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【声劇台本2人用 1:1】座敷わらしの恩返し

あらすじ
ある夜、一郎のもとに座敷わらしと名乗る女の子が尋ねてくる。『一郎さまを億万長者にします』そんな突拍子もない発言からはじまる物語

登場人物(二人)
一郎(一郎N含む):
男、ブラック企業に務めている、喋り方がぶっきらぼう、両親を亡くしている

花子(座敷わらし):
見た目、小学生の女の子
一郎を億万長者にするためにやってきた

台本(20分程度)
アドリブ、改変ご自由に
___________________

ピンポーン

一郎:んん…誰だこんな時間に

ピンポーン

一郎:うるせぇなぁ…

ピンポーン

一郎:クソがっ!一体何時だと思って…って…

花子:すみません、夜分遅くに

一郎:あ?どうしたんだ?こんな夜中にガキが、1人で出歩いちゃだめだろう
親はどうした?

花子:私には親はいません

一郎:は?あー、そうか…悪い

花子:いえ、気にしないでください
貴方は佐藤一郎さまですよね?

一郎:ん?…確かに、俺は佐藤一郎だけど
なんで名前を知ってんだ?

花子:神様から聞いたんです

一郎:神様?どういうこと…
まあ、いいやとにかく交番にいくぞ

花子:いやです

一郎:嫌とかじゃなくて

花子:いやです!!

一郎:しーっ…隣に聞こえるだろ

花子:いやだ!いやだ!いやだ!いやだ!!

一郎:だからうっるせぇ!
どうすればいいんだよ!?

花子:家に入れてください

一郎:え、だってお前小学1年ぐらいだろ?そんなことしたら…未成年者略取…誘拐…逮捕
一郎:いやいやいやいや、まずいって

花子:大声で叫びますよ

一郎:んーあー…わかったよ!しょうがねぇ…とにかく入れ

花子:ありがとうございまーす

一郎:でお前は誰でなんの用で来たんだ?

花子:申し遅れました。私、座敷わらしの花子と申します。神様に名前と住所を教えてもらい一郎さまに恩返しに参りました。

一郎:座敷わらし…神様…恩返し…
ちょっと情報量が多くてわからねぇな
ってか住所って個人情報だだもれじゃねーか

一郎:えっとーお前は座敷わらし…なのか?

花子:えぇ、ほら、このように

一郎:え、えぇ!?浮いた!!マジかよ!!

花子:一郎さまは座敷わらしはご存知でしょうか?

一郎:ん?あ、あぁ、古い家に住んでて
見たやつは幸運になるみたいな感じだろ?

花子:まあ、だいたいそんな感じですね

一郎:その座敷わらしが俺に恩返し?

花子:花子とお呼びください

一郎:あ、あぁ…じゃあ、花子はなんで俺に恩返しなんか

花子:十郎さまはご存知ですよね?

一郎:十郎…あーじいちゃんか、そりゃあ知ってるよ

花子:私は長年十郎さまの家に住んでおりました。

一郎:そうなのか。あーなるほど…だからあんな屋敷や土地をもってたのか

花子:十郎さまには大変お世話になりまして

一郎:じいちゃんが世話?

花子:えぇ、十郎さまは私のことが見えていましたからお話をしたり一緒に食事を取ったりとても楽しく過ごさせてもらいました。

一郎:え? マジか…じいちゃんそんなこと一言も言ってなかったのに

花子:ですが十郎さまは先日お亡くなりになってしまいました。

一郎:あぁ…こないだ、葬式があったばかりだ

花子:私は大変お世話になったのに恩返しができなかったので残念でなりませんでした。

花子:だから孫である一郎さんに恩返しをしようと思い立ち伺ったのです
本当は息子の三郎さんにと思ったのですが残念ながら事故で亡くなっていました。

一郎:俺が小さい頃になもう記憶にも残ってない

花子:一郎さんも妖が見えますよね?

一郎:ん?あ、あぁ…まあな、子供の頃から見えてたよ。うちはそういう家系らしい

一郎:それで、恩返しって何をするんだよ

花子:一郎さんを億万長者にします

一郎:お、億万長者?

