会計は嘘をついてはいけない

田中弘先生の『原点復帰の会計学 ――通説を読み直す』に、企業会計原則の真実性の原則は「嘘をついてはいけない」という当たり前なことが書いてある、と書かれています。

真実性の原則は、真実な会計報告を提供することを求めているものであり、その真実は、時代などにより要請されるもので、絶対不変なものではなく、相対的真実とされています。

田中先生は、嘘をついてはいけない、という記述が原則として記載されることはいかがなのか?と問うています。
また、真実性の原則は、他の原則を満たすことで達成される、とされていますが、他の原則を満たさなければ達成されない原則に原則としての意味があるのかも疑問を呈しています。真実性の原則には、存在意義がないのではないか、というのです。これは、、沼田嘉穂先生も『企業会計原則を裁く』で書いています。
そして、目的として標榜する会計の原則としてとらえたとすると、会計がわざわざ原則に真実性を据えている意味は、「現実との照応性があって、さらに利用目的への適合性をもつこと、これが会計という技術が追求すべき真実性ということになろう」と述べています。

また、田中先生は個別一般原則としての真実性の原則を交通法規を例に出して説明しています。真実性の原則は、一般的な事項を規定して、細目を規定しきれなかったり、時代によって変化していくものを埋める一般項としての役割をになっているのではないか、と存在意義を推察しています。安全運転のための規定が多くあるけれど、想定外の変な行動をしたり、技術革新や環境変化によって、規定通りにいかない場合もあります。自動運転車は設定当時は想定されていなかったでしょうし、現在は馬はほとんど使われないため、規定としての意味が薄れてきています。そのような場合に一般的な「安全運転をしましょう」という規定があることで、規則外でも安全運転を心がけることを求めているのです。「企業会計原則の場合には、「法の創造」や「新たな事態に即応した意味」を付与することは、あくまでも企業会計の目的、つまり真実性の原則に照らして行われるべきであり、そこに、真実性の原則に個別一般原則としての役割を見出すことができるのではなかろうか。」と述べています。

そして、「企業会計原則の諸規則について、適否・優劣、現在認められている会計処理・報告の諸方法の適否・優劣などを判断するための基準としての役割」を真実性の原則の第三の役割として挙げています。これは、ピースミール的に形成されてきた会計基準は、真実性と結び付けられてこなかったため、最高規範たる真実性の概念に照らして、最良の原則・基準を選択することで、真実な会計としての側面が担保されるということです。

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