打倒する革命を経て成立したソ連邦ですが、1930年代には、すでに革命当初にはあったはずの人民すべてがユートピアを享受するとの理想から乖離をはじめ、ロシア・アヴァンギャルドも同じく衰退していきます。

ロシア・構成主義

ロシア・アヴァンギャルドの建築は構成主義とも呼ばれています。

今回も私独自の見解であり、ロシア構成主義を適切に解説した書籍が多数ありますので、興味のある方は、そちらも参照していただければと思います。(例えば、TOTO出版の「ロシア建築案内」は写真や図、地図が美しく、おすすめです)

構成主義以前のロシア建築は、皇帝や貴族(または一部の経済的成功者や教会)の要望に応じて、ヨーロッパ的な様式や技術の移入とロシア土着の様式とが融合したものとされています。特にロシア的な装飾が豪勢に施されているところに特徴があります。

一方、構成主義は、皇帝や貴族という特権階級のみが享受する建築から人民が広く裨益する建築へという文脈で理解すると理解しやすい気がします。
装飾は簡素であるが、建築物そのものの形が主張しているところに特徴があります。これは、同時代のヨーロッパで新たなムーブメントとなっていたモダニズム建築の影響を強く受けているのですが、モダニズム建築の合理性を追求した機能美とは異なり、余白が存在しているところは、ソ連独自の共産主義的な理想の追求といった気分が独自の香りを醸し出しているのだと思います。

冒頭のとおり、1930年代には、構成主義は衰退し、その後に出てくるのはスターリン個人を崇拝するプロパガンダを前面に押し出した建築へと移行していきます。

ソ連崩壊後、ロシア国内では、構成主義の建築は再評価され、また、世界中でもその評価が高くなっています。

S.ズーエフ・クラブ(単にズーエフ・クラブ)

ガラスの筒が特徴
レスナヤ18は住所を表しています
結構奥行きがあります。中には850人ほど入るホールがあるそうです。

様々な構成主義の建築物が現存しているのですが、今回紹介するのは、I.ゴロソフが設計し、1929年に完成した「S.ズーエフ・クラブ」です。クラブというのは、労働者クラブというのがより正確な呼称で、労働者(=人民)へのプロパガンダや娯楽を提供するホールで、同時代に数多く建設されたそうです。この建物はそうした建築物の中でも高い評価を受けているものです。
角地に建った建物の形は左右対象ではなく、2つの道路に面する角にはこの建物を特徴づけるガラスの円筒があり、この円筒が単に下から上まで一気通貫しているのではなく、地面と平行な箱を貫いているところとその箱の高さのバランスが絶妙だと思います。
中に入ったことはないのですが、TOTO出版のロシア建築案内に載っている写真を見ると内部もたいへん興味深い意匠が各所にあるようです。