花子:(咳払い)カカンッ…ブラック企業に勤めてはや10年、低収入で上司にいびられ彼女もいない

花子:家は郊外の5畳ワンルーム、そして部屋はこの有様…なんと不憫なことでしょうかぁ

一郎:うるせぇな、落語の口上みたいに言いやがって

一郎:この生活に不満は無いわけじゃないけど、仕事はあるし食えていけてるから別にいいんだよ

一郎:億万長者? いつの言葉だよ
全然、現実感ねぇっつーの

花子:はぁー、そんな性格だから
彼女も出来ないんですよ

一郎:はぁ!? うるせぇな!余計なお世話だよ!!

花子:わかりました

一郎:何が?

花子:だらしがない部屋にそのだらしがない風体、まずは一郎さまの生活改善ですね

花子:そうと決まれば、部屋の掃除を…

一郎:お、おい!ち、ちょっとまて!
勝手に何してんだ?

花子:何ってゴミを片付けてるんです

一郎:ゴミって、それは俺の大切なフィギュア…

花子:一郎さま…大切なものだったら床に転がしとかないでください

花子:ほら、さっさと立ってください
片付けますよ

一郎N:それから花子は部屋の掃除を始めた
俺の泣き言にも容赦ない花子はポンポンと俺の集めていたコレクションをゴミ袋に入れていった

一郎N:最初は渋っていた俺だったが最後の方はなされるがまま見ているしかなかった

花子:ふぅーー、とりあえずこんな感じでいいですかね

一郎:ああぁぁ…俺のコレクションが…

花子:すごいスッキリしたじゃないですかぁ!やはり部屋は心を映す鏡と言いますからね!!

花子:これで澱んでいた一郎さまの心も少しは綺麗になるんじゃないですか?

一郎:だれが心が澱んでるだ!?
容赦なく片付けやがってしかも止めようもんならすごい力で突き飛ばされるし、お前ほんとなんなんだよ!!

花子:だから座敷わらしですって
最初から言ってるじゃないですか

一郎:いきなりそんなこと言われたって…

花子:そういえば一郎さま、時間大丈夫なんですか?

一郎:時間?………ってもうこんな時間かよ!!仕事遅刻する!!

花子:一郎さん、一郎さん

一郎:なんだよ!うるせぇな!!

花子:はい、お弁当

一郎:え? なんで…そんな時間なかっただろ?

花子:私は妖ですよ、このくらい朝飯前です。ちなみに中身は一郎さんが好きなハンバーグとポテトサラダですよ

一郎:さ、サンキュー…

花子:それでは、いってらっしゃいませ

一郎:行って…きます

─夜

一郎:はぁーー、疲れたーーー
部長のやろう最後の最後で仕事押し付けやがって

─ドアを開ける

花子:一郎さん、おかえりなさい
遅かったですねー

一郎:おま…まだいたのかよ

花子:まだって、そりゃあ一郎さんを億万長者にしていませんから

花子:ご飯にします?お風呂にします?それともわ・た・し?

一郎:うるせぇな、風呂先はいる

花子:はーい

一郎N:それから座敷わらしとの奇妙な共同生活がはじまった

一郎N:家事をやってくれるのは有難いが朝は叩き起されるし掃除しろだの身だしなみを整えろだの母親がいるみたいではっきり言ってうざい

一郎N:出て行けと言えば「こんな可愛い女の子にそんなこというんですか?」なんてほざきやがる

一郎N:億万長者って言ったってそんな夢みたいな話あるわけないのに

花子:一郎さーん、一郎さーん
起きてくださーい、朝ですよー

一郎:ん…今何時だよ…まだ7時じゃねぇか、今日は休みなんだからゆっくり寝かせてくれよ

花子:朝ごはんせっかく作ったんですから温かいうちに食べてください

一郎:あとで食べるから…寝かせてくれ…ふぁーあ

花子:いいから、はーやーくー!
おーきーてーくーだーさーい!!

一郎:あー!!うるせぇな!!
わかったよ、だからベットを揺らすんじゃねぇ!!

花子:一郎さん、おはようございます
今日は和食にしてみました

一郎:和食? お、鮭に卵焼きに味噌汁、納豆、肉じゃがまであるじゃねぇか

一郎:うまそう…だな

花子:さ、早く食べましょう?

