逃亡 #2


映画館を出て、ふと海に、砂浜に行こうと思ったので向かうことにした。ここから歩いて向かうと1時間ほどかかる距離だったと思う。途中の道は、いつでも工事をしているから、ルートには確信を持てないけど、日が暮れる前には着くようにと、とりあえず歩き始めた。いつも工事中の場所を通りかかると、そこは綺麗さっぱり何もなくなっている。その先に目をやっても、工事が終わっている箇所だらけだった。私は混乱した。一体何が終わったっていうんだ。これで良いはずがない。ここはいつでも、工事中のはずなんだ。そう思って歩いていると、後ろから真っ黒な車が高速で近づいてきて、私の真横すれすれを通り過ぎていった。瞬時に、危ないだろと声を出そうと思ったが、声を出したところで意味がないなんてことを考えているうちに、車は遠く離れてしまった。しかし数秒後には、そんなことはどうでもよくなっていた。空を見ると、カラスが群れを成して飛んでいる。そのうちの一羽が一瞬こちらを見た後、速度を上げ、そのまま山の影に消えていった。山には白くて大きな犬がいる。私が犬の前を通る時は、いつも涎を垂らしながらこちらをじっと見つめている。犬の飼い主は長身の男で、いつも顔の半分以上を覆う仮面のようなものを付けているので、どんな顔をしているのかはわからない。

白い犬のことを考えながら歩き続けていると、前から歩いてきた老人に話しかけられた。
「どこに行くんだい?」
「海に向かってるんです。海というか、砂浜に。あそこは水平線が見えるでしょう?それがいいんです。不安になるので。白い犬と同じように。」
「そうか。君もクジラを見に行くのか?昨日、大きなクジラが打ち上げられて、多くの人が見物に来ている。あれは良くない。良くないよ。」
老人は少し興奮状態にあるように見えた。
「クジラが打ち上げられたんですか、全く知りませんでしたよ。僕は砂浜に行きたいだけです。」
「そうか、そうか。君は大丈夫そうで、よかったよ。ところで、白い犬ってのは、なんのことだ?」
「白い犬は、白い犬ですよ。山にいて、いつも涎を垂らしながらじっとこちらを見てる。尻尾もやけに短くて、気味が悪いですよ。」
「そうかい。まあ、気をつけて行ってきなさい。」

老人と別れた後、僕は自分が新しい姿になることを歩きながら想像した。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?