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小酒井不木誕生日記念動画あとがき編

こんばんは、定食です。
今回は10月8日に投稿した、作家 小酒井不木の誕生日記念動画のこだわりポイントを書きたいと思います。
※こちらの作品はファンアートとして作成したものになります。
熱く語る故少々脱線しています、ご容赦ください。

同じ動画に対して、3Dモデリングの工夫に焦点をあてて書いた記事はコチラ



作成した動画

内装

今回の作品は不木の書斎を随筆や写真からイメージしながら、3Dモデリングしたものを撮影した。
そのため、まず家具の配置を考える工程から始めた。
今回参考にした随筆は江戸川乱歩『肱掛椅子の凭り心地』と國枝史郎『小酒井不木氏スケッチ』の二つ。

※『肱掛椅子の凭り心地』はKindle等で読める

どちらも不木との暖かい交流が感じられるとてもよい随筆だ。
そして、どちらも書斎についての描写がかなり充実している。詳細であるが故、配置されている家具にまつわるエピソードが一つ一つキラキラと輝いており、読んでいると穏やかな気持ちになれる。是非読んで欲しい。

随筆から伺い知ることのできる不木の人間像も見どころだ。
気立てがよく、人懐こく、思慮深い…。そんな描写が散見される。グロテスクさが印象的な著作とのギャップもまた不木という作家の魅力の一つだろう。
今回の動画でそんな不木の柔和な雰囲気も伝わっていたら良いのだが。
脱線したが、これら2つの随筆と全集等に掲載されている書斎の写真を参考に内装を考察した。

試行錯誤している様子

それでは、各エリアについて述べてゆく。
まず机の置いてあるエリアだが、ここは同じアングルの写真が多く残っている。

よく見る写真と同じ構図で。

不木が使用していた机は、彼の故郷の蟹江町歴史民俗資料館に保存されているらしい。
私はまだ見に行くことが出来ていないため、今回はここも想像だ。國枝史郎の随筆によると「銀行の重役の用いそうな、前脚に引出のあるデスクである。」とのこと。
また、机上が雑然としているという記載もある。実際に残っている写真でも確かに物がやや散らばっている。
更にここで写真を確認する。すると、机の横に設置されている本棚の本も斜めになっていたり、本の上に更に本が縦置きされたりと、物がごちゃりとしている印象だ。
そのため、机にいくつかの紙を散らばらせ、本棚もやや不規則に本を配置した。(絵的なまとまりの為に机の散らかり具合は控えめにしたが、もう少し物があっても良かったかもしれない。)

所々に縦置きの本を用意してみた

次に机の横のストーブ。こちらは石炭ストーブだ。写真は見つけられなかったが、当時の似顔絵(?)に一緒に描かれていたのでそちらのフォルムを参照した。部屋にはもう一つ石油ストーブもあるらしい。
不木に思いを馳せながら、暖かい場所で快適に執筆して欲しいと思いながらポリゴンを割った。
随筆では暑がりな國枝史郎と対照的に、書斎でストーブを焚いている不木の記述がある。そして互いを気遣い室内の温度について攻防を繰り広げる思い出へと続く。体感温度を話題にしたやりとりに、個人的だからこそ等身大の二人を感じられる。私はこの文章が好きだ。

次はどちらの随筆にも登場する、不木の書斎に欠かせない家具、肱掛椅子。
江戸川乱歩の随筆ではタイトルにもなっているこの肱掛椅子。
形状は、横幅より奥行の方が広く、乱歩が椅子の上で三角座りをしても余裕があるほど大きいらしい。座った際に柔らかく受け止めてくれる、ふかふかとした椅子だそうだ。こちらは資料館等で現在見ることは出来ない。本物を見てみたかったものだ。
『小酒井不木全集第一巻』にはそれと思しき椅子が上半分だけ映っている。不木もお気に入りだったのだろうか。
随筆では、より詳しく椅子・不木への記述があり、またここからも乱歩・不木の関係性が感じ取れる文章が展開されている。
國枝史郎の随筆では前述のストーブの話の後の空想(?)に記述がある。
ここで私が少し面白いと感じる点を一つ。この肱掛椅子、不木の座っている回転椅子よりも大きく、立派なのだそうだ。その椅子にどうやら両人とも座っているようなのだがその部分がこれだ。

多くの客は、主人の廻転椅子よりも、ずつと大きく居心地のよさ相な、この肱掛椅子には遠慮をして、態と小さい籐椅子にかけたが、私は背の高い椅子は落ち着きが悪くていやなものだから、いつも無遠慮に居心地のよい肱掛椅子を選んだ。

江戸川乱歩『肱掛椅子の凭り心地』

だが精々三十分ぐらいで、お暇しようと思い乍ら、氏の書斎へ通ったが最後一番可い椅子へ腰を下ろし、四時間ぐらいたてつけに喋舌る、この私の不作法には、済度しがたいものがある。

國枝史郎『小酒井不木氏スケッチ』

理由をつけて肱掛椅子を選ぶ江戸川乱歩に対して、当たり前のように腰を下ろす國枝史郎という対比になっている。両人の行動、思考パターンを少し感じられるように思う。
いずれにせよ、この席は不木の書斎を訪れるものにとって特別な場所だったのではないかと私は感じた。
それに従い、贅沢にポリゴンを使ってなだらかに大きく椅子は作ってみた。
豪華で特別に見えると嬉しい。

不木の机から見た肱掛椅子


背景

背景には星空を配置した。
これは不木が主に執筆していたのは夜中~明け方だったと『人工心臓』のあとがき『真紅の原稿用紙』に情報があったためだ。後ろ姿を描くならば夜中が良いだろうと考えた。


表情
最後に最終カットの不木がこちらに笑いかけるシーンについて記載したい。
こちらは、不木の特徴的な笑顔をイメージして描画してみた。この笑顔に関してもかなり多くの人物が不木との回想で挙げている。いくつか不木の人物評の随筆を読むと大体は記述されているような印象であるから、余程印象的だったのだろう。

顔全体をくしゃくしゃにしながら楽しそうに客人と話す不木。そんな楽しい時間を夢想しながら表情についてもイメージを膨らませることを試みた。現代のように手軽に動画が撮影出来る時代であったなら、その顔も拝見出来たのだろうか。


以上が雑多になってしまったが、今回作成した動画についての説明だ。不木は私にとって特別な作家だ。不木を知り、誕生日を祝う。そんな楽しみを人生にくれた不木に心から感謝したいと思う。

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