一郎:あ、あぁ…いただきます

花子:はい、召し上がれ

─食事後

一郎:ごちそうさま

花子:お粗末さまでした
花子:さて、一郎さん今日は億万長者への第一歩です

一郎:は?

花子:スポーツニュースを見てください

一郎:だからなんで?

花子:いいから!早く!

一郎:わかったよ、なんだってんだよまったく…んー…有馬記念?

花子:はい!それです!

一郎:もしかして競馬で当てようってのか? やめとけやめとけ、それに今回は予想が難しいって書いてあるぞ

花子:必ず当たるのにやる前からあきらめるんですか?

一郎:必ずって…マジかよ

花子:マジです

一郎:で、何に賭けようってんだよ?

花子:えっとー…このシルバースカイという馬です

一郎:は? 何言ってんだ?こいつ17番人気だぞ

一郎:それにG1とかバンバン出てる馬が他にいるっていうのに

花子:私を信じてください

一郎:ほんとにこいつが来るっていうのか?

花子:はい

一郎:・・・・
花子:・・・・

一郎:あー!わかったよ!信じてやる

花子:ありがとうございます

一郎:で、いくら賭けるんだ?

花子:10万です

一郎:は?なんて?

花子:だから、10万です。あるでしょ?貯金?

一郎:あるって…それ俺のほぼ全財産じゃねぇか!?ってかなんで知ってんだよ

花子:神様から聞きました

一郎:また…神かよ…
一郎:最初は1000円とか5000円とかじゃないのか?千円だとしても30万近くになるぞ

花子:10万賭ければ…3000万です

一郎:・・・・まじか

花子・・・・・

一郎:わかった!わかったよ!!

─数日後

一郎:おい、はじまったぞ

花子:はじまりましたね

一郎:その笑顔はなんだ、俺の全財産がかかってんだぞ

一郎:っておい!もう5番手じゃねぇか?大丈夫なんだよな?

花子:大丈夫ですから、落ち着いてください

一郎:あー!どんどん後ろに下がってく…

花子:大丈夫、大丈夫

一郎:も、もう最終コーナー回ったぞ? これ絶対無理…え? 前の馬転んだぞ…後ろの馬も巻き込まれて…

一郎:あー!来た!!シルバースカイ!! いっけぇぇぇ!!

一郎:・・・・・
一郎:やった…やったぞ…まじできやがった

花子:ね?大丈夫だったでしょ?

一郎:3000万…当たったのか…なんか非現実的な数字でまだ理解が追いつかねぇ

花子:こんなレースもあるんですねぇ

一郎:待てよ…そしたらもう1回この金で当てれば…

花子:それは無理です

一郎:は?なんでだよ?

花子:私の力は1人の人間に対して2回までと決まっています

一郎:だったらもう1回やれば…

花子:ダメです。それにこのあとのレースではあんなハプニングは起こりません

一郎:いいじゃねぇか、なぁ?お前がいれば確実に当たる、だから教えてくれよ?

─花子が一郎に張り手をする

花子:・・・・・

一郎:いってぇ…何すんだよ!!

花子:お金で理性を失ってはいけません、十郎さんにそう教わりませんでしたか?

一郎:・・・・じいちゃん
一郎:そう…だな…わかったよ
一郎:ってか叩かなくてもよくないか?

花子:すみません、つい力が入ってしまいました

一郎:で?あと1回は何に使うんだよ?

花子:ふふふ…それはですね…

─とある日、電車の中

一郎:でだ、俺達はどこに向かってるんだ?

花子:知りたいですか?

一郎:当たり前だろ

花子:んーどうしようかなぁ

一郎:いちいち勿体つけんじゃねぇ!

花子:北海道です

一郎:は?

花子:だから北海道ですって

一郎:北海道に何しに行くんだよ

花子:宝くじを買いに行きます

一郎:宝くじを買いに行く?どういうことだよ?

花子:北海道の網走チャンスセンターに行きます

一郎:あ、網走チャンスセンター?

花子:はーい、ここで乗り換えますよー羽田空港までレッツゴー!!

一郎:おい!ち、ちょっと待て!ちゃんと理由を説明しろー!!

