夢の国の思い出

ひとさいさんがディズニーシーに行っていたようで、楽しそうな動画が上がっていた。

僕はディズニーシーに1回だけ行ったことがあるのだけど、一緒に行った人が熱中症になってしまって、結局半日で帰ることになった。コースター系が苦手だから、と言っていたのに、最初から唯一のコースターに乗せられた。まったく、なんていう友達だ。

小さい頃は、両親がずいぶん連れて行ってくれたらしい。貧乏だったから、大変だったと思う。ピノキオの何かに乗っていたらしいのだけど、全然覚えていない。まあ、そういう年齢だったのだけど。

中学高校の時は、友達と遊びに行った。その中でも、よく覚えているのが、ある年の4月2日の出来事。

その日は、株主優待を持っている友達と行く予定だったけれど、その友達が行けなくなった。他にも、何人か来られなくなったので、日を変えることになった。でも、無駄に準備が良かった僕は、自分の前売り券を用意していた。だから、ひとりで行かざるをえなかった。

その日は雨だった。4月にしては寒くて、凍えるようだった。僕はひとりでアトラクションに乗れなくて、ジャズコンボの演奏を聞いたり、あちこち散歩をして、夕方、震えながら帰った。最高につまらなかった。

高校2年の時に、元カップルの仲直りのために、呼ばれた。気まずい思いをした。その時の話は、過去、小説に書いた。

翌週、加奈子が、週末、2人で遊園地へ行こうと言い出した。いつも加奈子とゆきと3人で行っていたから、2人でいくのは新鮮だった。ゆきと僕が避け合って、加奈子が間で困ってたのは知ってたから、きっとその話をしたいんだろうな、と思った。
待ち合わせの駅に行ったら、加奈子とゆきがいた。
「ごめん、ヨーヘイ。ゆきも行くことになった。」
そこから、ずっと気まずい空気が続いた。遊園地の楽しい音楽の中で、この3人のところだけ、時空が歪んでいるように思えた。ゆきと僕は距離をとって話さなかったし、加奈子はその間でひとり空回りしながらしゃべっていた。普段は好き勝手なことして、ゆきと僕を困らせてるのに。
「あれに乗ろう。」
加奈子が指さしたのは、お化け屋敷だった。夢の国の中で、お化け屋敷は、少し異様で、お客さんもあまり、というか誰も並んでいなかった。待機列用の通路をするすると抜けていく。ゆきがカプセルに乗り込んで、その後に僕が乗り込む。後ろを見ると、見知らぬおばさんがいた。
「え?」
疑問に思ってるうちに扉が閉まる。おばさんの後ろで、加奈子が申し訳なさそうに手を合わせていた。

(中略)

お土産売り場で待っていると、加奈子が本当に申し訳なさそうに寄ってきて、開口一番、ごめんと言った。ゆきはにべもない様子で、歩き出す。僕も後に続く。
「ヨーヘイ、あのね、曲がり角のところで、おばさんに抜かれて、抜こうとしてもどうしても抜くところがなくて、本当にごめん」
加奈子の言い訳を聞きながら、怒っているフリをするのは大変だった。ちらっと見ると、ゆきもちょっと笑っているようだった。一通り、加奈子の話を聞いてから、僕は言った。
「分かったけど、ゆき、すごい怒ってるよ」
「え、やっぱりそうだよね……どうしよう……」
加奈子は少し逡巡し、意を決してゆきにあやまりに行く。ゆきの怒ってる演技に困ってる加奈子をみながら、カプセルでゆきの言った言葉を思い出していた。
「洋平くんは加奈子のこと好きでしょ」
そんなこと、考えたこともなかった。ゆきがネタ晴らしをしている。加奈子が安心した表情でゆきとじゃれて、僕にも、満開の笑顔を見せる。好きとかそういうのは分からなかったけど、かわいい、と思った。
それから、遊園地の中のレストランで、夕方まで他愛のない話をした。いつもの3人がそこにはいた。

恋愛の話は無かったのだけど(もう、その時にはふたりとも恋人がいた)、僕は加奈子の立ち位置で、実際にホーンテッドマンションで乗り遅れた。そして、すげー怒られて。まあ、いい思い出です。

ふたりは、いったん仲直りをしたけれど、もう、連絡も取っていないと思う。意外に、僕はみんなの結節点になっている。

その後、結婚式で当たったチケットと忘年会で当たったチケットを足して、で、男4人で行ったりした。まあ、それは楽しかった。

まあ、大人になってからは、全然行かないから、もう覚えてない。大人のディズニーなんてのもいろいろあるけれど、まあ、僕の中では、子どもの頃の思い出。いつか、また行く事もあるのだろうか。

夢の国なんて言われる。夢。幼い頃の。そして、大人になっていく、その過程の。両親の愛や友情や、そういう、いろいろがぐちゃぐちゃに入り混じった、遠い記憶の中の夢。

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