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毎週ショートショートnote|残り物には懺悔がある『癒し処 ざんげ』

 
 リハビリ長寿会の友だちから教わったども、傘寿をこえて、わしがやりてぇこたぁ、すべて叶えられる旅館ができた。
   『癒し処 ざんげ』
 食糧危機の時代にふさわしい宿だとか。食事は残り物の料理を再利用。衛生安全面には最大限の配慮がなされる。値段も程よくバランスがええ。
 風呂は小せいくせに洒落た懴悔室が客室に付いてる。一畳ほどの空間で、男でも女でも好みの懺悔師を相手に、女ならではの辛さ、嫁入った時の鬼姑との戦いや涙から、自分の犯した悪さまで、みんなぶちまけられる。
「あんた、行ったのか」って聞くのかい。行かねえわけがない。西島秀俊に似た色男の番頭さんに、戦時中、疎開先の田舎で、生きるために、食うために、わしが体を張って何をしたか、懺悔した。すっきりや。
 わしの残された人生は、まさに残華(ざんげ)。懴悔しなくちゃなんねぇことも、いっぺぇ残ってる。
 大ホールで男女混合懺悔会も開かれるとか。次はそっちに出てみっか。
 


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