─網走に到着

一郎:ま、ま、ま、ま、じで網走まで来ちまった…し、かし、さ、さ、さ、寒すぎるだろ

花子:そうですか?北海道なんてこんなもんでしょー まあ、私、妖なんで寒さとか感じないんですけどねー

一郎:その笑顔やめろ、むかつく

花子:さぁ、行きますよー
お店は海沿いにあるのでオホーツク海が一望できますよー

一郎:オホーツク海なんか興味ねぇよ
と、と、とにかく行こうぜ…この寒さやばいって

花子:はいはーい

─お店にて

花子:えっとー年末ジャンボ宝くじを1枚くださーい

一郎:1枚だけでいいのかよ

花子:何言ってるんですか?当たると分かってるんですから何枚も買う必要ないでしょう

一郎:まあ、そうか…

花子:さ、帰りますよー!

一郎:え?もう?

花子:そうですよ、明日仕事ですよね?

一郎:そうだけど、流氷とか海鮮とかカニとか!せっかく北海道来たんだからさ!

花子:ダメです、それに今帰らないと東京に戻れません

一郎:まじかよ…じゃあ、なんで今日だったんだよ…

花子:それはこれを買うためです
今日のこの時間じゃないと買えないんですから

一郎:そうかぁ…でもなぁ

花子:はいはい、さっさと帰りますよー!東京へ、レッツゴー!!

一郎:はぁぁー

─当選日

一郎:よしっ…み、見るぞ

花子:はい

一郎:は?1等当たってないじゃ…お!2等当たってる!まじかぁ!!って2等?

花子:はい、2等です

一郎:なんで1等じゃねぇんだよ?10億だぞ?

花子:2等でも1000万ですよ

一郎:まあ、そうだけど…

花子:では、私はこれで

一郎:ちょ、ちょっと待てよ、なんでだよ?

花子:なんでって、力を2回使いましたしお金ももう十分でしょう?

一郎:俺を億万長者にするんじゃなかったのかよ?

花子:あーあれは言葉のあやみたいなものです

花子:それに私の本当の目的は果たされました

一郎:本当の目的?なんだよそれ?

花子:実は私は十郎さんから言伝を預かったのです

花子:『一郎を助けてやってくれ』と

一郎:・・・・・

花子:一郎さま、三郎さまを早くに亡くし、お母様も高校生の時にご病気になって他界されましたよね?

花子:十郎さまはそれを可哀想に思い助けてやれなかったことを悔やんでいました

一郎:俺は別に…

花子:だから、私は来たのです
一郎さまの人生を少しでも助けることが出来るように

花子:以前と比べて今の生活はどうですか?部屋も綺麗になって服装や髪型も整っています

一郎:そ、それはお前がうるさく言うから…

花子:ふふっ…一郎さまは言葉はぶっきらぼうですが優しく、真面目な方だと思います

花子:私の料理を手伝ってくれたり、家事もだんだんと自分から進んでやるようになりました

花子:たぶん、以前は心が混乱していて落ち着かなかったんでしょう

花子:でも、今の一郎さまなら大丈夫です

一郎:そうか…じいちゃんが俺にそんなことを

一郎:花子…

花子:はい

一郎:ありがとう

花子:おやおや、一郎さまからそんな言葉を聞けるとは

一郎:ちっ…うるせぇな

花子:これからは一郎さまが歩いていくのです

花子:一郎さまの人生なのですから

一郎:そうだな…

花子:それでは、改めて私はこれで失礼します

一郎:あ、あぁ…

花子:寂しいですか?

一郎:寂しくなんかねぇよ

花子:ふふっ…

一郎N:微笑むと花子は跡形もなく消えてしまった

一郎N:心が混乱していたのは自分自身でもわかっていた、でもこれからどうするかそんなこと考える余裕がなかった

一郎N:花子が来てくれなかったらたぶん俺はどこかで野垂れ死んでいただろう

一郎:はぁーあ、夕飯の買い出しでも行くかな

一郎N:ふと空を見上げると太陽がゆっくりと沈んでいくところだった、その日の夕日は憂鬱なものではなく希望という光に見えた

一郎:そうだ…じいちゃんに報告しに行かないと…

一郎:口うるさい座敷わらしが来やがったってな


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